俺、アリ育てる。
ツチアリの女王を倒した俺は、巣へと戻る。
しかし、女王の死に様があまりに美しかったことが気掛かりだった。
それは、自分達の利益や子孫繁栄を目的として襲ってきたものの女王は自分が死ぬのを恐れていなかったからだ。
少しずつ、アリや昆虫達の生きる世界の厳しさがわかってきた気がした。
コロニーに戻ると無事避難を終え、仲間達はもと通りの日常を送っている。
そんな俺には、また祝福が待っていた。
どうもアリ達は祝福好きらしい。
そこでは、美味しい?料理が並んでいた。
でも、その日の料理は美味しく感じられなかった。
全く関係ないアリ達が騒ぎ出したので、これ以上居ても仕方ないと思い
俺は、自分のコロニーに戻ることにした。
まず、自分の持っている力について整理がしたかった。これからも兵士として戦うことがあるだろう。
ー俺の能力ー
耐性
:高温に強い
:極度の低温に強い
:乾燥に強い
:真空でも生きられる
:高気圧に耐えられる
:高い放射能に耐えられる
:宇宙空間でも生きられる
:アリの中では最強の肉体
攻撃方法
:水(液体)を操る
:強靱な顎で敵を噛みちぎる
:フェロモンで敵を惑わす(対アリのみ)
:毒針(蟻酸)で敵を弱らせる(殺す場合も?)
ざっとこの位か。
まず、一番重要であるはずの物理攻撃に弱いこと。
しかし、アリの中では最強の鋼の肉体を持っている。
攻撃方法は、敵がアリであればフェロモン(蟻酸)が使える。
それ以外は毒針を上手く使うことにしよう。
それにしても技がダサい。
今度から技に名前でも付けようかな。
考え事をしていたらもう夜が明けていた。
ー朝ー
今日は珍しく幼虫達の世話をすることになった。
そこには、ベテランであろうアリ達が運ばれてきたエサを幼虫達に与えている。
少し話し掛け辛い雰囲気が漂っている。
「あの、今日ここで仕事をしろと言われたんですけど。教えてもらえませんか?」
と、ぎこちない敬語で話した。
「あれ?この間コロニーを守ってくれた子じゃない!今日はここなのねわかった教えてあげるわ!後輩に仕事を教えるのが、先輩の役割だからね!」
この世界で先輩と言っても働きアリの寿命は
1年から2年程だから、さほど変わらない。
早速仕事は始まった。
エサは噛み砕き、直接口移しで食べさせる。
それを何十匹と繰り返す。
アリの幼虫達はだいたい2週間から1ヵ月で成虫になるらしい。
先輩は手慣れた様子でやっているが、元人間の俺には恐ろしくも思える。
見よう見まねでやってみるが上手くいかない、時々注意される。
少しずつ慣れてきて、幼虫達がほんの僅かだが可愛らしく見えてきた。
幼虫達は一匹一匹大きさが違っている。
いくらクローンとはいえ一匹それぞれ違うようだ。
大きめの奴は兵士になるのか、小さい奴は…
と色々考えてしまう。
俺もアリっぽくなってしまったようだ。
仕事が終わった。兵士として戦ったときよりも色んな意味で疲れきっていた。
仕事終わりベテラン先輩にアリについて聞いてみた。
「先輩はこの仕事をどのくらいやっているんですか?楽しいですか?」
「まあもう1年位たったかな。私もすっかりベテランね。もちろんこの仕事は楽しいわよ。だって卵から育てた子達が仕事をしてコロニーが活気づいていくんだもの!ただ、だんだん卵の数が減っているの。残念だわ。」
働きアリの世界じゃ1年は寿命の半分。
だから、先輩はだいたい40後半から50さい位というイメージだろう。
だが不思議だ。卵が減っているとは、今の女王様が年をとったということだろうか。
それは後でコロニーの先輩達に聞くことにしよう。
「後輩!明日は、卵ちゃん達の面倒を見てもらうからね!また明日!」
「はい!ありがとうございました。また明日よろしくお願いします!」
まず、コロニーに戻って女王様について聞こうと思ったが先輩達もいなかったので飯を食ってからにしよう。
今日の飯は人間界から拾ってきたであろうチョコレートや飴などが並んでいる。
今まで虫だの何だのでまともに飯が食えていなかった俺には人間界の食べ物があるだけで幸せだった。
飯を済ませた時には、先輩達もコロニーに戻っていた。
先輩達が話しているところにゆっくり入り、話すタイミングを見計らった。
「先輩。最近卵の数が減ってるらしいんですけど、何か知ってますか?」
この一言で、一瞬場が凍りつく。
何かあるようだ。
「私知っているわ。昔聞いた覚えがあるわ。
確か、新しい女王様が産まれる時卵が少なくなるって。」
「私も聞いたことがあるわ。その時に雄アリも産まれて、大きくなると一緒に旅立って新しいコロニーを作り始めるんだって。」
このことが本当ならもうすぐ新しい女王が産まれ、このコロニーもそれとともに崩れ逝くだろう。
それは、一つのアリ世界の終わりを意味していた。
もうすぐ二章に入ります!