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アリの世界で女王ライフ  作者: 小田鶏助
俺、女王になる。
27/31

初陣

「あれ、女王はいねーのか」


とつまらなそうにツチアリのリーダー格の奴が叫んでいる。アリが餌に困って他のアリを襲うことは不思議では無い。彼らにとってこれは当たり前なのだ。だから、こんなにも面倒くさくいられるのだ。


「こっちはツチアリのドアリーだ。降伏かー、なら素直にここを明け渡せ。何も言わねーならこっちからいくしかねーな!」



その声と騒ぎを聞いて俺は入口へと駆けつけた。

ツチアリだ。この前は俺一人で何とかなったが今回は状況がまるで違う。あの時は一兵士として何とかなったが、今は女王である。一人で戦うことは他のアリ達が許さないだろう。

嫌でも、アリとアリの戦争しか方法がないのだ。

望んではいないが、仕方ない。この時のために今までがあるんだ。


「女王は、ここだ!名乗られたのだから挨拶が先だ。私はユートここの女王であり、兵士団団長。ここはお前には渡さない。動きはしない。正々堂々戦おう!」


騒ぎがあってからサントスに指示を出していた。

兵士団が間もなく到着した。初めての戦いに意気込み動き回っているアリもいた。これならこちらに分があるかも知れない。

この戦いで多くの命が失われる事は分かっている。しかし、この現実から逃げる道は用意されていない。

やるしかないんだ。生きるための戦い。純粋な戦争を、



「いけぇ__」


サントスの指示で黒い津波が騒ぎ立てた。

そして、ギハールが細かい指示を出す。

それに対抗したツチアリ達が押し寄せ、敵味方が入り乱れる。

軍勢としてはこちらの方が遥かに数も多く有利だ。

顎と顎でぶつかり合う。その顎が角度を変え、胴体を掠める。あちこちで叫び声が聞こえる。顎が胴体を切り裂く。

軍勢としては有利だが実戦経験として相手の方がいくらか上手だ。あちこちで(むご)い戦いが繰り広げられる。

しかし、俺は……

俺は何も出来ない。


「ねえ、このままでいいの?__助けなきゃでしょ。」


「なに鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔してんのさ、覚悟決めたんじゃなかったの?」


「いやっでも__


「あの子達がこんな野蛮なヤツらに殺されてるっていうのに女王はそんなことでいいわけないでしょ!」


俺に出来ることなんて、アリ達の戦いを止めることは今の俺には出来ない。どうすればいいって言うんだ。


「見なさいよ。敵はまとまって戦っているように見えるけどほとんどが直線的な動きで作戦が無いわ。そうなってくるとこっちは今までのことを生かして対応すればなんて事無いわ。」


「それでも作戦はギハールやサントス達がやってくれてるんだ。」


「よく考えなさいよ。私は元神、あなたは元人間。そこらのアリよりは頭ぐらい上手く使えるでしょう。」


女神はそれだけ言って去っていた。



俺は盤面を見つめ直した。まるであいつの言った通りだった。敵は端的な動きでただ殺すことだけを考えているようだった。あの時の俺が勝てたのはただ力が勝っていたというだけの話だ。俺は忘れていたのだ。アリ達は女王の分身いわば無個性。ここのコロニーは例外と言ってもいいだろう。だからこそ出来ることがある。

俺は行動に移すした選択肢がなかった。




「ギハール半分の部隊をこっちに回してくれ考えがある。」


「はい、分かりました女王。今すぐ指示を出します。」


「第2部隊直ちに移動!」


ギハールの声が騒がしいコロニーに響く。それと同時にアリ達がまとまってこちらに集まる。


ギハールがこちらに目線を配った。それにより、百近くの顔がこちらに向く。


「お前達は今からいう作戦通り動いてくれ。急いでもうひとつの出入口から出て戦いに夢中になってるツチアリ達を後から挟み撃ちにしろ!」


いたって単純なものだった。何のひねりもない。しかし、ただそれがこのアリの世界では大きな力になると踏んだ。まさかアリの世界で戦国武将紛いなことをすることになるとは、流石に予定外だ。


「まず女王の周りの護衛を倒せ。そいつらは二対一で戦え、そして混乱して敵が乱れたところで両側から挟み込んで__ケビン!お前が大将を捕まえろ!殺してはいけない。分かったか。」


ケビンが全く予想もしていなかったような甲高い声を上げる。ケビンはこの中では数少ない実戦経験者だ。そして、ここにいる他の奴らには無いものを持っている。


「さあ、作戦実行だ!」


ギハールの掛け声でアリ達は散った。ギハールが第2部隊の指揮を執る。


__戦いはここからだ。


そんなことをしている間に状況は苦しくなっていた。被害なく抑えることは無理なのだ。分かっている。しかし、そんなものでいいのだろうか。自分達の欲のままに殺し、また殺し。戦い。これが世の中の不条理とでも言うのだろうか。


とにかくこれ以上の被害は最小限にしなくてはならない。


軍勢が半分になった事で確実に押されている。到着はそれほど遅くはないがこのまま押し切られる危険性はゼロとは言えない。


「くっそーこのままじゃ!負ける!」


こう叫んだのはツチアリの女王ではない。この俺だ。敵の女王は敵を倒すことしか考えていない。


「へっ!ざまあ見やがれ!お前のせいでたくさんの命が消えていくのを忘れるなよ!。」


どんだけ脳筋な奴なんだよ。


もう、大丈夫だ。ギハール達が入口に到着している。

これで終わるんだ。


__今だ!


黒い軍勢が猛スピードで駆け下りる。その音に驚いたツチアリ達は慌てて後ろを振り返り戦いに移ろうとする。

しかし、黒い大波に挟まれ動きが取れない。


そして、アリ達は作戦通りに戦っている。確実に勝機はこちらに向いている。


遂に、敵の女王が顕になる。

ケビンはその瞬間を見逃さず首元に飛びついた。


その一瞬だった。


まるでその瞬間だけ無音になったように__


時が止まったかのようだった。






更新再開します。

すみませんでした。

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