グレーテル兵士団指揮官 上級兵士
グレーテルさんのお話です。
若い頃は今とは違い、兵士団の前線で戦っていました。
そして、私には一緒に戦ってきた相棒がいました。
頼もしい相棒でした。
相棒と私は二人だけで戦っていました。
基本的に私が先に攻撃を仕掛け、後ろから相棒か援助するという形でした。さ
狩りをする時もコロニーの警備をする時もいつも二人で。
そんな私達は兵士になってから間もない内にどんどん出世していき上級兵士にのぼりつめた。
その時では歴代最短と言われていたと思います。
それもみんな相棒のおかげでした。
相棒のカズサは私より強く優しい心の持ち主でした。
彼女はいつも私を引っ張ってくれて私を強くしてくれました。
その日もいつもと同じように狩りをするためにある民家の軒下に向かっていた。
「カズサ、今日はどこで狩りをするの?」
「今日は民家の軒下だよ。いつもあまり行かないけど昨日の雨でみんなここに隠れているはずだ。
でもムカデやゴキブリには気を付けないと、アイツらは動きが早いし、隠れるのもうまい。」
カズサが全て言い終わる前にグレーテルは言った。
「私達二人なら大丈夫だよ、いくらソイツらでも私達が本気を出せばちょちょいのちょいでやっつけられる!」
「そんなことないよ、いつも気を付けていないといつ殺されたっておかしくない。慢心はやめた方が良い。」
そういわれて私はカズサとの差を感じた。
カズサの方が大人で私の一歩も二歩も先を歩いている。
それでも一度も殺されそうになったことはなかった。
「それじゃあ、行くよ!集中!」
これがいつものルーティンだった。
カズサが声をかけ、私はそれに付いていく。
民家の軒下は薄暗く不気味だった。
昨日の雨のせいで外気より涼しくなっていて、より一層不気味な雰囲気を演出していた。
カズサはそんなことは気にせずどんどん奥へ足を進めていた。
カズサの言っていた通りでエサになりそうな虫達の力尽きた死骸がある。
しかし、カズサは女王様へのご褒美のために生きていたものを捕まえて贈ると言っていた。
広い軒下をしばらく歩いているとカズサが
「おい、止まれ。あそこにムカデがいる。ヤツはこっちに気づいていない!戦うぞ、準備。」
と小さな声で言った。
ムカデは女王様でも一生に一度食べれるか食べれないかという代物なのだ。
その理由は簡単でムカデがとてつもなく強いからだ。
他のアリ達がムカデを倒すなんてことを聞いたら、冗談はやめろと言うだろう。
しかし、私達は本気でムカデを倒そうとしているのだ。
「了解。準備OK!」
と短い会話を交わして戦闘体制に入った。
まずは、私が突っ込む。
何かあったらなんて考えずに、あったとしてもカズサがいる。
ムカデは後ろを向いてるからその隙を狙う。
ムカデの弱点は首筋。
首筋目掛けて体を運んだ。
敵は気づいていない。
と思っていた。
ムカデは突如振り返り大きな顎が目の前に振りかざされた。
幸い当たらなかったものの見つかっている。
今回も一人で倒せなかった。
作戦変更
誘き寄せて倒す。
そしてカズサが留めを刺す。
カズサはもし見つかった時には、誘き寄せてくれと指示を出していた。
案の定ムカデは腹を立たせてこちらへ向かってきた。
私はひたすら走った。
その時だった。
後ろで小さな爆破音のようなものが聞こえて振り返った。
ムカデが首筋を噛みきられ崩れ落ちていた。
カズサはこちらへ歩み寄って来て
「誘き寄せてくれてありがとう。これで女王様に喜んでいただけるぞ。」
と何事もなかったかのように言ったが留めを刺す時も留めを刺すまでもアリ業とは思えなかった。
「カズサがいなかったら死んでたんだからお礼をいうのはこっちだよ。ありがとう。」
いつものように他愛もない会話をして帰ろうとした時だ。
背中の方から大きな影が忍び寄った。
それは明らかにムカデだ。
体を反転しようとした時にはもう遅かった。
上からムカデの大きな顎が自分の体目掛けて突進していた。
「危ない!」
その声はカズサの声だ。
カズサはとてつもない早さで私とムカデの間に入り込んだ。
そのままムカデの顎は減速することなく突っ込んだ。
カズサは咄嗟にまぶしい光を放ったが、
時すでに遅し。
私は軒下の柱に叩きつけられた。
突如の光に驚いたムカデは足早に逃げていった。
私はすぐにカズサの元へ駆け寄った。
「ごめん!私が周りを見るのを怠ったせいで、迷惑かけてごめん!」
カズサはニッコリと笑った。
しかし、いつものような優しい返事は返ってこなかった。
「カズサ、大丈夫?」
と声を掛けた。
カズサは体中の機能が停止し、そのまま崩れ落ちた。
まるでさっきのムカデのように。
私は最愛の相棒を亡くした。
私は大切な友を亡くした。
私は親愛なる師匠を亡くした。
まだ一緒にやりたいことは沢山あった。
まだ一緒に話したいことも沢山あった。
まだまだ教えて欲しいことは沢山あった。
私は自分のせいで、大切なもの亡くしてしまったのだ。
カズサと不本意なお別れをしてからしばらくは立ち直ることが出来なかった。
今更新しく仲間を作るなんて事は出切る筈がなかった。
カズサと別れた時から決めたのだ。
一人で戦えるようになっていつかまたあの笑顔を……
それから毎日自分を追い込みむ為に訓練を行った。
カズサに言われたこと、戦う中で自分が出来ていなかったこと全てやった。
そして、ずいぶんと月日が流れた。
私達の活躍も忘れ去られ、ベテランと呼ばれるようになったくらいだ。
コロニーにゴキブリが侵入してきたと聞いた。
もちろん私は、直ぐに向かった。
また、あのときのように後悔したくなかったからだ。
私が向かった頃には兵士団の大半が倒れていた。
そんな光景が見たくなくて逃げ出したくなった。
でも戦はなくてはならない。
そんなことを考えているうちに残っているアリが六匹になっていた。
皆私より年下のように見える。
私が引っ張って行かなくては、
しかしその前にリーダーシップを取っている若者がいた。
「あなたは私の援助をお願いします!」
その姿はカズサを写したようだった。
あっけに取られている私には気にせず彼女は先に進んでいた。
一緒に戦う。
役に立とうそんな感情が芽生えた。
戦闘準備!
指示通りに敵のリーダーを押さえる。
鍛えてきた力がやっと役に立った。
ゴキブリを誘き寄せることは簡単だった。
今までの経験とカズサとの日々。
彼女は飛び上がった。
その姿は一度見たことがあるような気がした。
留めの刺し方までも写したようだった。
この時私は二度目の決断をした。
"彼女を守り教える立場になって自分の持つものを全て捧げようと"