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隠し事は結構強いこと  作者: HANA BEE
第一章『白髪と赤髪の舞』
8/10

天然鬼講師と新米の初訓練

ここは宮廷の庭にある訓練所であり、広い敷地内の周りを柵が囲っている。そして、その柵の周りを囲うように強力な防御魔法が組まれているので、外からの侵入も中からの脱出も不可能である。


今、この訓練所には二人の人物が立っている。一人は『炎魔法の鬼』と謳われた魔術師グレイス・オムリオの娘であり父と同じ燃えるような赤髪だが女性特有の美しい毛並みを持つフィリノ・オムリオ。


そして、もう一人は昨日と比べると白髪が戻ってきたが、まだ黒髪が頭の八割を覆い整った顔に焦りの色を浮かべるレイス・ラ・カンデロドである。

両者はいま共に向き合い静止してはいるが、その間には戦う者同士の緊張感がある。片方を除いては........



どんな魔術師にも魔力の調子がいいときと悪い時があるように、レイスにももちろん調子の良し悪しはある。だが、レイスの場合はそれを白髪が頭を占める割合で把握できるのである。白髪の占領率が六割ほどを下回るときは、レイスの魔力が平均と比べて弱く、それを上回るとレイスは平均の人よりもずば抜けて魔力が大きくなる。

(また、六割以上の場合はレイスのテンションも高くなり、また好戦的にもなるのはレイスは気がついてはいない。)


しかし、今日のレイスは戦いのダメージも残っているのか、白髪の占領率は約二割ほどであり絶不調と言っても過言ではない。

こんな状態で戦えるわけはないとレイスは心のなかで思いフィリノに言うと、


「先輩を四時間近く待たせといて今日は特訓できませんだ〜!? なめてるんじゃないよっ!!」


そう強く言って地面を蹴ったフィリノはレイスに左足で蹴りを食らわせる。


「くっ!!」


レイスはその蹴りを右手で受けるが流石軍隊の精鋭、こんな可愛らしい女性でも蹴りの威力は半端ない。


「痛すぎですよ! てか今日は本当に訓練は無理です!」


そう騒ぐレイスにフィリノは、


「喋る暇があるなら魔法で防御固めたら?」


と余裕の笑みで言ってくると、さらにパンチや蹴りをレイスに食らわせる。その威力とスピードからレイスは最初の数発を受け止めただけであとの攻撃を直接食らってしまう。

『今この人に何か言っても無駄だ! しょうがないけどやるしかない!! だけど、魔法で防御を固めようにも魔法名を言う暇もない。』

そんなことを思いながらレイスはフィリノから距離を取るが、フィリノはすぐに間合いを詰めまた攻撃を仕掛けてくる。


魔法は『魔法名』を言い『魔法構造』が体内で出来ていればすぐに使用することができるが、フィリノの攻撃が早すぎるためレイスはその攻撃を受けるのに一杯一杯なのである。学校でもここまで本格的な対人戦はしたことがないレイスにとってフィリノの攻撃はあまりにも早すぎであり強力すぎであった。


「はぁ はぁ はぁ...なんていう強さだ」


「レイスくん君は気づいてると思うけど、まだ私魔法使っていないからね」


何度も攻撃を受け疲れが出始めているレイスとは反対に、彼より動いているはずのフィリノは汗一つかかずに楽しそうにレイスに言ってくる。先程からフィリノは蹴りかパンチしかレイスに食らわせてきていこない。

