敗けから学ぶもの
宿へ戻ると夕飯の仕度ができており、直ぐに食べることができた。チロフと呼ばれるボルシチによく似た料理とパンだったが素材の旨味がスープにしっかり出ていてとても旨かった。食事を終えて部屋に戻り、明日はギルドに行って初めて依頼を受ける旨を伝えるとシーラが大はしゃぎしている時にタイミングよくサービス分のお湯の入った桶を持った女将さんが来てくれたので俺は二人が身体を拭き終わるまで1階の食堂で時間を潰すことにした。
水を1杯頼みカウンターで一人で飲んでいるうちに酔っぱらった冒険者に絡まれるのがテンプレだよなとか考えていると身体を拭き終わったシーラが降りてきた。
「女将さん温かいミルク1つちょうだいー」
「そんなもんないよ、冷たいミルクで我慢しな」
出されたミルクを半分くらい一気に飲み
「さっぱりしたあとはやっぱりコレだねー」
「ははっそれ、すげえよく分かる。何でか知らないけど無性に飲みたくなるんだよな」
「ですねー。いつも以上に美味しく感じますー。もうすぐアルちゃんも来るはずですから、そうしたら今度はシュウジが拭いて来ると良いよー」
「んー俺はいいや。まだやることあるから、その後にする」
「なにか足りないことってありましたっけー?」
明日の準備は万端にしたはずなのに何か洩れがあるのかと急に不安顔になっていくシーラ
「俺はコレを慣らしに行こうかとおもってるんだ。流石にいきなり実践するほど命知らずじゃないからさ」
そう言いつつ懐にしまっていたシーラが選んでくれた仮面を取り出す。
数回着けてみたが、どうにも視野が狭くなり対応が少し遅れることが明白だったためだ。
「それなら私も付き合いますよー?」
「そいつは駄目だ。今までちゃんとしたところで寝てなかったろ?自分では気が付かないくらい疲労が溜まってる可能性がある。だから今日はベッドでしっかり休め」
「で、でもー」
「心配してくれるのは嬉しいけど、休める内に休むのも冒険者として必要なことだと思うぞ?」
それらしいことを廻から借りて読んだ小説に載ってたのを思いだし、その一文をちょっと拝借してみた。
「む~っ分かったよー、次の機会があれば手伝うからねー。異論は認めないよー」
「りょーかいだ。その時は頼むな」
隣に座っているシーラの頭を軽くポンポンすると顔が真っ赤になっていく。
「ん?どうした?」
「にゃ、にゃんでもないにょー。──アルちゃんもうそろそろ終わる頃だから戻るねー」
残ったミルクを飲み干すとバタバタと階段をかけあがっていってしまった。それを見送ると俺も水を飲み干し、女将さんにコップを渡すついでに少し出てくると告げ宿を離れた。
このトミナは壁に囲まれた街で東西南北に1つずつ門がある。その壁の高さは3メートル程だ。東側から街の外へ出るために門へ向かうが案の定閉められており、交渉してみたが門番の話だと明日の朝までは開門しないそうだ。
仕方がないので人目につきにくい場所を探し仮面を着けると身体強化を使い壁を越えた。登る際に結構激しく動いたが仮面はずれることはなくそのまま少し離れた草原まで駆けていけた。
「この辺でいいな」
『夜中に抜け出して何やるつもりなんだ?』
「ん?ただの訓練に決まってるだろ」
久しぶりにベルガの声を聞いた気もするが、時間はあるようでないためサラッとした返答だけを返した。
コドドに敗けたときステータスの値が高ければ余裕だろうと高を括っていたのを痛感している。いくら能力が高かろうとそれを使いこなせなければ意味をなさない。これからやるのは正しくそこの部分になる。
未だに不完全な魔力具現化に自身の攻撃のバリエーションと一番大事な防御など数えると頭が痛くなるほど先は長い
「はぁ~考えてても仕方ねぇや。さて、気合い入れて頑張りますかね」
やっと普通位の文字数に帰ってきました。
というのは冗談で単純にキリが良かっただけです。