女神様の気まぐれ、
「女神さん、いい加減にしてもらえますか。今まで俺の築いてきたものを初めましてで超えていくの辞めてもらえますか」
この女神は俺がこれまで登り詰めた地位や掴み取った信頼までもものの数時間で得てしまったのだ。俺の今までの苦労と味わった大変さを返してくれ。
本気でこの女神のせいで俺の女王ライフはぶち壊しになってきた気がする。
「何よ!私のカリスマ性に嫉妬しないでよ!」
これは、女神の吐くセリフではない。
これが狂っているのか正常なのかすら俺には分からない。
「早々キャラ崩壊してますけどいいんですか?」
これは本気だ。
今まで俺が思っていた女神様とは全く違う。これ以上最初の印象を壊すのはやめてほしい。
「あら、そう、じゃあ……こんなのどう?ユート様これからどうしますか……」
「いやっどうとか言われても!そもそも名前どこで知ったんですか?」
「さっき若いありんこから聞いたわよ」
「いちいち仕事が早いんですよ!後、アリ達の事ありんことか言って馬鹿にしてません?」
「そんな事ないわ。後、ユートって名前極めて容易ね。」
「うるさいです!そんな事言うんだったらさっさと天国かなんかに帰って下さいよ!」
「残念、私に帰るところなんてありません!」
この後もくだらない掛け合いが続いた。
とにかくこの女神と共同生活なんてシャレにならない。何でこんな事にならなければならなかったのか……
回避ルートなんて見つかりやしない。
突然、特に意味もないただこの先必ず決めなければならない一つの疑問を思い付いた。
「あの、どうします?立ち位置。このままだと中途半端になりますよ。みんなに納得してもらう為にも立ち位置決めましょう」
「それはそうね。じゃあ秘書なんてどう?それなら一緒にいても不思議じゃないし多少は融通きくだろうし」
「そうしましょう。じゃあ明日みんなに話しましょう。」
「分かったわ。それと私秘書やってみたかったの!なんかかっこ良くない?」
「わかってると思いますがここ、アリの世界ですよ、」
とつまらない会話は終わりの見えない県境のトンネルのようにどんよりと続いた。
女神様は最初は本当に優しくてthe女神みたいな感じで、もしかしたら好きだったのかもしれないが何か違う。
それでもこれが自然で居心地が良いような気がしてくるから不思議である。
もっとコロニーを紹介しろと女神が急かす訳だから女王は優しくあしらってこの卵や幼虫達がいる部屋へと案内をして来たのだ。
「ここが例の部屋です。え……とここには幼虫達がいてエサを食べて寝たりしています。幼虫は二週間位で成虫の姿になります。
そして、この奥の部屋には卵達が幼虫になる日をじっと待っています。取り敢えず見てみましょう。」
無意識にガイドさんみたいになっていて自分が少し怖くなったがよくここまで言葉が浮かんだものである。
「ありがとう、幼虫って案外可愛いものなのね!何か幼虫はうねうねしているだけで顔は想像つかなかったけどこんなんだったんだ。これ人間界でぬいぐるみでも作ったら売れそうじゃない!」
「ん、な訳あるかい!」
よく分からないがボケとツッコミの掛け合いのように話が進む。
彼女がわざとやっているのか天然なのかすらも分からない。もう一つ不思議なのは人間界と言っている事だ。女神は人間界の事をよく知っているのだろうか。
急に無言になったらなったで何故か寂しいものだ。彼女の顔つきがさっきと見違えるほどになっている。
そして、突如彼女はひらめいたように言った。
「ふ~ん、分かったわ。これで行くわ!」
俺には何のことだかさっぱり分からないが彼女が早足で部屋を去ろうとしている。取り敢えず理由は後で聞くことにして今は後を付いて行くしかない。
「あの……どうしたんですか?」
「まあ良いわ黙ってなさい!」
自分で急に思い立ったように歩き出して理由も話さないでおかしいとは思うがまた、女神パワーを行使して来るだろう。
「あのさぁ卵ってどうやって産むと思う?」
唐突過ぎる。というか分からないから教えてくれるんじゃなかったのかよ。
「いやっ分からないから付いてきてくれたんじゃ……」
「はいはいじゃ一丁やりますか!はあっ"実体複写"」
と彼女が二本の脚でたったかと思えば前の二本の脚を前に掲げて何かを唱え始める。
目の前が強い光に包まれる。これが魔法とかそういうやつなのかと心が持っていかれそうになったが、目の前を見た俺は全く違う事を考えていた。
「よしっできた!」
彼女がそういった後例の光はぼやけて無くなりその正体を現した。目の前にあったのは、大量の卵達で今も動いている。
今まで俺が悩んでいた事は何だったのだろうか。今まで真剣にここのアリ達の事を考えていた時間は何だったのだろう。
そんなことを彼女は無視して神様の力を乱用し、卵を複製したのだ。
「な……何してんだ?」
思ってもいない言葉がついこぼれてしまう。
「何ってクローン作っただけだけど。結局アリは皆クローンなんだからどうしようが一緒じゃない!何か文句ある?」
文句は無いのだ。だがしかし、目の前の状況をうまく飲み込めずにいるのだ。
「あとはこの子達を運ぶだけね!はい!運ぶの手伝って」
「それ、その魔法みたいなので出来るでしょ!」
「つべこべ言わない!」
また、俺は女神の気まぐれに付き合わされる事になったのだ。
しかし、俺の中でずっと溜め込んでいた問題がこんなにも簡単に解決されてしまうと何故かもやもやとする。こういう事は自分で解決してこそ意味があるのではないかと思うが、神様が言っているのならばそうではないのだろう。
卵云々よりももっと大切な事がこの後続いていくのだと俺は悟った。