トミナの日常③
ゴドウィンの指示に従ってヒッポボアを解体場の裏口の所へ置いてギルド内に戻ると依頼掲示板の辺りがなにやらざわざわしている。その中心から聞き慣れた声が聞こえた瞬間もの凄い脱力感に襲われた。
「はなせー。これは私達だけで受ける依頼なんだー」
「いいじゃねぇか先輩冒険者の俺達が一緒に行って手解きしてやるって、もちろん夜の方もな」
「お断りします。男と来たらそれしか能がないのですか。呆れてものがいえませんね」
「いってくれるじゃねえのねーちゃん、堪んねぇなそんな強気な女が変貌する姿を想像するとよ。ぎゃはははは」
下劣な笑みを浮かべた3人の男は舐めまわすような視線で二人を見ていた。・・・アルモさんよ今こそいつものセリフを言うとこですよ
近くで酒を呑んでいた人に話を聞いたところシーラが受けようとした依頼に横やりをいれてきたそうだ。ギルドの職員も呆れている様子だし介入せざる得ないようだ。
「はぁ~まったく目を離した途端なにやってんだよ」
頭をポリポリ掻き近づいていく
「シーラ、アルモ用事終わったから次に行くぞ~」
依頼を受ける前にやらなくてはならないことが山積みな状態でケンカなんかに捲き込まれてたまるかってんだ。
「シュウジーこの依頼受けたいー。初めての依頼はこれじゃなきゃやだー」
このダダっ子め!他にも依頼は在るでしょうに・・
「おい、にーちゃん。ちょっと邪魔だから退いてろ」
「あ~悪いけど二人とも連れなんだ。やらなきゃならないことが沢山あって揉め事起こしている時間がないんだ。問題はその依頼だろ?だからさっさと退くだけさ。ほらほら二人とも行くぞ、依頼はまた後でな」
「うー」
この場からさっさと離れるための口実なのに納得できていないシーラは口を尖らせながら、しぶしぶ依頼の書いてある用紙から手を離してくれた。
掲示板の所から受付嬢のリズさんの所へ向け歩き出そうとすると今度は男達が道を塞いでくる。
「悪いことは言わねぇ用事はあんた一人でやりな。その間後ろの嬢ちゃん達を俺たちに貸してくれや。どうせろくな用事でもないんだろ新人冒険者くん」
明らかに挑発してきているが乗ってやるほど暇じゃない。こんなのは無視無視、スルー一択だ。言葉を返さずそいつらの横を素通りしようとすると怒りに震えた男に胸ぐらを力いっぱい掴まれてしまった。
「無視してんじゃねえ!下手に出てりゃ調子にノってんじゃねえよ」
あれのどこが下手なんだかと口には出さずにツッコんでおこう。喋る度に酒の臭いが鼻につくので顔をしかめて相手の肩にポンと右手をおいた。
「なんだやろうってぇのか」
「些か飲み過ぎのご様子だ。さっさも言ったが、時間がないのでこれ以上邪魔する気ならその酔いを醒ましてやるよ」
「あぁなにをいっがぁぁぁぁぁぁ」
俺は肩においていた右手に力を入れミシミシと鎧ごとゆっくり握っていく。悲鳴をあげ痛みで胸ぐらを掴んでいた手を離した所で俺も力を抜き手を離した。
「醒めたようでなによりだ」
肩を押さえて蹲っている男と後ろで青ざめてる男二人を尻目にリズさんの所へ向かった。
「大変でしたね。私達では冒険者同士の争いを止めることができませんから」
「別に大したことじゃないので大丈夫です。それよりオススメの宿と武器屋を紹介してもらえませんか?」
流石に街に来てまで野宿はしたくないし、安全に依頼をこなす為には武器や防具などもほしい。お金はないけど・・・
「宿なら『鳩の羽休め』がオススメですよ。武器ですと金額に差がありますので何軒か身繕いますね」
「助かります。あと依頼の種類も教えてもらえませんか?」
「はい。依頼は基本『狩猟』『護衛』『補助』3つの種類があります。『狩猟』は言葉を通り魔物を狩ったり鉱石や薬草などの採取をします。『護衛』は街から街へ移動する際に依頼主や商品を魔物から護ること、後は門番などもありますよ。『補助』は既存のお店に出向きそちらの手伝いをすることです。この3つが基本となりましてそれとは別に緊急依頼と言うものがございます。こちらは魔物暴走や戦争に参加する依頼となっています。スタンピートは強制になってしまいますが、戦争への参加は任意となっています」
それは良いことが聞けた。戦争なんかに参加したくないからな
「わかりました。魔物を倒して素材を売るには何処へ持ち込めばいいですか?」
「それでしたらギルドで大丈夫ですよ。キハタさんは倒した魔物をそのまま持ち込みになるようなでしたら解体費は解体した素材から支払うことも可能です。他には何か聞きたいことはごさいますか?」
懐が寂しい俺たちにはありがたい処置だ。というかリズさんめっちゃ親切!
