7章 時間と一緒に流れる音 3節
人物紹介
立木ゆたか(たちき ―)
高校2年 169cm
図書委員
小さい頃からのお姫様好きをこじらせた結果、ドールという名の理想のお姫様に囲まれた生活を送るようになった
本人は高身長にスタイルよしと、お姫様というよりは女王様的な容姿であることにコンプレックスを感じている
髪は茶色のセミロング、目は赤よりの茶色。やや仏頂面が多いと言われるが、感情の変化は割りと激しい
悠里に出会って以降、相変わらずあまり自分には自信を持てないが、彼女の一番の友達であろうという意識を強く持っている
白羽悠里
高校1年 143cm
吹奏楽部。担当はフルート。称号は「吹奏楽部の白銀笛姫」。ゆたかが個人的に付けている称号は「銀笛の魔性歌姫」
オーストリア人のフルート奏者の母を持つハーフで、美しい銀髪を持つに青色の瞳を持つ、小柄なお姫様を絵に描いたような女の子
既にフルートの演奏技術は大会を総なめにするほどだが、それ以外に関しては不器用で、勉強もあまり得意ではない。体育は何もできないレベル
古くから彼女を知る人は、フルートの技術だけを評価して、他のことには目を向けてくれないため、大好きだったはずのフルートにもかなり無気力になっている
ゆたかとの出会いの結果、再びフルートが大好きになって、彼女のためにアニソンを吹くことが増えた
結果的に、今まで知らなかった色々なことを知れるようになったが、アニメにラノベにゲームと、もろにゆたかの影響を受けた知識の広がりっぷりを見せている点については、ゆたかが一方的に心配している
小見川莉沙
高校2年 163cm
陸上部。得意競技は短距離。称号は「陸上部の青い彗星」
ゆたかの小学校からの親友で、数少ないゆたかの友達。ドール趣味も知っていて、かつ理解がある
友達でありながら、ゆたかのことをライバルと見なしていて、体育の授業の度に競い合っている
陸上には本気で取り組んでいるが、他のことにはやや無頓着で、これといった趣味もなく、深い仲の友達もゆたかぐらいしかいない
ただし、最近、交流の増えてきた華夜とは「友達」として先輩としてやや気を遣いながらも、親しくしている
青みがかった黒髪に、黒い瞳で中性的に整った顔立ちに、抜群のスタイルのため、男女問わずモテるが、少なくとも今は恋愛に興味なし
月町華夜
高校3年 155cm
生徒会の監査係。平時の役職は書記。称号は「生徒会の冷血女帝」。本来、生徒会役員に称号はないが、他の生徒からイヤミで付けられた
また、テニス部の部長も兼ねている
監査係として、部活の活躍度を厳しい目で審査し、大抵は渋い評価をしていくため、多くの生徒から煙たがられている
性格としても、自分にも他人にも厳しい完璧主義者で、他の生徒が部活動に邁進していい結果を残してくれるなら、と憎まれ役を買って出ている節がある
厳しすぎる性格から、友達と言える間柄の人物が極端に少なかったが、莉沙やゆたかたちと少しずつ打ち解けてきた
長い黒髪を普段はストレート、部活の際はポニーテールにしている
大千氏未来/小寺かこ
高校1年 146cm
バレーボール部。ただし最近は幽霊気味。退部の危機も近い
小柄で、地毛の茶髪をツーサイドアップにしている。瞳の色は金色に近い茶
何事にも一生懸命だが、やや皮肉屋な面があるリアリスト。あまり無駄な努力はしたくないタイプ
学校ではあまり目立たない方だが、既にプロのナレーション声優として活躍しており、その際の芸名は「小寺かこ」
常葉の「秘密の先生」として、彼女が声優を目指すための稽古をつけている他、彼女の悩み相談を聞いたりと、精神的に彼女を支えている
自分自身の成長は諦めている節があり、既に精神的には老後とは本人の弁
時澤常葉
高校3年 145cm
生徒会長。自称「生徒会の究極女王」
学校ではまるで王子様のような中性的な口調だが、素は女性的な口調
やや赤みがかった黒髪を、腰の流さまで伸ばしており、気分次第で髪型は変えている。瞳は赤色
元子役女優で、現在は声優を目指して未来と個人レッスンを続けている
非常に誇り高く、責任感の強い性格で、未来と華夜以外の人間には決して弱みを見せない
決して折れない心の強さがあるが、傷付かないという訳ではなく、特に未来には溜め込んでいたものをぶつけることが多い
3
青天の霹靂。
その一通の手紙は、私を動揺させるのに十分な威力を発揮した。
「ありえん……」
そいつを手にしながら、思わず呟く。
「ゆたか、それって――」
「莉沙!莉沙さん!莉沙姉貴!!」
「な、なんか異様にゆたかが僕を慕ってきてらっしゃる……。気持ち悪いなぁ」
少しすると、莉沙が登校してくる。
……改めて、よかった。莉沙が友達で。こういう時は、餅は餅屋に聞くのが一番だ。
