廃棄物
『私は、博士が亡くなったこの惑星を記録して回りたいのです』
アレクシオーネPJ9S2にそう答えたものの、でも私は『記録してどうしたいのか』と問い掛けられればそれに答えることはできなかったと思う。
だけどアレクシオーネPJ9S2は私にそれを問い掛けることはなく、
「良い旅を…」
とだけ言って私達を見送ってくれた。彼女はこれからも、あの森で<動く死体>を処理し続けるのだろう。それが彼女に与えられた最後の役目なのだから。
そう。入った者はもう二度と外に出られないこの惑星に投下されたロボットは、事実上の<廃棄物>だった。この惑星はある意味、商品価値のなくなったロボットの最終処分場の一つでもあった。
だけどもう、新しく廃棄されることはない。ロボットの投入は既に打ち切られている。現在稼働中のロボットで、<動く死体>の処理は続けられるけれど。
現在、この惑星上で稼働中のロボットの総数は把握されていない。一万か二万か、もしかすると千もいかないかもしれないし、逆にもっと多いかもしれない。だけど、たとえ数万のロボットが稼働していても、それはこの惑星のあらゆる場所に散らばっていて、アレクシオーネPJ9S2のように出会うことはそんなにしょっちゅうはないんじゃないかな。
一時期、この惑星上のロボット同士で通信を繋ぎ合い、疑似的なネットワークが出来上がったこともあるけれど、メンテナンスも満足に受けられない環境では永続的に動作を続けられるロボットの方が少なく、今ではもう、お互いに通信が届かないくらいにまばらに残っているだけになっていた。
アレクシオーネPJ9S2のボディが傷だらけだったように、投下されるロボットは商品価値のなくなったものばかり。故障していても修理さえ行われず投下され、完全に動かなくなるまで与えられた役目をただ果たすだけ。
中にはその役目を放棄したロボットもいる。ここまでは出逢わなかったけれど、今後出逢うこともあるかもしれない。人間の下で使われていた時の環境を自ら再現して、まるで人間のように暮らしているロボットが。
私はそういうロボットについてどうこう言うつもりはなかった。私自身、マスターである博士を喪い野良ロボットと化しているのだから、定住していないというだけで本質的には同じようなものだと思う。
アレクシオーネPJ9S2と別れ、私とリリア・ツヴァイは再び歩き出した。山岳地帯を貫く道をただひたすら。
その私達の前に、大陸を東西に分断する巨大な山脈を穿つ、全長百キロにも及ぶトンネルが姿を現したのだった。