新事実
温かい日差しが顔にあたり、花の良い香りがする。レイスは目を開け周りを見るとそこは見慣れない小部屋である。体を置きあげようとするが背中に痛みが走る。
「痛っ!」
そう小さく言うと、
「動いちゃダメだよ。今は安静にしてなよ。」
と誰かがレイスの側で言う。声がした方向を見るとそこにはタレ目に金髪のボブヘアーの女性、エルが座っていた。日差しがちょうどエルの髪を照らしていてとても綺麗だとレイスは思う。
「よかった、意外に早く回復したみたいだね。君...いやレイスくんは気を抜いた隙きに悪魔の魔法でぶっ飛ばされたそうだよ。これからはどんな相手でも気を抜かないように。あと一応言うと、レイスくんは二日間寝てたから。」
言い方はそっけないがエルの顔は安堵の表情でいっぱいだ。どれほど心配性てくれたかは分からないが、なんだかとても嬉しいとレイスは思いながらも気になっていることを聞く。
「それで悪魔はどうなったんですか?」
「そりゃあ、フィリノが倒したよ。本来なら彼女一人で数分もあれば足りる相手だからね。」
「ハハ...そうなんですか......」
『だろうな』と心のなかでレイスは呟く。レイスの見たフィリノの戦いぶりは悪魔を圧倒していた。あれほど自分も悪魔は圧倒できるようになるのだろうか? はっきり言って自信はないなどと考えていると、
「自分もフィリノのようになれるのか考えていただろ?」
「へっ、あぁ、まあ......」
「皆フィリノの戦いを見ると思うんだよ。彼女ちょっと特殊だから。」
「特殊......?」
「フィリノは父親からの遺伝で悪魔との戦いには異色の強さを誇るんだ。」
「父親、ですか? 一体フィリノさんのお父さんってどんな人なんですか?」
そう聞くと一瞬エルの顔が暗くなったが、いつも通りの顔に戻ると、
「炎魔法の鬼、グレイスオムリオ。フィリノのお父さんの名前だよ。」
と彼女は意外にもあっさりと答えてくれた。そういえばグレイスオムリオといえば何処かで聞いたことがある名前だとレイスは頭をフルに使って思い出そうとするが、どうしても思い出せない。するとエルが、
「三体いる上級悪魔と一対一ならば同等に渡り合える伝説の魔術師だよ。」
「上級悪魔と一対一で同等に戦える!? それはすごいですね!」
「すごいでしょ? てか知らなかったんだ!? 炎魔術師でオムリオと聞けば絶対わかると思っていたのに! すべての炎魔術師の憧れだよ!!」
顔を真っ赤にしながら熱弁するエルの姿を見るに、彼女にとってもグレイスオムリオは憧れの存在なのであろう。
「でも、三年前の当時四体いた上級悪魔の討伐戦で一緒に討伐隊に参加していた娘のフィリノを庇って重症を負ってしまってね.....いまは一線から退いているんだよ。」
「だからフィリノはそれをいまも悔やんでいてね、新しい子がウチに入ると徹底的に鍛え上げるんだよ。自分自身を守れるようになるために。」
「そうだったんですか......」
どう言葉を返せばいいかわからないレイスにエルは続けて、
「でも今回は違った。フィリノはあなたを連れて討伐に向かった。いままでのパートナーだったらおいて行ったのに......」
「なんでフィリノさんは僕を連れて行ったのでしょうか?」
「さあね、今度フィリノに聞いてみなよ。」
わかったと頷くとレイスはエルにあることを聞く。
「今回フィリノさんが僕を連れて行ったのは間違いだったのでしょうか?」
「あはは! フィリノも帰ってきて同じことを言ってたよ!! 君たちいいコンビになるね!」
そう笑いながら答えるエルだったが、真剣な顔つきになると静かにこう言った。
「間違ってない。間違っていないよ。結果的には君はこんな状態で帰ってきたけど......でもフィリノは間違ってないよ!! だからフィリノを絶対責めないでね? 約束だよ。」
そう言ってくるエルにレイスは頷くと、
「分かってます。今回の怪我は自分の責任ですし、フィリノさんを責める気はありません。というか今回はいい経験させてもらいましたよ、だって僕はまだ悪魔と戦った経験がありませんでしたから。結果的にはこういう結果でしたが......」
苦笑いを浮かべて答えるレイスにエルは安心したような顔をする。
「じゃあ、私は仕事に戻るから。とりあえず絶対に立ち上がったりしないよ!! ちゃんと安静にしていなさいよ!!」
少しクールなエルが女性らしく言ってくれたことにレイスは少しときめきながらも、母親のようにその可愛らしいタレ目をきつくしながら言ってくるとレイスは一言わかりました、とだけ伝える。するとエルは笑顔で部屋を後にしようとするが、立ち止まってレイスの方を見ると、
「いま君の髪の毛の色黒色だけどそっちのほうがかっこいいよ。白は似合わないね。」
といつも通りのエルのように言ってくる。きっとまだ魔力が戻っていないのだろうから黒色になっているだけであって、またすぐ白に戻ることをエルに伝えようとするが、それをやめてレイスは笑顔をエルに返すとエルは部屋を後にした。
『安静にしていなさいよ!!』
さっきエルに言われたことを思い出しながら、
『きっと母親がいたらこういうふうに言ってくるのかな?』
そうレイスは考える。レイスには母親と呼べる人はいない。まだ彼が幼かったあの日、あの暑い日、あの瞬間にレイスの人生がおかしくなり始めた。幼い彼が目を覚ますとそこには父親と母親がレイスを庇ったような形で倒れていた。真っ赤に染まった母親の髪は本来の白色を失い黒く染まっていた。
そして、今もレイスはそこから先も前も思い出せないでいる。ただ一つ、レイスの髪がその日初めて真っ白に染まっていたこと以外は。
治療魔法のおかげか、次の日には体を元通りに動かせるほどレイスは回復していた。
「おっ、体は平気なのか?」
そう聞いてきたのはガタイのいい筋肉質の男イアンだ。
「もう平気です。治療魔法ってすごいんですね!」
「まあな!! こんなもんだろ!!」
腕を組みながら何故か自信満々のイアンにレイスは『あなたが威張ることではないと思うんですけど』と心のなかで呟く。すると、一人の少女がレイスに走って近づいてくるとレイスを抱きしめたではないか!!
