俺、アリになる。
「俺は世の中に擬態して生きるなんて嫌だった絶対に、」
俺は、死んだのだろうか……
確か俺は公園のベンチに座って……
そこからは思い出せない。
それよりも前の記憶までもがまるでと言って良いほど無くなっていた。
何か大切な事を忘れている気がする。
しかし思い出せない。
思い出そうとすると頭が痛くなってまともに考えられない。
「ん?身体がアリ、生きている?」
俺は取り敢えず生きているようだ。
体があって、動かせている。
俺はそんな事に気を取られていたが、まずここは何処なのだろう。
さっきまでいたベンチではまず無い。
視線を上げると、 目の前にあからさまに神様であろう老人が立っていた。
禿げた頭に白い髭、どうやってその形になったか不思議な杖、白いよれた和服、極め付きには頭の上に光の輪が浮いている。
神様じゃん!
「神様!どう言うことですか!何でこんな姿なのですか!教えてください!」
必死に叫んだが、神様は口を聞かなかった。
「お主は、“アリ″からやり直しなさい!」
神様は俺をつき放す様に言った。
「ど、どういうことですか?」
俺は神様の言っている事が理解出来ず聞き返した。
アリだなんて神様の中のブラックジョークかなんかだろう。
「解らんヤツじゃ、“蟻”として生きていくのじゃ!」
あっ、俺は全てを悟った。
どうもこれから俺は蟻としてアリ生を全うしなくてはならないようだ。
というか俺が何をしたというのだろうか。
「どうしたの?」
百%女神様と思われる人が、目の前に舞い降りた。もはや、コスプレだと言われればそのまま納得してしまうぐらい女神だ。
女神というより天使と言った方がしっくり来るだろうか。
神様は、小さな声で
Гこの罪人を“アリ″にして、送ってやろうと思っていたとこじゃ……」
といった。でも、明らかに聞こえていた。
否、わざと聞こえる様に言ったのだろう。
神様が物凄く憎たらしく見えてきた。
女神様は、
「"アリ″?かわいそー」
とワザとらしく言った。
続けて、
「せっかくなんだから、何か能力でも付けてあげたら?」
と言った。俺は、小さな希望が見えて、ほっとしていた。どちらにせよ、アリなのだが。
女神様本気神! って元々神か。
女神様と神様は同じ神様なのにどうしてこんなにも違うのだろう。
困った神様は、
「仕方ない!“アリ″に転生させる分、それ相応の能力を与えよう!」
と張り切って言った。
“こいつ、女神に弱過ぎだろ“と云う心の声は抑えつつ、興奮気味に
「本当ですか?どんな能力なのですか?」
と子供のように聞き返した。
「それはね~ん~どうしようか、じゃあどうしたい?」
と、突然女神様が言い出した。
俺は、そんなことがあって良いのかと思ったが、チャンスを与えてくれたので感謝である。
どうしようか、水を操るとか、炎を操るとか、テレパシーとか、テレポーテーションもいいな…いや、アリなんだよな~中学の頃の俺だったら真っ先に電気とか言っていたかもしれないがここは実用的に__
「おい!能力はいらないのじゃな!」
神様が、水を差すように言い放った。
神様はいつでも憎い。
「いや、いりますいります!でも少し時間を下さい!」
「それは、ムリじゃ!」
神様は、強く言った。神様は本当に役立たずだ。
俺は、とっさに、
「なんでですか?いいじゃないですか?」
と、思わず言った。
神様は、恥じらいながら
「それは…っ次があるからじゃ!」
と、つぶやいた。
「なんだよ、それ!」
反射的に声が出ていた。
また、言った後に嫌な空気が数秒流れた。
すかさず、女神様が
「それなら、わたしが決めてあげる!う~ん
どうしようか、永遠の命とか、水耐性とか、虫の世界なんだからこれなんてどう?、”クマムシ並みの耐久力”__」
クマムシってなんじゃい!
“クマムシ″
体長約0.5㎜~1㎜
陸上から海中に生息
極度の乾燥に耐える
150℃以上の高温から絶対零度近くまで耐える。
真空から75000気圧の高気圧に耐える。
高い放射能に耐える。
宇宙空間で10日間生きる。
(乾眠時のみ)
※弱点もあり
「まあいい、決まったなら行くがよい!」
その瞬間身体に変な音が流れ、目の前が暗くなった。