トミナの日常④
油断していたらもうこんな時間に・・・
遅くなってすみません
ギルドで一悶着あったが無事(?)解決し、俺たちはリズさんから紹介してもらった宿屋『鳩の羽休め』に到着した。宿からは良い匂いが漂っていてまともな食事をしていない俺の期待値は絶賛うなぎ登りだ。
「いらっしゃい。泊まりかい?それとも食事?両方だったら体を拭く分はサービスするよ」
出迎えてくれたのは恰幅の良い四十代女性だった。
「両方でお願いできますか?部屋は二人部屋と一人部屋1つずつで」
「はいよ。でもごめんね、今空いてる部屋が二人部屋1つしかないんだよ、それでもいいかい?」
「えぇっ!?」
それはマズい。年頃の女の子と同じ部屋なんていいわけないだろ。とにかくそれはNGだ。
「二人部屋に三人でいいですよー」
「ちょ・・シーラさん?」
「何を悩んでいるんですー?夜営だってしましたし、コドドの所では一緒に寝てたのと変わらないじゃないですかー」
それはそうなんだけど、あの時は逃げるのに必死だっただけで・・・!!─そうだアルモなら嫌がって別々にしてくれるはず。そう考えアルモへ救済の視線を送る。その視線を感じ取ってくれたアルモから
「そうですね、問題ありません」
ホワァァァァァァイ!!何故だ。何故なんだ。アルモさぁぁぁぁぁん。違うでしょうがぁぁぁぁここは嫌らしい視線に耐えられないからとか色々あるでしょうにぃぃぃ
俺が口をあんぐり開けたまま固まっていることを良いことに二人はどんどん話を決めて部屋の鍵を持って笑いながら階段を上がっていった。
「お~い、あんちゃんしっかりおしよ」
「────はっ!?」
そう言っておばさんに肩を叩かれやっと現実世界へ帰還できた。
「その様子じゃさっきの話を聞いてなかったろ?宿泊と食事込みで1泊大銅貨4枚だよ。食事は朝と晩に一回ずつだからね。部屋は2階の一番奥さ。後でサービス分は運ぶから楽しみにしといで」
「何度も説明してもらってすいません」
「良いってことさ。それとあんちゃん、その左手の怪我はほっといたら悪化しちまうよ。部屋に包帯と薬草もってってやるから巻いときな」
「あ、ありがとうございます」
「いいってことさ。けど追加料金は貰うよ。はっはははは」
「あ、あははは」
商売に関しては女将さんの方が上手だ。苦笑いしか出てこない俺の耳元に顔を近づけてきた女将さんから小声で
「それとね。・・・うちの宿は壁が薄いから気を付けるんだよ。若いからって頑張りすぎちゃいけないよ」
「ブフゥ!!ちが、違いますから。俺らそんな関係じゃないですよ!」
俺の慌てて否定する顔が面白いのか大笑いする女将さんは「さっさとキメちまいな」っと豪快に言い放ち調理場の方へ立ち去っていった。人の気も知らないで・・・絶対あの人「昨日はお楽しみだったねぇ」とかいうつもりだろうな。
重い足取りで階段を上がり、部屋をノックしてアルモに招き入れてもらい近くの椅子に腰掛けた。シーラに至っては既にまったり寛いでいる。文句はあるが決まってしまったことをグジグジ言うのもなんなので次にやることを相談することにした。
「少し休んだら買い物にいこうか。アルモの武器に俺たちの服、それ以外ではなにか欲しいものはある?」
「うーん、そうだなー。回復薬関連は必要だと思うよー」
「私の服はいりませんが裁縫道具と生地がほしいです」
「ほいほい、回復薬に裁縫セットね・・・・裁縫!?」
「??──何を驚いているのかは知りませんが、如何わしい視線をこちらに向けないでもらえますか」
oh・・・ここでアルモ節炸裂するのかぃ・・・・
「いや・・言葉悪くなっちゃうけど、意外だなって思ってさ」
「私は旦那様の使用人ですから家事全般は心得ております。それに私が着ている服は全て自作の物ですよ」
「おぉそれはすげぇ」
「ほんとだねー。アルちゃん時間がある時に私にも教えてー」
「畏まりました。では裁縫道具を2つ所望します」
「了解。・・後は実際に見に行ってから決めようか」
