アリと弔いと明日
式当日の晴れた空は、まるで女王のように優しく見守っていた。
その式は戴冠式と同じような段取りで行われた。また、いつものように豪華なご馳走が振る舞われた。ここの食べ物に慣れた俺はやっと素直にご馳走美味しいと思えるのようになったので苦痛ではなくなった。
順調に式は進んでいた。
「あなたを女王としてお迎えします」
と女王が言った。
「皆さん!私が居なくなってしまっても決して悲しまないで下さい。なぜならこのたくましい女王様が貴女達には居るからです。
今日から彼女が貴女達の女王様です! 」
とアリ達に向けて言った。力強く強い意志があった。
俺とかとは違う何かを、
そして、俺は次の瞬間、目を疑った。
さっきまで優しく笑っていた女王の死は、近いと感じていたが、今すぐだとは思わなかった、だからこそ俺は目を疑ったのである。
さっきまで目の前で式を進めていた女王が突如何の前触れもなく倒れたのである
女王は何の意味を持ってか、女王の引き継ぎ式で自殺したのである。
俺はそんな事実を飲み込むことはできなかった、多分それはそこにいたアリ達も同じだろう。
後から俺はこんな話を聞いた。
女王はアリ達が私と同じように自殺をして後を追わないようにと策をねっていたらしい。
そうして絞り出した案が式中に自殺することだったらしい。
アリ達の好きな祝いの席、喜びの席で死ぬことはない、そしてその余裕もなく最悪のことにならないとふんだのだ。
女王は俺の考えていたシナリオの遥かに超える事をやってのけた。
俺は女王がアリ達に話を解くだけだと思っていた
しかし、女王は違っていた。
それ以上の覚悟を持っていたのである。
また、女王は「私が死んでも悲しまないでください」とそのことについての布石を置いていた。
つくづく感心するばかりである。
アリ達の中には、泣き崩れる者もいた。
しかし自殺をしようとする者はいなかった。
それでも、コロニー内は先程のような祝いムードではあるはずがなかった。
「みなさん、決して悲しんではいけません、私達は団結して新しい女王様と共にこの死を無駄にせず幸せにならなければいけません、そこで泣いててはいけないんです。」
こういったのはグレーテルだった。
また、この言葉には重みがあり、自分自身の決意の表れでもあった。
グレーテルも時があれば女王の後を追って自殺しようと思っていたはずだ。しかしこの言葉を聞いたからにはそうではないということを僕は悟った。
そして、グレーテルは
「女王様の弔いも込めて、しかし達ただの弔いではありません。女王様に感謝し、私達が幸せなる事を誓うのです。女王の死が意味を持つためにも」
と続けたその言葉はアリ達の心をつき動かした。
いざという時に一つに、完全に隙間なく、団結できるのがこのア達である。
何度も見たこの光景はいつもより暖かで勢力があった。
またいつものような昔話にも熱が入っていた。
女王様との話がどこからともなく交わされていた。
グレーテルの気のきかせた進行により、式は形を変え、無事に終わった。
いつもなら一日中続けられる祝いは2日目に突入しようとしていた。
しかし、俺には早くやらなければならないことが山ほどある。
まずは、アリの組織の見直し、餌、アリの数の管理の徹底。
まだ近いうちになければいかないことが他にもたくさんある。
ただそれ以上にやりたいこともある。
俺の中眠っていた魂が震え上がるような感覚に襲われた。
今まで味わったことないような、その感覚に襲われた。
しかし、もっと大切なことに俺はまだ気づいていなかった。
このことを知っていたら、もちろん女王にはならなかったことだろう。
俺は祝いの当該者なのにも関わらず、祝いの席をぬけだし、長いコロニーの廊下をゆっくりとすたすたと歩いていた。
特に何も考えずにただただ歩いていた。
一瞬、俺は夢のまどろみの中をさまよっているようなではないかと自分を疑った。
しかし、そうではないということに次の瞬間気づかされた。
それは自分の頭が冴え渡っていることで意識が確立された。
夢ではない、この光景は絶対に現実である。
そして、悟ってしまった。
そこには五六匹のわりと体中傷だらけになったアリが一匹佇んでいた。
それは誰がどう見てもイジメと捉えられるような状況だった。
「なぜ……」
まず、できた言葉がそれだった。
全員が同じから意見を持つアリ。
なぜ1匹のアリを敵にしなくてはならないのだろうか。
そんなことをすればこのコロニーは、壊滅へと進む。
こんなことをする必要がまずあるのだろうか。
俺は不思議でたまらなかった。
俺はこのコロニーの女王として、1匹のアリをとにかく、とにかく救わなければならないという正義感にかられた。
理由は後だ。
とにかく、とにかく、スタスタとそこへ駆け込むと
俺は
「何をしている」
と強い口調で言った。女王らしく言おうとしたが、その声は明らかに俺""だった。
「こいつは反逆者なんだこいつを一緒にいられることなんてできないよ、女王様が優しかっただけだ。仲間である必要はないんだ、もういらないんだ。」
「なぜそんな事をいう!私にはわからない!みんな仲間だろうに」
食い気味で言ってしまった。俺はこうならないようにいつも心を落ち着けていたが、仲間はずれが許せなかった。六匹のうち一匹のアリがやめようと言ったのを皮切りに彼らは立ち去った。
その後俺は、自分が女王であることを再確認した。情けない。
もっと女王をらしい行動を取れればよかったが、そうはいかなかった。
六匹の去っていったと俺は5秒ほど考えるのをやめた。
絶望に淵に立ったような気分だった。
目の前にいたのは紛れもないケビンだった。
なぜ……それしか頭のの中に浮かばなかった。