俺、女王になる。 かも
ついにその時が訪れた。
新しい女王が誕生した。また、同時に雄アリ達も生まれた。
俺の予想通りちょうど一週間だった。
生まれたばかりだが、旧女王より一回り大きくそこには女王の威厳があった。
その日のうちに、戴冠式が行われた。
特に王冠のようなものはないが、祝いの言葉や旧女王が励みの言葉を述べたりと一通り行われた。
女王が旅立つことはコロニーの衰退を意味しているのだ。
また、アリの世界では新女王が生まれると旧女王は自分の羽を切り捨てるという習慣があるらしい。
そんなこともあり、戴冠式は一日中行われる。
この日、アリ達は皆仕事を休み新女王の誕生を祝った。
祝って、騒いで、喜んで、涙をながして……
__それが自分達の”死"を意味していると知っていながら__
戴冠式では、ありったけのご馳走が振る舞われた。
しかし、当の本人は何のことだが分からずきょとんとしていた。
初めて見た世界が祝狂った世界だったら誰もが呆然としてしまうだろう。
その上何故か自分が奉られ式の主役だったら状況を読み取れなくて当然だろう。
新女王は式の間を見て端に座っていた俺に話かけた。
それが幼虫の時育てていた俺の顔を覚えていてなのか、それっぽい面影の俺に話かけただけなのか分からないが話しかけられたら答えるのが礼儀だろう。
「あの……なぜみんなんでよろこんでいるんですか。あと、なんであなたはよろこんでないんですか?」
考え事をしていたのをこの女王は見透かしていた。
大したものだ、これが女王の器というものだろうか。
幼い声で敬語が少し混じった不思議な話し方をしていた。
「皆さん貴女が生まれたことを祝っているのですよ。貴女はこのコロニーの女王様なんですよ。私も嬉しく思っています。ただ少し考え事をしていただけです。」
相手はまだ幼いというのに敬語で話してしまった。
やはり相手が女王様だと普段通りに話せないのは人間でいた時より強く感じた。
「そうなのね♪みなさんおんなじかおしているのにあなただけちょっとちがうきがしてきになっていたけどみんなとかわらないみたいでよかったわ。」
危ない。
この女王には何もかも見透かされているようで実態の分からない恐ろしさが俺の体中を駆け巡る。
それが天然の発想なのか意図しての発想なのかは俺には分からなかった。
そして新しい女王様はどこからか呼ばれて足早に去っていった。
その姿には生まれたばかりの赤ん坊ではなく明らかに女王としての風格があった。
旅立ちは早いだろう……
戴冠式の一通りは終わったもののアリ達のお祝いは終わらなかった。
明日も休む勢いでご馳走を目の前に騒いだり、思い出は話にふけったりしていた。
翌日
いつも通りの毎日に戻っていた。
騒ぎ散らしたり倒れ込んだりしているアリは一匹もいなかった。
さすが、アリである。
新女王が誕生したといっても女王達が育ち旧女王が倒れるまでアリ達は活動を続けるのである。
今日も兵士達の育成と卵達の観察を行った。
卵は一時増えたものの今は減る一方である。
コロニーが安定してきたことと女王が弱っているのが、原因だろう。
兵士達は順調に育っている。
「リーダー、ひとつお願いがあるんだが聞いてもらえるか?」
とグレーテルが話かけた。
グレーテルには兵士の育成や方針決めでもお世話になっているのでお願いのひとつや二つ聞くことはできる。
「なんですか、グレーテルさん。あなたがお願いだなんて。何でも聞きますよ。」
「そうかなら良い、聞いておくれ。私はもうじき死ぬ。ついこの間まで現役だったつもりだが、体にガタが来ているようだ。死ぬまではできることはやらせてもらう。でも死んでからのことはリーダー、あなたにお任せしますよ。信じています。それだけが伝えたかったのです。」
グレーテルは自分が死ぬことを分かっていながら他のアリ達のことを考えていた。
アリは皆そういうものなのだろうか。
「はい、わかりました!この私が責任を持ってアリ達を正しい道に導いて行きます。グレーテルさん私を信じていてください!」
「ああ、お願いする!できることなら女王様と一緒に死にたいよ。」
と短く言ってまた兵士達に武術を教えに向かった。
グレーテルは老体に鞭を打ってまで未来を背負う若者達のことを考えていた。
たとえ自分が死のうとも。
新しい女王が旅立ち、今までの女王が倒れた時このコロニーを救えるのは俺しかいない。