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アリの世界で女王ライフ  作者: 小田鶏助
俺、女王になる。
30/31

感謝

 ふと目を覚ますとそこは普段通りの部屋だった。ということはあのまま倒れて誰かがここまで運んできてくれたということだろうか。体が痛いのは変わらないが確実に良くなっている。

 だとするとまたあんな事があったということか。

 どこか後ろめたい気持ちを持ちつつもコロニーを見て回る事にした。

 取り敢えずどんな様子かということは確認しておきたい。最悪の場合、また、ゴキブリの時みたいに再建をする事になる。


 本当に油断のできない世界である。

 もしかしたら、今このときでもまた、攻められるかもしれないのだ。俺みたいな人間が平和ボケしているだけなのだろうか。この世界じゃいつでも戦争が起こり続ける。決してなくならない。話し合いなんて通用しない。強いものが勝つただそれだけの単純な世界だ。


 さっきまで一歩二歩歩くだけでも体力のほとんどを持っていかれるような状況だったのにも関わらず俺はいつも通りの足取りでコロニーの長い渡り廊下を歩いていた。


「やっと目覚めたのね。心配したのよ。何せ三日も寝てたって言うんだから。」


 と笑顔でエリカは言った。まるでどこかで見たことのあるような優しさの混ざった笑顔。俺の中で何かが繋がったような気がした。

 というか三日も寝てたのかよ。人間時代いくら暇だったとはいえ丸々三日間も寝た経験はない。


「心配してくれてありがとう。もしかしてあそこまで運んでおいてくれたのか?」


「あっ……いや、まあ……そうよ!」


「何かあったか?」


 やけに恥ずかしそうにしているが、助けてくれたんだったら堂々とすればいいのに。女神だった頃の威厳みたいなやつはどこに行ったのだろうか。


「ギハールさんはもう仕事を始めているのよ。取り敢えずひと段落って所ね。」


「そうだったのか。俺も早く復帰しなきゃってことか。」


「あと、今回は救助活動のおかげで被害はほぼゼロだったようよ。ゴキブリの時のようにはならなくて良かったわ。」


 ああ、本当に良かった。恐れていたことは怒っていはなかったようだ。またあのゴキブリの時みたいになっては兵士団を組み直すことで一苦労だ。

 と、ちょと待ってよ__


「なんでゴキブリなんて知ってるんだ?たしかその時はまだここに来てなかったはずだが__」


 て、あれ。

 さっきまでここにいたはずなのに気付かぬうちにどこかに行ってしまったのか。全く、確証はやはり得られなかった。


「女王様!」


 突然後から呼び止められる。


「女王様、お体は大丈夫でしょうか?」


 声の正体はケビンだった。というかこんなに明るいヤツだっただろうか。


「ああ問題ない。君は命の恩人だ。まだお礼を言えていなかった。ありがとうございます。こんな俺を命懸けで救ってくれて」


 これは女王としての立場ではなく命あるものとして当然のものだ。この恩はどこかで返さなくてはなら__


「感謝するのはこっちです。女王様がいなかったらあのときあんな事はできなかったと思います。今回のことを通して僕は目が覚めました。もう仲間は無くしたくありません。逃げていただけでした。改めて、ありがとうございました。」


 これでチャラとでも言うのだろうか。これは素直に受け取ったいいようだな。確かに変わった。しかしそれにしても、あの姿には少し恐ろしいものを覚えた。彼だけが持っているひとつの違うところなのだろう。


「ああ、ところで悪いがギハールがどこにいるか知らないか?」


「ギハールさんならあっちの部屋にいましたよ。実は感謝されすぎて困ったんですよ。僕は当然の事をしただけだって言ってるのにこの恩は絶対に帰りますって言って聞かないんですよ。」


「__ありがとう」


 ただ俺は大きな借りを作ってしまったようだ。



 ケビンの言った通りの部屋にギハールはいた。

 その姿は回復したとはいえ、無惨で小さな子供が見たら気味悪がって逃げていくだろう。

 そんな体にムチを打つように今回の事案のことについて整理している。


「女王様では無いですか、お体は大丈夫ですか?」


 それでも尚、俺の心配をするなんて。そんなに女王様が尊いだろうか。それならもっと自分の体をいたわって欲しいところだが。


「大丈夫だ。それよりもそんな体で作業は進むのか?」


「こうしている間にもあっちではサントスさんが稽古を付けてるので、何もしない訳には行かなくて。出来ることをやるだけです。」


 つくづくよく働くやつだ。これがアリの象徴なのだとしたら、人間なんて屁にも及ばない。自分の生命よりもコロニーの社会の存続を気にして働こうなんて俺には到底できない。


「わかった。感謝するよ。あの時お前があんなことしてなかったら俺はここには居ないだろうしまだ寝たままだっただろう。ありがとう。」


「そんな感謝には及びません。女王様が危機なのに何もしないなら参謀なんて務まりません。だからこそ参謀なのです。当然のことです。」


 このセリフをついさっきすぐ近くで聞いたのは気のせいではない。それも自分でそのセリフを受け付けなかったのだからおかしくて仕方が無い。アリってやつはみんなこんなんなのだろうか。


「それに、女王様だって働き過ぎです。自分の怪我よりも私のことを心配してくれたんですから。そんな口からそんなことを言われても素直に受け取れませんよ。」


 それと同じことを自分でしてるというのに気づいていないのだろうか。俺は信頼を受けている分責任があるのだ。こいつらを守っていかなくてはならないのだ。



「ああそうだな。よし!じゃあ仕事するか!」



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