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アリの世界で女王ライフ  作者: 小田鶏助
俺、女王になる。
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俺、旅に出る。

 あれからしばらくしコロニーも落ち着き、元通りの生活が戻っていた。また、兵士達もいつも通りの稽古を行っていた。

 何も無い平和の生活が営まれている。この世界で何も無いことがどれだけ幸せな事なのかは身をもって思い知ったのだ。


 もちろん仕事と言ってもすぐにある訳でもない。だから、暇なのだ。何もすることも無くただ時間を過ごす事しかできない。それに、皮肉なことに当分食料に困る事もそうないだろう。


 そんな中、俺は少しばかり外へ出かけてみることにした。怪我や傷に関してはもうほとんどが治っていて完治とはいかないものの八割方は治っている。


 ここへ来てしばらく時が流れたが、実際外の世界を行き交ったのはものの数回ほどだ。そこで俺ぜひ、ありの視点から見る世界を体験したいと思った。移動には羽があるため困ることはないだろう。今なら堂々とちょとした旅にくらい出られるだろう。


 取り敢えずはすぐ戻ってくるつもりで誰にも特に言わずにコロニーから立ち去った。誰に気づかれたわけでもなかった。


 恐らく外は夏頃だろうか。強い日差しが黒い体を文字通り焼き付ける。

 そして、大空へ飛び立つとそこが小さな公園だったことを思い知らされた。人間だった時だったら何も思いもせず通り過ごしていただろう。だがしかし、今と昔ではまるで状況が違う。思うことだってまるで違うだろう。


 例の公園を抜けると一面が真っ黒な世界が待っていた。世間一般で考えればここがそれがアスファルトだということが分かるだろうがその恐ろしさは断崖絶壁に匹敵するものを持っていた。

 当たり前だが全てのものが巨人用に作られたもののように見える。

 寂しく一枚落ちている落ち葉だって、無慈悲に捨てられたビニル袋だって、見つけてもらえないくつ下だってみんなおっきく見える。昔、アリから見た世界なんてのを聞いた覚えがあるがまさにそれだ。それに、こんなこと普通は最初の最初に経験するだろう。しかし残念な事に、あの時にそんな余裕はなかった。


 そのままゆらゆらと風邪に押されたり引き戻されたりしながら飛んでいると、突風が体を引きちぎろうとしているくらいに吹き荒れる。それはすぐに察しがついた車だったここは公園の前ということもあり、車通りはさほど多くないようだ。もちろん、感じるスピードもそれなりに速くなっている。それでもこのスピードなら人間が簡単に死んでしまうのも無理がない。とにかく車なんかが通るところは避けた方が良いようだ。


 取り敢えず目的地は決めずに散策することにした。ただの気をひとつ取ったって大きいから感覚がおかしくなりそうだ。また、アリが長期間飛び続けられることを知った。本当は大した距離じゃないのかもしれないが、体感では相当な距離を飛んでいるが疲れはそれほどある訳ではない。

 それは単純に女王が結婚飛行をするためにある程度飛べないといけないのと、俺の身体能力が高めだからということだろう。


 しばらく飛んだところで降りることを決めた。ちょうど獣道のようになっていて林のようなところに繋がっているところだった。おそらく、林とは言っても俺から見てそう見えるだけでただの草っ原という可能性は否めないのだが。それはともかく散策を続けよう。ほかの虫なんかにも会ってみたいのだ。ちっちやな頃には少しばかり憧れたものだ。アリからカブトムシを見たらどんな感じなんだろう、ありくらいの大きさだったらこのプリンをたらふく食べれるんじゃないかって。そんな好奇心が今更ながらに俺に襲いかかる。こんな所でそんなことをしていたら死んでもおかしくないというのにも関わらず好奇心というのは恐ろしい。

 靴の裏に収まっていた尖った草々は俺の前に立ちはだかり、その大きさは高層ビルが立ち並んだようなものだ。


 その草々を乗り越え長らひたむきに先へ先へと突き進んでいく。当然ここまで来て何も無い訳が無い。草を掻き分け見晴らしが良くなった先には俺が入れるくらいの穴が空いていた。まさしくこれは、アリの巣であろう。ケビンの話を聞いている限りでは、ほかの縄張りのアリを受け付けてはくれないだろう。ましてや、それが女王アリとなれば侵略を恐れて戦闘態勢に入られては困る。ここはあまり干渉しない方が良いようだ。思えばこの世界は危険の温床である。下手な行動は死へと直結していくのだ。


 ここでの判断は逃げる__

 それだけだ。


 やはり好奇心というものは恐ろしい。それでも俺の体は前へ前へと止まらずに進んでいく。

 ふと視線を上げるとその先には、名前も知らないような小さな虫が葉っぱにへばりついている。否、知っているはずだ。くさむらに行っては悩まされたのはノミだ。自分自身がこの大きさだから細かいところまで見える。はっきり言ったら気持ち悪いの限りである。妬ましい。

 そんなことをしている間に気づかれたのだろうか。ノミは物凄い跳躍力で全てを余裕で飛び越え青空へと消えていった。噂では聞いていたが、実際にこのサイズで見たら訳が違う。百分一見にしかずとはこのことを言うと俺は思った。


 俺のささやかな危険な旅は今静かに始まった。

会話ゼロですみません。次もこんな感時になるかもしれませんがお付き合い下さい。

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