私も女王になる。
今日もまた、目を覚ました。
目を覚ましたと言うことはどこかで倒れたという事だろうか。
何せそこら辺の記憶が無いから尚更である。
自分の立ち位置を考えれば道で倒れていれば誰かが気を利かせて部屋まで運んでくれるだろう。
記憶が飛んでるくらいだから当然、身体の節々が悲鳴をあげこれ以上無いめまいに襲われた。
周りには誰もいない。
視界が歪み、重力が右脚へと流れ込む。
アリにしては大きな身体が地面にぐにゃりと倒れ込む。!
そして、頭の中を虫が這いずり回るような嫌な感覚が俺を痛めつける。
ふと目を覚ましたところは何があるかはぼやけて見えないがとにかくさっきまでの部屋ではなかった。
あのまま一日経ったのだろうか。
そんな疑問がはっきりしないまま次の展開を迎える。
「久しぶり!元気だった?どうなの楽しいの?」
こんな感じで俺に向って喋りかけるのはあの女神様しかいない。
そう言えば、名前とかってあるのだろうか。
全く関係ないがもやもやと頭の中を覆った。
「あの……何故女神様が?」
「何故ってね!この女神様が心配して呼び寄せてあげたんだから少しぐらい察しなさいよ!」
何このめんどくさいキャラ。
しばらく会ってなかったけど女神様ってこんな感じだったけ。
というか順風満帆なアリライフを送っていたというのになんの用だ。
「特に問題なくアリライフを送っていたんですけど……最初に思っていた以上に楽しく仲間達とやってますよ。アリ達はみんなで助け合って、なんにも飾らずに。小さい頃に想像していた夢の世界がアリの世界と同じだったことには驚きました」
何を喋っているんだろう自分でもよく分からない。
もしかして女神様に操られてでもいるのか。
「なら良かったわ……何か困ってる事は無いかしら!」
この女神はどんなテンションで生きてるか全くもって分からない。
「困っていることは特に何ですけど……強いて言うとすればアリの出産ってどうすればいいのか分からない事ですかね、そもそも卵埋める体なのか分からないですし……」
「それはもうなっているわよ。でも、前前前前世は女性で出産経験もあるわよ。それでもダメかしら?」
「ふぇっ???、わ!?。?、」
思わずどこから出てるのか自分でも不思議な音がでた。
そんな事言われてはいそうですねと流せる人はどこにも居ないだろう。
いたら会って話したいものだ。
とにかく、そうだとしてもそんな記憶どこにもないしあっても嫌だし無理な物は無理なのだ。
「そもそも記憶ないですし、自分でも女王になるまでの事は考えてなかったですし……」
「嫌なの?」
「嫌では無いですよ、みんなと居られることが楽しいですし、最近と違って幼虫達が可愛く見えてきましたし。だけど自分が卵を産んだりする事に違和感があるんです。」
「ふーん分かったわ。あなたを女王にするつもりだったけどそうする必要もない訳ね」
「え……っとそれはどういうことですか?」
「どういうこともこういう事も無いでしょう!私もアリの世界に行ってあげるわ丁度暇なわけだし……」
「今なんて?」
「女神様と二人で……何てそこら辺の奴らに言ったら鼻息荒くして付いてくるっていうのに、貴方はそういう所に疎いんだから」
ん、俺は怒られて居るのだろうか?
いや、アリの世界に飛ばされて女王になると思ったら女神様が付いてくるなんて聞いてないですよ!
誰がこんな展開予想できたことか!
しかも何か口調おかしいし!
「その気持ちは嬉しいですけど、そんな事していいんですか?」
「まあ、今の内は仕事も無いし、最後に見送ったんだから責任を持って的な。だし、クマムシの能力なんてどうせ使わないだろうしお詫びもこめて」
最後ってなんだ、もしかして
「もしかして、神様界にリストラなんてあるんですか?」
何か遠回しな言い方になった。
「いやまあ、なんと言うか……女神に向ってそんな言葉失礼な!」
「もはや女神でもないんじゃ、」
「うるさい!」
まさかのまさかだったようだ。
元女神とは思えない豹変ぶりだ。
そういう趣味じゃないが悪くない。
「分かりした!しばらくのあいだ宜しくお願いします!」
俺は深々と頭を下げた。
そう言えば、体は人間に戻っていて久しぶりというか逆に不自然に感じた。
「それで宜しい。後、追加の能力とクマムシのやつどうせ使わないだろうから無くしとくよ!そんなの使ったら何のためにもならないからね!」
「いやっちょっと待ってくださ……
女神はわざとか俺の言葉が言い終わる直前で謎の光を放った。
神様はリストラされてもそういうの出来るのか?
もはや神様なのかも分からないが天国ってそういうの有りなのか?
目が開いた時にはあんだけ俺を悩ませていた倦怠感もさっぱり無くなっていた。
やっぱりあれは女神のせいだったのか。
背中に違和感を感じたので良く見てみるとコブみたいなのが出来ていて、羽を付けようとして辞めたみたいになっている。
何だよ女神。
目の前には、自称女神のフリーター住所年齢不詳が目を輝かせうろうろしていた。
神様の気まぐれに始まった俺のアリライフ。
なんだかんだで女王になり、アリが好きになり、遂には幼虫が愛おしくなり普通にこのまま死ぬことを願ったがそうは行かなかった。
女神の気まぐれによって。
これが正解なのか分からない。
というかこれ以外の選択肢を俺は知らない。
ただ目の前の道を歩いて行くだけだ。
追記、この一日は女神にコロニーの案内やらなんやらで潰れた。女神だからなんでも知ってると思うなとか言って逆切れされた。
注意⚠この作品はギャグ作品ではありません。
たぶん。