「とりあえず今のところはいじ─」
「まだあるよー。パーティーを組むにはどうしたらいいのー?」
ちっ触れなければ何事もなく事が進むと踏んでいたのに・・・シーラは忘れてなかったか・・・・ガッテム!!
「パーティーでしたらギルドに申請していただきメンバー各自に『承認』をしてもらえれば造ることが可能です。既存のパーティーに加入する場合は『仮加入』の後に『承認』していただければ加入できます。除名のやり方も同じように『承認』していただければ大丈夫です。既存のパーティーへの加入と除名に関してはギルドへ申請は必要ありません。もし何らかの理由から死亡してしまった場合は自動的にパーティーから除名されます」
更にリズさんは小声でこの仕組みを嫌な使い方をする冒険者がいるので注意してと促された。なるほど、強ければパーティーの株が上がり、弱ければ自身の安全の為に使い捨てにということか新人の冒険者が引っかかりそうな手口だ。なんか胸くそ悪いなそれ。
いま必要としている情報が聞けたので早速『鳩の羽休め』に向かうためリズさんにお礼を言って席を立とうとしたら後ろから怒号が聞こえてきた。
「やっぱり新人じゃねえか。そんなやつに舐められっぱなしじゃDランクとして終われねえ」
さっき肩を握った男が青ざめて必死に止めている二人を引き摺りながらロングソードと思われる剣を構えていた。
「モーブさんギルド内で武器の使用は禁止ですよ。それに此方の人たちは─」
「うるせえリズ!黙ってろ。おらっどうしたかかってこいよ、ビビってんのか?」
「ビビってないがさっき言っただろ、ケンカする時間がないって」
「てめえの都合なんざきいてねえんだよ」
今に斬りかかって来そうなときに解体場がある方の扉がバンッと開かれ
「おい!この中で解体場の裏口にヒッポボアをおいたヤツはいるか?」
ビニールのエプロンを着けた男性が慌てた様子で駆け込んできた。その形相に騒がしかったギルド内が静まり返った。
「あっそれ俺だ」
切っ先を向けられていても暢気な声を出しながら手をあげると慌てていた男性が詰め寄ってくる。・・・剣を向けられるよりあっちの男性の方が怖いぞ。
「モーブ邪魔だから退いてろ。・・あんちゃんがアレを仕留めたのか?」
男性はモーブを押し退けて俺の前に立つ
「いや、俺は裏口に運んだだけだ。仕留めたのはそっち」
俺はシーラの方へ手を向けた。男性がシーラを見るとシーラは萎縮してしまっている。分かるぞ、怖いよなこの人。
「嬢ちゃんが?」
「は、はいー。わた、わたしが仕留めましたー」
「・・・そうか・・あんたが・・」
怒られるんじゃないかと内心びくびくしていたら
「ありがとう助かったよ嬢ちゃん!アイツを討伐してくれるヤツがいなくて困ってたんだ。いやー本当にありがとう」
そう言って頭を下げた。俺たちは理解が追いついていないためリズさんに真相を伺った。どうやらシーラが倒したヒッポボアはこの辺の農家に甚大な被害をもたらしていて、討伐の依頼を出しても返り討ちに逢うため困っていたそうだ。しかも返り討ちにあった冒険者の一人がモーブらしく、それを聞いたモーブは既にここには居らず、何処かへ走り去ったようだ。
それから一頻りシーラへ感謝を伝えた男性はそそくさと解体場へ戻っていった。それとリズさんが討伐の完了手続きをしてくれており、報酬として銀貨8枚が渡された。お金がないから非常に助かります。
リズさんから「これからもよろしくお願いします」そう言われて漸く冒険者登録は終わり、紹介された宿へ向け出発することができた。
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