『その笑顔、僕にください』
『加護』それは強力な武器になり特殊な能力をを持つことができる存在であり、その正体は長年この世に存在し消えることのなかった微精霊である。加護持ちは生まれたときから加護を持つものと、何かしらの理由で途中から加護を持つ者の2パターンである。そして、加護は決して人の目には見えないが、加護を持つものは自分の加護の能力を自然と理解し、また、他人が加護を持っているかどうかも自然とわかるのである。
代表的な加護は人間の王が持つ『剣王』、『剣鬼』、そして、三人の魔術師のみが持つとされ、微精霊たちを操ることのできる『精霊魔術』、『炎王』『百雷』『神風』『王土』『水霊』等があり、これら強力な加護を『聖護』という。また、強力な加護の中には人間または魔術師が悪魔と契約してできたものもある。そして、この加護持ちは戦いにおいて強力な武器になり、どこの国でも重宝されているのが現実である。もし加護持ちが死ねば加護は自然と強力な力を持つ者に付く。だが、すべてが強力な力や能力を持つわけではなく、場合によっては呪いの加護という力の発動条件が酷なものやその加護持ちになるだけで命を取られる加護もある。
加護の説明はココらへんでやめて話に戻ろうーーーー
「レイスくん静かにして!」
小さな声で注意してくるフィリノにレイスが周りを見ると、図書室の全員の目がレイスたちに向いていた。すまないと頭を下げ、レイスは自分の脳内を整理する。
レイスにとって加護とはおとぎ話のような存在であった。学校で加護について習ったときも教師は、
「人生のうちで加護持ちを見ることが一回でもあればお前ら幸せもんだ」
と言っていた。よって、自分が加護持ちと分かったいま、あのクラス全員が幸せもんということになるわけだが、そんなことはどうでもいいとレイスは思う。もしフィリノの言っていることが本当だったら、一体自分がもつ加護とはどのような力または能力を持つ加護なのだろうか? 疑問に思いフィリノに聞いてみた。
「君も知っているとおり、私は君が加護持ちっていうのは分かるけど、能力や力までは分からない。でもさっきも言ったとおり君の持つ加護はかなり強いね。うん。それだけは言える」
これだけ真剣な顔つきのフィリノは悪魔との戦い以来だ。
「君の加護が持つ力は......そうだな......」
フィリノは目をつむって少し考え込むと、そっと静かに目を開け答える。
「聖護クラスかな?」
「まじですか!!」
「だから静かにしなさいってば!」
また大声をあげてしまったレイスをフィリノが素早く止める。
「すみません......ついつい大声が出ちゃうんですよね」
「気をつけてねレイスくん、ここは一応図書室だから」
頭を下げながら謝るレイスにフィリノは優しく言う。この声、本当に癒されるなとレイスは思いながらも、一つの不安がレイスの頭をよぎる。が、その不安はフィリノの一言で消える。
「強力な加護ではあるけどもう契約は終わって完全に君のものになっているみたい。だから何も不安はないわ。」
「そうですか、よかった~」
レイスはホッと胸をなでおろす。なぜならば、加護を持つことができても契約が済んでいないとその力は使いこなせない。そして、契約を結ばずに長く加護を体に宿すと加護を持つものは死ぬこととなり、悪魔として生き返ってしまうのだ。
よって、いまのフィリノの言葉は素直にありがたく、あとはこの加護がどのような力または能力を持つか分かればいいだけだ。
しかし、レイスには一つ疑問があった。その疑問とは、加護持ちは本来加護をその体に宿した瞬間からその加護がもつ力や能力を自然と把握するが、レイスはいままで自分が加護を、それも聖護クラスのものをもっているとは知らなかったのである。そして、フィリノの魔法講義が終わり、自分の部屋に帰ってからもその疑問は消えることはなかった。
「全然寝れなかった......」
あくびをし目をかきながらそんなことを呟いたレイスは昨日の夜は加護のことが頭から離れず、ずっと自分の持つ加護を考えていた結果、ついに一睡もできなかったのである。イアンが心配そうにレイスを眺めながら、
「おい新人、大丈夫か?」
などと言ってくるものだからはっきりと、「もう全然寝れなくて、最悪です!」
と言うと、イアンは更に心配そうな顔になり、
「なんだ、怖い夢でも見たのか? もしそうだったら俺の部屋に来い、一緒に寝てやるから」
『キモチワルイ』、そう思ったレイスははっきりとイアンに、「遠慮しときます。」
と告げたのだった。そして、その時のイアンの顔はおもちゃを没収された子供のように寂しそうな顔であり、それを見ていたエルは大爆笑をするのであった。
「それにしてもフィリノ遅いと思わない? イアン?」
「いや、今朝一番にここに来て、『今日はレイスくんと特訓があるから』ってめっちゃ嬉しそうに言いながらどっかに行っちまったぞ」
「フィリノは特訓好きだからねー」
「はっ!?」
心配そうなエルにイアンは問題はなにもないふうに答えるが、レイスにとっては大問題である。『特訓』? 何だそれ? とレイスは頭のなかで大混乱を起こす。
「なんでそれをもっと早く言ってくれないんですか!?」
「いや、レイスは知ってると思って......」
「知りませんでしたよ!! 今朝って何時くらいですか?」
「五時くらい......だったと思う」
「五時!? もういま九時ですよ!! 四時間もたってる......最悪かよ。」
最後に素が出てしまったことに気が付かないレイスは続けてイアンに問う。
「どこに行くって言ってましたか?」
「さあな」
焦っているレイスにイアンはそっけなく返す。もしやこの人はKYではないかとレイスが思っていると、
「一階の外に訓練所があるけど、そこじゃないん?」
と変わったニュアンスで答えてくるエルにレイスは、
「ありがとうございます!!」
とお礼をし、急いで訓練所へと向かう。
「おっっっっそーーーーーーい!!!!!!!!」
ものすごい剣幕でレイスに怒鳴ってきたのは、彼の可愛らしい先輩フィリノである。ほっぺたが真っ赤になり頬をぷぅーと膨らました姿は、それはそれは可愛いく、レイスはニヤニヤを抑えるのに必死である。
「今まで何していたの? 昨日言ったよね、今日特訓するから朝の五時半にここに来てねって......今何時
だと思っているの?」
「九時半です」
宮廷内は想像以上に広く、迷子に何度もなっている間に三十分も経ってしまったのだ。これはものすごく怒られると覚悟していたが、このフィリノの顔を見ればそれはご褒美と言ってもいいかもしれない。
「先輩を待たせるようなことはしちゃダメよ! わかった人?」
『わ、わかった人? 幼稚園以来だよそんな聞かれ方。どう答えればいいんだ? とりあえずはーいって言っとくか』
そんなことを頭で考えると、レイスは手を上げ幼稚園児のように
「はーい」
と顔を赤くしながら答えたのであった。するとフィリノは満面の笑みをニッコリと浮かべ
「ならよろしい」
と言った。その顔はレイスが今まで見た女性の笑顔で一番可愛らしかったのであった。そして、レイスは心の中で、
『その笑顔、僕にください』
と呟いたのは秘密であり、彼が墓場まで持っていった事の一つであった。
いや〜なんとか書けましたよ。もうこれいつまで続けれるのか心配になってきました(笑)
(あとこれは秘密なんですが、ちょっとフィリノが自分の中で可愛くなりすぎてレイスが主人公だと忘れそうになってました(笑))