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ロボ娘のち少女、ときどきゾンビ  作者: 京衛武百十
リリアテレサの章
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川と豚

日が落ちるまでにはまだ少し時間はあるけれど、今日はもうこのコンビニで夜を明かすことにした。この先にもコンビニがある筈だけれど、地図情報があまり当てにならないと確認できたので念の為だ。


せっかくだし、コンビニの裏の林に少し足を踏み入れてみる。そこには小さな川が流れていた。澄んだ水が流れていて、小さな魚の姿も見える。ここまで小さい魚だとあの病も関係なかった。ネズミよりも大きな脳を持つ動物なら、たとえ水生動物であってもあの病は発症する。もっとも、動きが遅くてかつよく動く生き物が豊富なところでないと食料が確保できないから、水生動物の<動く死体>はその殆どが割と早いうちに活動を停止したと思われてる。動きの速い生き物は捕らえられないし、動かない生き物は襲わないから。


さすがにこんな小さな川に住む生き物にはそんなに大きなのはいないから、関係はないと思うけど。


でも、川辺に住む動物には関係あったのか。


「野ブタ…?」


リリア・ツヴァイが川の向こうの木の陰から現れたものを見てそう呟いた。それは、地球にいる野生の豚に似た生き物だった。中型犬くらいの大きさで、のそのそと動いて私達の方に近付いてくる。でも、川に入った途端、流れに足を取られて成す術なく流されていった。動きが遅くて逆らえないんだ。


「……」


取り出した拳銃を構えたまま、私もそれを呆然と眺めてしまった。本当に知能と言えるものがないのがよく分かる光景だった。


あいつらには知能がない。学習能力がない。ドアを開けることも、階段を上ることさえできない。階段の段差につまずいて倒れてもそのまま立ち上がろうとするので何度でも段差でつまずいて倒れる。それを延々と繰り返す。階段を這って上るということすら思い付かない。生き物としてはどうしようもない<欠陥品>。


どうしてそんな意味不明な生き物を作り出すようなウイルス(のようなもの)が存在するのかは、今でも判明していない。博士もそれを研究していたけれど、はるか昔にこの惑星に存在した文明によって生み出された生物兵器の類と推測されただけでそれ以上は分からなかった。博士自身、そのウイルス(のようなもの)の出自にはさほど興味がなかったらしい。


「流されてったね……」


野ブタに似た動く死体の姿が完全に見えなくなるまで見送ったリリア・ツヴァイがまた呟いた。


「流されていったな……」


私も仕方なくそう応える。


まるでコントのようなその光景をどう捉えるべきか分からずに、私と彼女は植物の匂いが充満する林の中で、ただ佇んでいたのだった。



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