「はーい、それじゃ早速出発だー!!」
勢い良く部屋を飛び出したシーラを追って俺たちも宿を離れた。もちろん女将さんへ外出する旨と戻ってから食事とサービス分を頼んで
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リズさんの紹介してくれた店は本当に当たりだと思うところばかりでお手頃な価格で必要な物は大体集めることができ、残すは武器と防具のみだ。アルモの曰くこの服が戦闘服でもあるのでそこまで必要ないというのだが、なんとかシーラを味方につけて装備店まで引っ張ってきた。
「紹介された店はこの店だけど、これやってるか?」
「見た目で判断してはいけませんよー。こういう場合は中身が凄いことが多いですからー」
「それもそうだな。うし、それじゃいきますか」
シーラの言った通りボロボロの外観とはうって代わり店内は小規模だったが小まめに掃除されていてるし、並べられている商品も綺麗に磨きあげられている。俺に武器の良し悪しは判らないが研ぎが良いのだけは直ぐに判断できた。
「あっ─い、いらっしゃいまちぇ、本日はなにかお探しでしょうか?」
店の奥から十代半ば位に見える少年が緊張しているのか真っ赤な顔をしながら声をかけてきた。
「お邪魔しています。武器と防具を探しに・・・ただ余り懐に余裕がないので見るだけになるかもしれないです」
さっき値札を見た限りかなりの価格が提示されていた。
「それでしたらあちらだとお安くなっています」
少年の言葉を目敏く耳にしたシーラはアルモを引っ張り、整理された場所から少し雑に重ねられた商品の所へ行くと手当たり次第漁り始めた。
「・・・なんかすみません」
その光景がテレビなんかで見かけるスーパーやデパートのタイムセールでの熾烈な争いのようにしか見えず、意図せずお詫びの言葉が口からでていた。彼処へ突っ込んでいく勇気はないので少年と話をして時間を潰すことにした。その改があってか真っ赤な顔をしていたが次第に馴れて普段通りに戻っていった。
しばらく立つと一通り目を通し終えたシーラが手に気に入った短剣2本とクロススピアーを握りしめ満面の笑みでこっちにきた。
「いやー頑張った甲斐があったよー。良い商品見つけたからねー」
本当俺には幾つもの戦場を駆け抜けてきた歴代の強者にしか見えないわ・・・
「それとこの仮面はシュウジの分だよー。流石に目の傷をそのままっていう訳にはいかないでしょ?」
脇に抱えていた仮面をシーラから受け取ってまじまじと見つめる。白を基調とした目と鼻それと口元に当たる部分が空いていて顔全体を隠せるタイプのものだ。なのだか
「この仮面って・・・ピエロやん!」
鼻を除いた所が半月型にくり貫かれていてご丁寧に化粧まで施されていた。
「その仮面は大道芸をやっていた方が引退するときに処分していった魔道具です」
「コレ魔道具なの!?」
「はい。魔力を通すことで形を変えられるというものなので顔半分だけ覆うことや逆に塞ぐこともできますよ。更に着けた人の顔の型に変化してくれる代物です。もし良かった試着してみてください」
少年に薦められ嫌々ながら被って魔力を通してみると形状が変化して良い感じにフィットしてきた。ものは試しと仮面の左目部分を閉じたり、顔の上部だけを隠すベネチアンマスク風にも簡単に変えることができた。変化をつける度に爆笑しているシーラを他所に俺はこの仮面を気に入ってしまった。
「コレも貰うよ。合計で幾らに位になりそう?」
「短剣にスピアーと仮面で銀貨三枚と大銅貨六枚になります」
「なんとか足りたな。それじゃこれで」
「はい、丁度頂きます。お買い上げありがとうございます。これからもご贔屓ください」
防具を買うまでには至らなかったけど、有意義な買い物ができ、気分が高揚していた。店を後にして宿へ戻るその道中シーラにしつこく仮面を着けるようせがまれたが全力で拒否し、どんなご飯が出てくるか楽しみな俺は足取り軽く宿へ進んでいく。