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ロボ娘のち少女、ときどきゾンビ  作者: 京衛武百十
リリアテレサの章
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惨劇

土砂降りと言うのも生温いような、文字通り<滝のような雨>だった。バスの車体を激しい雨が叩く音に閉ざされた空間で、私とリリア・ツヴァイはただ雨が過ぎるのを待っていた。


まるで日没直後のように暗いけど、私のカメラにとっては特に問題はない。改めて車内を見回すと、ところどころに黒い跡がある。それが血痕であることは疑う余地もなかった。


人間を<動く死体>に変えてしまう病は、早ければ数十分、遅くとも数日中には発症し、死ぬ。死ねばすぐさま<動く死体>と化して、動いている生き物を無差別に襲い食らう。このバスの中でも、最終的には全員が発症した筈だけど、それには時間差があっただろうから、先に発症した者が、まだ発症していなかった者を襲ったのだろう。


その際にこの狭い空間の中で繰り広げられた光景は、人間が言うところの<地獄絵図>そのものだったに違いない。


もし、私がその場にいたとしたら、どうしただろうか?


実際、引率の教師のサポートとしてメイトギアが同乗していた可能性はある。そのメイトギアはかかる事態にどのように対処したのだろうか。


まずは、発症し苦痛を訴える人間を介抱しようとしたに違いない。最初の発症者がドライバーか児童か引率の教師かは分からないにしても、すぐさま対処しただろう。


けれどもそれは何の効果も発揮せず、しかも次々と発症し、処理能力を超えオーバーフローを起こしたかもしれない。しかし状況はさらに進み、死亡した人間が<動く死体>となって、発症前の人間達に襲い掛かった筈だ。もしメイトギアが動けていたのなら、発症前の人間を守ろうとした可能性はある。


ただ、その時点ではこの病の存在は知られていなかったから、人間としてのバイタルサインは検出できない<動く死体>をロボットはどのように判断するべきか、そこでも情報処理が混乱したことが窺える。死体が動くなど、本来は有り得ないのだから。


動いている以上は人間として見做したとすれば保護の対象になる。攻撃はできない。私があいつらを攻撃できるのは、その病を知っていて、発症者は人間じゃないことを知っているからだ。とすれば、動く死体と発症前の人間との間に立ち塞がって、自分が攻撃を受けた可能性がある。


あいつらは生きていた時のような無意識の力のセーブを行わないから、その体が発揮できるフルパワーでもって攻撃してくる。動きは緩慢だけど、力は強い。一般仕様のメイトギアにも匹敵する力を発揮する事例もある。


だけど、ここにはメイトギアの残骸はなかった。だから完全には破壊されなかったんだろうな。でも結局は全員発症し、餌と間違われて延々と襲われた筈のメイトギアは、何を思っていたんだろうか……



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