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アリの世界で女王ライフ  作者: 小田鶏助
俺、女王になる。
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決意

首筋に冷たい感覚が鋭く突き刺さる。

本当に一瞬の事だった。

目にも止まらぬスピードで気付さえもしなかった。



「作戦成功だ!奇襲は効いたようだな!我らの勝ちだ!」


ケビンは敵の首に噛み付いた。

そして、そのまま__

噛みちぎった。


作戦は事実上失敗でもあった。


「クロオオアリは図体がデカいくせに弱いからしょうがねーや。

奇襲のつもりだがなってねえよ。護衛ぐらいつけておかなきゃ簡単に死んじまうのにわざわざ戦いに参加して馬鹿みたいだ。軍隊の動きもバレバレ。こんな簡単に死んじまうとこっちが虚しいなぁ。」


「我らの勝ちだ!__



何があったんだ。体が、動かない。かろうじて死んでない。

何故ツチアリの女王がいるんだ?

なぜ、なにゆえ、なんで、なぜに


「お前達の女王は今からこの私だ。分かったな!__


誰も返事は返さない。

依然、体は動かない。

目と鼻の先にいるのにも関わらず。

この状況を変えることは出来ない。


「黙ってるんだったら殺すしかねぇな!」


このままじゃ__


「はっ!女王様、私はギハールでございます。何でもお申し付け下さい。」


これがどう足掻いても変えることの出来ないこの世の摂理なのか。

そうなのか、誰かこの俺に常識ってやつを教えてくれよ!

このまま俺は死ぬのだろうか。


「おお、分かっているじゃないか。じゃあギハールだったか?お前の手でこの無様な()()女王を殺せ。命令だ!

従うってそういう事だろう。」


まさか、あいつはこのために俺をわざわざ生かしてたって言うのか。俺は自分の部下に殺されるっていうのか。

短かったな。

予想はしていなかった。初陣でこんなにも無残になるとは。

格好がつかないな。

せめてコイツらが平和に生きていけるって言うならここで死んで円満に終わる方が良いかもしれないな。


みんなありがとう__


「それは出来ません!いくらかこんな無残になろうとも私たちの女王であったことは変わりません。申し訳ございません!我が女王様を殺すなら私を先に殺してください!」


ギハール……

俺の為に、死ぬなんてそんなのは止めくれよ。

そんな冗談面白くも何ともない。

こんな俺みたいなやつどこにだっている落ちこぼれの為に。

そんな言葉使わないでくれよ。

くそっ、まだ体が動かない。

出来るなら今あの女王の首筋に飛びついてやりたいのだが。


「ちっ、なら死んで貰うしかないな!」


バキッ__


大きく開かれた顎がギハールの首元に、


皮肉なことに忠臣の死をこんな間近で何も出来ずに、不穏な音が嫌なほど響く。


バキンッ__


ギハールはその場に倒れ込む。

それでも俺は何も出来ない。

ギハールはそれでも悲鳴の一つも上げない。


「女王の為に死ねるなら本望だ。」


そんなこと。

こんな形でアリ達の忠誠心を見ることになってしまった。

少しばかり体が軽くなった気がする。

それでも、あの女王に勝てるほどではない。


「それじゃあ、お前もそこで見ていろ!仲間が殺される様を!

仲間同士で戦い合う様を!」


とことん意地の悪いヤツだ。

もう誰も同じ目にあって欲しくない。


「やめろぉ!それ以上俺の仲間に手を出すな!」


「おっと、そんな力がまだ残っていたのか。早く殺してほしいようだ。誰かやりたい奴はいるか?」


「やめ__


バコンッ


大きく振りかぶった大剣のような顎は俺の腹部を叩いた。

声が出ない。

どうにも動けない。

もう何も出来なくなってしまった。


「はい、僕がやります。」


誰だ。

振り返れもしない。


()()を殺れば良いんですね。」


この声はもしかして、

ケビンなのか。

何故ケビンが俺を殺すと言うんだ。

そんな因縁ある訳じゃない。


「ああそうだよ。その勇気を讃えよう!我の護衛にしてやろう。」


「ありがとうございます。」


なんで、何かおかしい。


「やめなさい!」


ギハールが叫ぶ。


「黙れ!」


どういう事だケビン。

何故お前はそんな風にするんだ。


「女王のあとはお前だということを覚えておけよ!」


「早く殺れ!__


やめろ


微かな足音がはっきりと体に響きながら聞こえる。


鋭い牙のような顎が空を切る__


「女王様ごめんなさい、


掠れるような微かな呟きだった。

確かに聞こえた。


牙が加速して俺の身体を捉える。

死ぬ。

ケビン。

お前は?


その牙は前触れも無く。

力の方向をかえ横に動く。


「死ね!」


その牙は最大まで開かれ、その姿はアリである事を忘れていた。


「何故だ!」


パチンッ__


牙はそのまま加速し、

()()の首を切り落とした。


音もなくただ全てを切り裂いた。


そして、この世界の常識を教えられた。

まさか、ケビンはこのためにあいつに従った振りをしたのか。

ケビンは俺の為に、俺らのために。


ただ一人今まで一人で生き抜いてきた力や仲間を失くした黒の思い出が彼を包んでいた。

もう仲間を失いたくない。

同じ過ちを犯さないために力強い意地があった。

彼は今までその殻を破れずにいた。

しかし、今それを破り捨てた。


「女王様、作戦は失敗です。約束を守れなくてすみません。でも、僕達の勝ちですよ!奇襲は成功です。今日は祝いましょう!」





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