『もしかして、これは魔法が使えない人間との戦いを想定した訓練なのかもしれない』

レイスは疲れが出始めている頭をフルに使ってそう分析すると、手を前にかざし、


「テリピアート!」


その瞬間ものすごい風とともにレイスはフィリノから離れた場所に瞬間移動する。


「テリピアートか......レイスくんは風魔法も使えるのか......」


そう呟くフィリノの後ろからレイスはものすごい速さで新たな魔法名を言う。


「エクスペリメリウス!!!!!!」


炎がフィリノを覆い燃やし尽くそうと暴れるが、徐々にその炎が小さくなるのにレイスが気がつくと思わず、


「なぜだ!? 一体どうなってるんだ?」


と本音が漏れる。すると、炎の中から美しい女性の声が聞こえてくる。


「女の子の後ろに回って攻撃とか......卑怯すぎるだろーが!!!!」


声は美しいがフィリノのそんな喋り方は初めて聞いたレイスは一瞬隙を作る、すると炎がフィリノに吸い取られるように消え、そして、フィリノが魔法名を叫ぶ、


「エルファイアー!!!」


青色の炎がレイスに迫ってくる。まさか、魔法を使うとは思っても見なかったレイスは一瞬怯むが、瞬間的に脳内でこの魔法は受け止められないと判断し魔法同士の打ち消しを図ろうとする、だが、先程のフィリノへの炎魔法が効かなかったことから、多分彼女は炎魔法を打ち消す能力があるに違いないとレイスは判断し炎魔法での打ち消しを諦め風魔法での打ち消しを図る。


「エルフーン!!」


彼女の攻撃とは比較できないほど威力は弱いが炎魔法で打ち消しに行くよりはダメージは減るだろうとレイスは判断したが、緑色の風魔法と青色の炎魔法が衝突した瞬間に緑色の魔法は頼りなく消え、青色の灼熱の炎がレイスに向かってくる。


「もうダメだ...」


そう呟き両腕をクロスさせ防御を固めるがこんなことは無意味とレイスは理解している。こんな強力な炎魔法は見たことがない。これがレイスに当たった瞬間にレイスの肉と骨は溶け灰をも溶かしてしまうだろう。そして、レイスの存在はこの世からも消える。


『死ぬのか』


そう覚悟したレイスの目の前に青い炎が迫ってくるがレイスには死への『恐怖』というものはなかった。きっと、体が死を認めすべての機能を停止したことにより、レイスから『恐怖』という感情を抜き取ってしまったのであろう。またクロスしているはずの腕も力なく落ちる。

しかし、炎はレイスにぶつかる直前に消えてしまう。


「えっ?」


呆気なく消えた青い炎の欠片を見つめながら、レイスはただ呆然と立ちすくんだまま言った。


「今日の特訓はここまでだね」


この言葉を聞くとレイスは膝を落とし頭を抱える。恐怖という感情がレイスを襲い始め体の震えが止まらない。



「ヒール」


優しく呟くように言ったフィリノの手からは緑色の魔法が出ており、それがレイスを包む。

そして、精神が落ちつき、体の痛みもいくらかマシになると、レイスは立ち上がり、フィリノに礼を言う。


「特訓ありがとうございました。」


「どういたしまして、これが特訓になったかどうかは分からないけど...とりあえず、これから週五でこの実戦形式の特訓をするから。楽しみにしときなさい!!」


本当に楽しそうに言ってくるフィリノにレイスは苦笑いを浮かべる。


「でぇ、どうでしたかね? 僕の戦いぶりは?」


皮肉っぽく言ったレイスにフィリノは真剣な顔付きになると、


「はっきり言わせてもらうと、まだ実践では全く使い物にならないし、魔法も弱すぎる。その髪の色で魔力の良し悪しが分かるのは今日私もわかったけど、これからは魔力は毎日いい状態にしといて。まずは、毎日体から魔法構造を出現させて点検だね。あとは早く寝ることが大事かな。」


そうですかと少しがっかりするレイスだったが、続けてフィリノは、


「でも良いと思ったことは判断力の速さかな。エルファイアーに炎魔法を撃ってきたら、そこで君をクビにしようと思ったけど、私の加護の力を理解して風魔法を撃ってきたのはいい判断だったよ。うん。いいセンスしてるよ君」


『もうクビにしてほしいんですが』と頭のなかで叫ぶレイスとは反対に、外側のレイスは満面の笑みを浮かべ、


「ありがとうございます!!」


とフィリノに礼を言っていたのだった。




「じゃあ、今からお昼ご飯でも食べに行こう! 私がおごってあげるから!」


「ありがとうございます。初めての食堂だ〜!」


「そうかー 君ずっと寝込んでたから食堂は初めてか!?」


「はい、何が美味しいんですか?」


「カレーかな?」


そんな他愛のない会話をしながらレイスとフィリノは宮廷に戻るのであった。そして、レイスはお昼ごはんを食べながらフィリノの『加護』について話を聞こうと決めていたのだった。

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