進むが仏?戻るが仏?
廻視点です
時間は遡り、ロアリッテ迷宮内
「ノぉアァァァァァァァァァァァァ」
「イヤアァァァァァァァァァァァァ」
拝啓 藤居紗耶香 様 早乙女智枝 様
御元気でいらっしゃいますでしょうか?
俺こと細谷廻は、ダンジョン奥地にて持てる知識とたゆまぬ努力を持ってなんとか生き抜いております。
さて、現在俺はボーティアス王国第1王女のバティアと共に全力でダンジョン内を疾走中です。
「か、廻様~、なんとかできませんのぉぉ?」
「むりむりむりむり、ぜぇぇぇたい無理だ~~」
奈落に落ち、打ちひしがれましたが、ともかく俺は元気です。
敬具
「遊んでる場合ではありませんわよ~」
「と、とにかく走れぇぇ」
廻達は大蛇を倒した後に周辺の探索と武器になりそうなもの、魔物の種類などの情報を得るために、バティアがいた場所を拠点としてダンジョン内で生活を送っていた。
そして、現在ばったり遭遇してしまったアルマジロのような魔物に先手を取られしまい、丸まり転がってくるアルマジロから必死で逃げている最中なのだ。
「そこを左に曲がれ!」
「とぅですわ」
「おふっ…」
指示を出した廻の右側を走っていたバティアが廻に飛び付いてくるようにして左折してきたことで、見事なスピアータックルが横っ腹に決まった。
アルマジロは急停止と方向転換ができず、そのまま転がって行ったのは不幸中の幸いだった。
「ゴッホ…ゴッホ……一瞬、息が止まった。バティアは俺を殺す気か」
「す、すみません。でも、急に指示を出した廻様もいけないのですわ。私の反射神経を甘く見すぎですわよ」
「なんだろう?このモヤモヤした感情は・・・」
「気にしたら敗けですわ」
スッと立ち上がり何事もなかったかのように振る舞うバティアに引かれながら廻も立ち上がる。
「結構走ったからどの辺まできちゃったんだろ?」
「今まで来たことはないところですわね」
キョロキョロしながら、特徴のあるものを探してみたが見当たらず、初めてきた場所のようだ。
「どうするよ?」
「匂いを辿れば拠点に戻ることは可能なのですが、少し探検してみたいですわ」
職業が妖弧に固定されているバティアの嗅覚は発達してしまっており、人族のそれをいうに越えて警察犬並みだ。
固定化による副産物ではあったが、この暗いダンジョンを生き残るのに重要すぎる要素だった。それがなかったら実際魔物の巣の中に突っ込んで死んでただろうさ。思い出しただけでも背筋が凍る。
「そんじゃあ、いってみますかね。危なそうなら引き返すぞ?」
「了解ですわ」
片目でウインクしながら敬礼ポーズを返してくる。・・・王女よ、どこで覚えた?
◇◆◇
結果から言おう。
下へ進む道と上に進む道の2つを見つけ出すことができた。
しかし、どちらを進むにしても問題があったため一旦拠点へ戻り、焚き火を囲みどちらへ進むか話し合いをしている最中だ。
「ですので、下へ向かうべきですわ」
「下へ向かえば危険は増すぞ?」
「構いませんわ」
問題を整理していこう。
まず、下へ向かう場合だ。
これがゲームならダンジョンを攻略すれば、地上へ戻るための転移やらなんかがあると考えるが、あいにく現実だ。来た道を引き返してくる可能性の方が高い。
次は魔物だ。ギガントタートル、大蛇みたいな魔物を相手取ると死以外考えられない。下に行くにあわせて強くなること必死だ。それにボスが存在している可能性もある。
続いて上に向かう場合
バティアが聞いた話によると連れてこられた騎士団が今まで到達したことがない場所と言っていたらしく最低でも50階以上上らないと地上へは出れないみたいだ。
更に途中で、異臭放つ階層があるらしく其処には強く、狡猾な魔物が存在しているのだという。ダンジョン攻略ができないのは、その魔物の存在が大きく、大概はそこで断念するそうだ。事実バティアを連れてきた騎士団も大きな被害を出したようだ。
二つ目は、バティアの存在だ。
連れ出したことが王国にバレると、また別の場所へ幽閉される可能性がある。
召喚者達が、ダンジョンへ戻って来るのは明白で、そこには騎士団が付いてくる。そいつらが、多少の変化があるもののバティアを知らないわけがない。
(ここまで一緒に居て見捨てる選択肢なんか存在しねぇな。なら・・)
「下へ行く一択だな」
「廻様ならそうおっしゃってくださると思っていましたわ」
「へいへい」
「もーつれないですわね」
「からかってないで今日は休むぞ。明日から下へ進むんだ。安全な場所なんかないんだから」
「大丈夫ですわ。廻様の隣ほど安全な所はありませんわ」
焚き火の灯りからか、笑顔のバティアの少し頬が紅い
「~~~~っ寝る!!」
不意を衝かれ、気恥ずかしくなった廻は、バティアに背を向けて藁で造った寝床に寝転がった。
(あれはズルいぞ。反則だ!!あぁもう心臓の音が五月蝿い)
「凄くドクンドクン言っていますわね」
「なっ・・」
「あっ振り向いてはダメですわ!恥ずかしいですもの」
いつの間にかバティアが廻の背中に寄り添っていたことに驚き、振り返ろうとするがそれも止められてしまった。
「先程も言いましたが、この場所が私が一番安心できるところですわ。なので、今日はこのまま眠らせてほしいですの」
背中にソッと触れてくる手は若干震えていて、どれだけの勇気が必要だったのかを雄弁に語っている。
「はぁ─今回特別だからな」
「はい、おやすみなさいですわ」
理性を保てるだろうかなんて考えは横から聞こえてきたバティアの寝息に吹き飛ばされ、焚き火の燃える音に耳を傾ける
(こんなん寝れるわけねぇだろ。童貞舐めんなよ)
声に出せない心の底からの叫びを頭の中で無限ループさせて
もうちょっと書く予定だったのにあんなことが起こるなんて!
あれさえなければ、なければぁぁぁ




