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ロボ娘のち少女、ときどきゾンビ  作者: 京衛武百十
リリアテレサの章
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ふたり

「足痛い…」


そう言って立ち止まった、十二歳くらいの外見をした黒い髪の彼女を、私は振り返って見た。まったく、まだ半日しか歩いてないわよ。ホント、人間の体って脆弱で煩わしい。


しかも喉も乾いてるし空腹感もある。警告なのか不可解な焦燥感が突きあげてくるのが分かる。水分と食事が必要か。すると私の地図情報に、コンビニエンスストアが引っかかってきた。


「しょうがない。背負っていくか」


私は、自分と殆ど背丈の変わらない彼女の体を背負って、そこからさらに三十分歩いた。他に人家も見当たらない、ただただ視界が開けているだけの、集落と集落を結ぶ幹線道路。もう自動車も通ることのないそこをとぼとぼと進む。


私の体は機械だから、疲れることはない。心もないから苦痛は感じない。ただ、余計な手間を掛けられるとそれを『煩わしい』と人間が称するのは知っている。


そんな私の視界の先に、ぽつんと忘れ去られたかのように佇む一軒の店舗が見えた。急速充電スタンドが併設されたコンビニエンスストアだ。


そこまで歩くと、私は彼女を下した。でももう満足に立ち上がることもできないようだったから店の前に彼女を残して私は中に入っていった。


けれど、店内にも人の気配はない。照明も点いてるし冷蔵庫も動いてるけど、従業員の姿さえない。ただ床に、人の形に埃のようなものが積もっているのが見えた。私はそれが何か知っているけれど、敢えて無視して店内を物色する。


私の名前はリリアテレサ。正式にはリリアJS605sという。一般的には<メイトギア>と称される種類のロボットの一台だ。


人間に似た外見とメイドを模したデザインが施され、人間の生活全般のサポートをするのが私達メイトギアの役目だった。


本来は。


もっとも、私は今、その役目を放棄して、彼女、リリア・ツヴァイと一緒に旅をしている。


リリア・ツヴァイは、生身だけれど正確には<人間>じゃない。その辺りの説明は面倒だからおいおいするとして、今はとにかく水と食料だ。


水は冷蔵庫の中にあったミネラルウォーターでいいか。食料は、生鮮食品や弁当類やパン類はもう既におよそ人体が摂取するには適さないものに変わり果てているから、エネルギーバーを手に取ってリリア・ツヴァイの元に戻って手渡す。


それを受け取ると彼女は躊躇うことなく包みを破って中身を口に押し込んだ。賞味期限はとうの昔に過ぎているけれど、彼女なら別に問題ないだろう。ムシャムシャと頬張ってミネラルウォーターも口に含んでごくりと飲み下した。


エネルギーはともかく水分はすぐさま吸収されるのが分かる。


「ふう…」


と彼女は溜息を吐いて私を見上げた。その目に生気が戻ってきてるのを確認し、私は「やれやれ」と声を漏らす。


それから私はコンビニに併設された充電スタンドに行き、自らの充電を行う。私達メイトギアは、通常ならフル充電で一ヶ月は問題なく活動することができる。そして、ここのようにアミダ・リアクターを備えた店舗などなら無料で好きなだけ充電が可能だった。


アミダ・リアクターとは、人類の発明品でも最も新しいものの部類に入る、まだ数百年前(正確な時期は資料によってまちまちなので曖昧)に実用化されたばかりの、当時は画期的ともてはやされた電源だ。放射性同位体の放射線崩壊そのものから電気を得るというもので、一見すると<原子力電池>と呼ばれるものと似ているけれど、それらとは効率も発電能力も全く桁違いの、十分な量で半減期の長い放射性同位体を用いれば、理論上は数万年に亘って電気を得られるというものだった。


最初期のものは一般的な住宅を上回る大きさの装置だったそうだけれど、現在では小型化効率化低コスト化が進み、自動車くらいの大きさがあるものなら十分に搭載できて、店舗や住宅にも当たり前のように備え付けられるようになっていた。このコンビニの照明が点きっぱなし冷蔵庫もそのままというのはそのおかげだ。リアクター自体が百年単位でメンテナンスフリーだし。


なのでもう、普及が進んで発明当時のようなありがたみは薄れてるようだ。今後数百年以内にはさらに改良が進んで私達のようなロボットにさえ搭載されて充電が不要になるとも言われていた。まあ、さすがにそれまでは私も稼働していないと思う。


私自身、一号機がロールアウトしたのは百二十八年前(記録が正確ならば)だし。


十二歳程度の人間の少女の平均的な外見を与えられた私は、販売当初はニッチなニーズに合致して経営不振にあえいでいたメーカーを再浮上させる程度には人気も出たらしいけど、二匹目のどじょうを狙った競合他社が次々と同様のコンセプトのメイトギアを発売したことで供給過剰となり市場が崩壊。結果として私を作ったメーカーすら路線転換して後継機は作られずじまいだった。


なんてことを、充電しながら考えてる間、リリア・ツヴァイはコンビニの店内で勝手に商品を漁りながら涼んでいた。


だけどその時、私の中に警告信号が奔る。


「!?」


私は急速充電用のソケットを抜き取ってコンビニへと走った。すると店内には、映画などで良く出てくる<ゾンビ>と称されるクリーチャーに襲われるリリア・ツヴァイの姿があった。


ああもう! この程度にも自力で対処できないとか、本当に煩わしい!!


私は日用品が並べられていたコーナーから包丁を手に取って、パッケージに入ったままのそれを<ゾンビ>の頭に一切の手加減なく突き立てた。


見た目には子供のような私でも、体重百キロ程度の人間なら問題なく抱えあげられるだけのパワーはある。動く死体の頭に包丁を突き立てる程度のことは苦も無くできるのだった。



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