「これ、ラブレターっぽいです」
「うひゃあ、やっぱり」
「莉沙、こういうのもらい慣れてるでしょ!?どうすればいいか教えてくれない!?」
「……そういうゆたかは、初めて?」
「うん」
まあ、ずっとオタやってましたし。オタサーの姫ってましたけど、あいつらラブレター書くなんて可愛いことするタイプじゃないし。
「んー、僕もそこまでもらったことある訳じゃないよ?」
「ほんとに?」
「うん。女の子から五通ぐらい、男子から三通ぐらいもらったぐらいだもん」
「十分多いでしょ、それ。んで、女子からのが多いのはすごく納得できる」
「僕としては納得できないんだけどなー。僕、そんな男前なタイプじゃないでしょ?むしろ、男子からもっともらっていいはず!」
「莉沙は見るからに男っぽくて、暑苦しいタイプじゃないからこそ、いいんだよ。実際、私も爽やかだからこそ、莉沙が好きなんだし」
「う、うーん……そっか。じゃあ、なおさら男子から来てもおかしくないんだけど」
「それはわからんでもないけど……ラブレターなしで告られたことは多いんじゃない?」
「んー、どこから告白に入るのかわからないけど、付き合ってー、とか、めっちゃライトに言われたことは数え切れないぐらいあるかも」
「……それだわ」
本当、この無自覚系のイケメンは……別に羨ましくはないけど、なんかこう鈍いところを見ていると、怒りにも似た微妙な感情が芽生えてくるな……。
「んで、どうすればいいの?」
「どうすればって、まあ、読むべきでしょ?で、お断りするなり無視するなり……」
「ネガティブな受け取り方するのは確定なんだ」
「じゃあ、逆にゆたか、OKするの?悠里ちゃんというものがありながら?」
「……さらっと悠里を恋人みたいな扱いしなさんな」
「違うの?」
「ち、違うよ……!」
やっぱり、この手紙は青天の霹靂過ぎる。私の人生設計の全てを打ち壊してくれた気がする。
「無視するなら、読まなくていいんじゃない?」
「いや、無視はオススメしないよ?きっぱりお断りした方が、相手にとってもいいだろうし」
「そ、そっか……そうだよね。うん……」
「しっかし、ゆたかにラブレターかぁ。納得っちゃ納得だけどね。ゆたか、奇麗だし」
「見た目だけで告られるなら、今まで何通でもラブレターもらってると思うんだけど」
「あははっ、それもそっか。……じゃあ、今のゆたかが魅力的だと思う誰かがいたんだろうね」
「……そんなの求めてないのに」
「そういうもんだよ、人からどう思われるかなんて」
はぁ、集団生活ってめんどくさい。完全に一人で生きる動物に転生したい。
「まっ、観念して読むけどね……うん」
「おーっ、男の子?女の子?」
「いや、どうせ男でしょ……」
封筒を開ける。……あえて文面については省略させてください。まあきっと、ラブレターの内容としては実に妥当なことが書いてあって、順当に差出人は。
「男の子、一年の子だね。ざっくり言うと、図書室で見かけて……って感じ」
「おぉー、最近の活動の結果って感じだね」
「……ん。まあ、相手が一年だから、私の過去とか知らないだろうし」
「僕からすれば、別に昔のゆたかって黒歴史でもなんでもないって思うけどなー。むしろ、やりたいことやってたから、充実してたように見えてたとすら言える」
「……充実はしてたよ。確かにしてた。でも、ずっと満腹だったとして……目の前に極上のステーキを出されて、どう思う?」
「ほほう、それが悠里ちゃん、と?」
「…………今は程よくハングリーなんで、思いっきり味あわせてもらってますよ」
「なるほどね。で、お断りするんだよね」
「せざるを得ないでしょ、それは。……正直、人からどう見られようが勝手だけど。ずっと相手をやきもきさせるのは悪いし、図書室を利用してるなら、また顔合わせる機会も確実にある訳だし」
「そうだね。……しっかし、相手が女の子なら面白かったんだけどなー」
「バカ言いなさるな。莉沙はともかく、私は同性から好かれるタイプじゃないでしょ」
「そう?」
「……そうなの」
別に、過去に何かトラウマがある訳じゃない。だけど、私は自分が女子に好かれないという自覚があった。
「とりあえず、放課後の図書室に呼び出されてるから、そこでお断りしかない、か」
「図書室って、下手すれば他に人いるんじゃないの?」
「まあ、本棚の影とかでこそこそっと、とか?後、ウチの図書室は残念ながらそこまで盛況じゃないから、普通に誰もいないタイミングはあるし」
「確かに僕、一度も行ったことないからなー」
「そういうもんだよ。今は電子書籍が相当来てるしね。私も家では基本、電子書籍だし」
別にそれがいいとか悪いとか、特に感想は持ってない。ただ、便利だから電子書籍で読むし、紙の本だって読む。
「まっ、そういう訳だから悠里には知られないで秘密裏に処理できるかな」
