追うもの追われるもの
どうやって切り開くかなんて想像がつかないが助けてくれた仲間を信頼できない程終わってはいない。
だから信じて突っ込む
そう考え頭の中をどうやってゴブリンキングに衝撃杭を当てるかに切り替えた。
自分で編み出した技だけに使い勝手の悪さは認識しているつもりだ。
左手で相手を捉え右手で撃ち込む。簡単に言えば出来そうではあるが、動き回る相手や近距離の時には動作が大き過ぎる。それと貫通力があるため、その射線上に味方がいれば巻き込んでしまう恐れも否めない。
チラッと上空を見上げると俺の左側上空をシーラは飛んでおり、後ろを見れば少し離れた所をアルモが追走してきている。これでゴブリンキングの後ろと右側からの選択肢は完全になくなった。
ゴブリンキングはさっきから動く気配は無さ気だが、手に持つ剣の柄を壊れそうな程握りしてめている。ダメージが残っていて足に来ているのだろう。だからこそ一薙ぎで葬る算段をつけていると予測を立てた。
俺と同じ事を考えていることにうっすら口角が上がっていくのを止められない。
「上等」
一撃をもって殺るか殺られるかそれに乗ることにした。
丘を駆け降り、上空からの衝撃杭で倒したゴブリンとかまくらの残骸の間を抜けて眼前のゴブリンキングへと迫る。未だに構えを見せずただまっしぐらに走ってくる獲物を両断するべくゴブリンキングがその剣を両手で上段に構える。
その瞬間に脩司はフッと急にスピードを落とした。
突っ込んでくると思っていた標的がスピードを緩めたことで距離感が若干狂ったゴブリンキングに今度は上空からシーラの魔法が襲い、ギロッとシーラを睨み付けたが、シーラは恐れるどころか不敵な笑みを浮かべていた。
それを見たゴブリンキングはすぐに目線を俺達へ向けると左右に小刻みに揺れながらも既に懐まで飛び込んで来ていた脩司に面食らう形となり、力が込められない格好で剣を振り下ろしてくる。
「それは悪手だな」
難なく右へ避け、ここで初めて衝撃杭の構えを見せると焦ったゴブリンキングは横薙ぎで俺を遠ざけようとしたが、それを詠んでいた脩司は上体を屈め、回り込むようにして左側へ移る。
払い除けようとさらに剣を振り回そうとするが、その右腕に後ろからスピードに乗ったアルモの槍が深々と突き刺さる。さらには下へ切り裂きゴブリンキングの肩を踏み台にしアルモは勢い良く離れていった。
「ゴアアァァァァ」
的確に筋を貫いたアルモの槍に剣を持てなくなったのが悲鳴を上げつつ、剣を手放すゴブリンキング
それが運の尽き、左のわき腹にトンッと軽い衝撃受けた後ゴブリンキングは断末魔をあげることさえ許されないまま上半身を吹き飛ばされた。
衝撃杭の影響でざわざわと木々が揺れるなか残った下半身が力なく倒れていき、ようやく決着が着いたのだと安堵できた。
「ふぅ~~しんどっ」
安心しきってその場に座り込んでしまった脩司の所へシーラ達も戻ってくる。
「すごいすごーい威力ー。シュウジー今なにしたのー」
子供の様に目を輝かせて聞いてくるシーラに
「その前の動きはなんだったのですか?ああいうことをやるなら前もって言って頂かないと!合わせる方の身にもなってほしいものです」
御冠のアルモがいた。
それだけでなんだから笑えてくる。
「ど、どうしたのー?頭でもうったー?」
「違いますよシーラ様。元々この男はおかしんです」
一頻り笑い呼吸を整えながらも
「ふぅ・・いやなに、やっぱり仲間っていいもんだなって思ってさ」
「?何を当たり前なことを言ってるのー?」
「ははっ違いないや」
「それよりも説明が終わっていませんよ!」
御冠のアルモさんは手厳しいことで・・・
◇◆◇◆◇◆◇◆
質問攻めになるも何とか納得してもらえる様に説明するのは戦闘以上に疲れた。傷口が既にかさぶたになっているくらい時間がかかってしまった。
「チェンジオブペースにクロスオーバー、ユーロステップなんて聞いたこともありませんでしたね」
「要するに相手を一瞬だけ惑わせたら良いって方法さ」
『大根役者ここに極めりだな』
「うっせぇ、初見殺しだけだから当たらなくても問題ねぇんだよ」
本当はもっと意味があるんだけど、さっきの動きに使ったバスケの技を説明したらなんだか難しい顔をしてるアルモには止めておこうと思う。
「シュウジーはいつも私を驚かせてくれるねー」
「そうか?」
「そうだよー。こんなに楽しい時間がパーティーで冒険者をやる醍醐味なのかもしれないねー?」
「・・・かもな」
後ろ手を組んで笑顔のシーラに釣られ微笑んだ。
「おーあれはゴドウィンさん達じゃないー?おーいーゴドウィンさーんー」
周囲を警戒しながらこっちへ向かってくる一行を見つけ、大きく手を振ってアピールを始めるシーラ。それを見つけた冒険者がゴドウィンに話しかけ、ゴドウィンもこちらに気がついたようで足早に近づいてきた。
「オメーら無事だったか。嬢ちゃんが知らせに来たときにゃかなり焦ったぞ!それでゴブリンキングは何処だ?」
座り込んだまま近くに転がっている下半身を無言で指差すとゴドウィンも言葉が出てこないみたいだ。代わりに数人の冒険者がざわざわしている。
「・・・ホントにあれを倒したってぇのか?嘘じゃねぇよな!?」
状況が呑み込めていないのであわてふためくゴドウィンのツルツルの頭からは冷や汗が流れ落ちていく。
「本当だ!でなきゃここまでボロボロにされてないさ。回りも良く見ろそこら中に他のゴブリンの残骸もあるだろ?ギルマスなら見比べたら解るだろ?」
「そりゃそうだがよぉ・・・まだ、信じられなくてよぉ」
「無理もないが事実、俺達ネスポルネが打ち倒した。報酬は期待してるからなゴドウィン」
俺達はしてやったりの顔でそう言うと
「・・・はぁ~しゃーねぇなぁ。信じるっきゃねぇわ。おう!オメーらここのゴブリンの数を正確に数えとけ!緊急出動だった報酬分は働いて貰うぞ」
もうここには敵となる魔物はいないと判断し、連れてきた冒険者に指示を出す。
脩司はそんな様子を見て本当にギルマスなんだと感心していると不意にビー玉が近寄って来たかと思えば体に吸い込まれていった。
「うおっ!?なん・・・」
言葉にするよりも早く頭の中に地図とその場の意味を明確に理解した。
「あのクソジジィ共の仕業だな」
怒りをダレスとバレズに向けるが疑問が残る。誰がここまで・・・
「Freeze!!」
その考えは後頭部に当てられた冷たい感触とこっちへ来てから耳にしていなかった英語に止められざる得なかった。