「悠里ちゃんは別に気にしないと思うけどね。むしろ、ゆたかすごいです!とか言いそう」
「……割りと想像できるね、それ。というか、あの子はあの子で告白とか受けないものなのかね?普通に見た目はいいし、性格も……性格も…………」
表面上、悠里は無口でちょっと不思議な感じ……だと思う。それなら、普通に男子のせいよ……じゃなかった、興味の対象になってもおかしくはなさそうだけど。
「うーん、僕からすると、あの子は高嶺の花オーラ強いかなー、とか思う」
「まあ、お嬢様っていうのは雰囲気でわかるしね」
「会長さんからも割りとするよね。あっちはどっちかと言うと、芸能人としてのスター性って感じだけど」
「スター性か……一般庶民とは決定的に違うものを感じるよね」
思えば、そんな人たちと私は普通に関係を持っている。本来なら、一生、直に会うこともなかったのかもしれないのに――。
そう考えると、いかに学校というものが不思議な施設なのかがわかる。それぞれ、住む地域も家族構成も、何もかもが違う。中学校までは受験をしなければ、地域ごとに通うべき学校が通っていたから、前からの知り合いも多いし、共通の話題が多い。ただ、悠里と話していてると、自然と二人の家庭の違いを意識させられる。
こんなに何もかもが違う二人が出会いを果たし、友達になったのは……本当に数奇な運命の賜物だ。
ただの友達相手に大げさだと思われるかもしれないけど。でも、本当にとんでもない偶然の結果だと、私は思っていた。
「とりあえずまあ……行ってくるよ、放課後。断らなきゃと思うと、気が重いなぁ」
「部活がなかったら、僕が応援に行くんだけどねー」
「来ないでよろしい。莉沙に見られてるかと思うと、無駄に緊張するから」
「あははっ、そうだよね。まっ、がんばれー」
「ん、できるだけ相手を傷つけない断り方を考えておきますよ。……はぁっ、なんで私なんかに告白しちゃうかねぇ」
「相手にとっては“なんか”じゃなかったんだよ」
莉沙は、ものすっごく優しげな表情をする。……さすが、告られ慣れてる方は違いますわ。
「立木先輩。その、いきなりお手紙をしてしまって……ごめんなさい」
「ううん。気にしてないよ。……えっと、あんまりもったい付けて言うのもアレだろうし、単刀直入に……言っちゃうね?」
「はい…………」
「あなたの気持ちは、すごく嬉しく思います。ほとんど話したこともない私に興味を持ってくれて、本当に……嬉しかったです」
ああ、気が重い。
「だけど、あなたの気持ちを受け取る訳にはいきません。私はまだ、男の人とお付き合いするだけの余裕がないから。……まだ、そういったことは考えられないから」
「…………そう、ですか」
相手の子は、私の言葉を噛みしめるように……目を瞑った。
胃がキリキリと痛む。こんなの、何回経験すれば慣れるんだか……!相手、決して容姿的には悪くないし、たぶん性格的にもそう悪くない、自分にそれなりの自信を持っていそうな子を、フるんだぞ……!?私、逆ギレされて刺されないか……!?
「ありがとうございます。立木先輩の素直な気持ちを伝えていただいて、嬉しかったです」
「……え、えっと。本当にごめんなさい」
「いえ――立木先輩にはやっぱり、白羽さんが一番お似合い、ですよね」
「…………はひ?」
「それはわかっていたんです。だけど、あの気難しい白羽さんと話している立木先輩を見ていて、いつしか立木先輩の方に惹かれてしまうようになっていて――一応、僕、元は白羽さん狙いだったんですけどね、ははっ……」
「お、おお……そうだったんだ」
「どうぞ、白羽さんとお幸せに……!立木先輩になら、白羽さんを任せられます!!」
「え、ええっ!?き、君どこ目線!?悠里にとっての何!?」
「白羽さんファンクラブの創設者です!」
「…………マジかい」
ゆ、悠里、そんなものを作られていた……!?
いや、絶対、本人に自覚はないな……というか、そういうものが作られるってことは、やっぱり莉沙が言ってたように、高嶺の花として密かに憧れられているのかもしれない。……仮に告白したとして、玉砕以外の未来しか見えないしな、あの子に関しては。
というか、そこ経由で、よりによってファンクラブ作った子が私に流れてくるって、なんなんだ。
というか、悠里がダメなら、私なら行けると思ったのか……?それはそれでなんか、ムカついてくるっていうか……。
「ちなみにそのファンクラブ、どういう活動してるの?」
「遠くから白羽さんを眺めたり、写真を取ったり、国語の時間の朗読や音楽の時間の歌声を録音したり――」
「ファンクラブ、解体で。もし続けるようなら、社会的に潰してもらうんで」
「はいいいっ!!?」
悠里、厄介なやつを集め過ぎでしょう、あの子……。