「どうしたんですか!?」
どぎまぎしながらレイスが聞くが彼女はレイスを強く抱きしめるとそのまま彼の胸に顔を埋めたまま答えてこない。
『こういうときは抱きしめてあげたほうがいいのか!? いや、先輩だぞ先輩!! それは失礼だろ!! アホか自分!? いやそういえば自分アホだったわ!! てかなんか柔らかい物体が自分に密着してるんですけど!? なんなんだこれ!? いや答えはわかってるけどさ! ていうか落ち着けレイス!! 胸の鼓動がフィリノさんに聞かれたら大変だぞ!!』
そんなことをコンマ数秒で頭のなかで考えるレイス。そして、顔をレイスの胸から離すとフィリノは目元に涙を浮かべながら、
「良かった元気になって! 悪魔の攻撃を直接受けるんだもん!! 本当に死んじゃうと思ったよ!!」
そう大声で言ってくるフィリノにレイスは
「ごめんなさい。次からは気をつけます。」
とまだ冷静になれていないがなんとか答える。
「下級の悪魔って言ったって攻撃を受けたら熟練の魔術師でも死んじゃうことがあるんだからね! 次からはもっと戦いに集中して!! わかった?」
「そんな目をされたら全部『わかりました』って言っちゃいますよ?」
すこしおどけながら言うレイスにフィリノは
「本当に分かってるの!!!???」
とさらに大声で言ってくる。手を上げながら降参のポーズを取り
「わかってます。すみません。」
とレイスは言うが、フィリノはまだ『彼は分かっていない』と思っているのか、レイスの腕を強引に掴むと、
「図書室に行くよ」
と言ってきた。
「お願いだから、レイスに無理させないでくれよフィリノ」
そう説得力のないほど小さな声でボソボソと言ってくるイアンを無視してフィリノはレイスを図書室に連れて行く。
「まず魔法というのは精神魔法、かかると喋らなくなることから沈黙魔法と呼ばれたりするわね。あと治療魔法、そして、構造魔法と呼ばれる三つの基礎魔法から枝分かれして炎、水、風、土、雷、闇、光とあるわけだけど、」
図書室に着くなり大きな本をいくつか持ってきて、レイスに魔法について話し始めたフィリノにレイスはそれくらいのことなら知っていると言いたい気持ちを我慢して彼女の話を黙って聞いていた。
「その人の体質や性格、後はその人自身の希望によって使う魔法は変わってくる。そして、使う魔法の分野を決めたらまず何をするかは知ってるよね?」
「使いたい魔法用に構造を書き換えます。」
「そう! 構造をその人に合うように書き換えないと、その分野の魔法がその人に馴染めなくて力を発揮できないのよね! まあ加護持ちなら別だけど、普通の人は加護を持ってないけど君は加護を持ってるよね?」
そう聞いてくるフィリノにレイスは笑いながら、
「加護なんていうたいそうなものは持ってませんよ!」
と答える。加護がある魔術師、人間は強い力を持ったり特殊な能力を持つことができるが、その『加護』を持つことができるのは千人に一人と言われている。したがって、当たり前のごとくレイスは加護を持たないし、持っている人を見たこともない。しかし、フィリノはレイスの答えを聞くと目を丸くしながらしながら驚くことを言う。
「君には何かすごーく強力な加護がついているよ!?」
「はっ?」
状況判断ができず顔がポカーンとなっているのはレイス自身にもわかる。しかし、状況を飲み込みはじめるとレイスは叫んだ。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
周りの人々が一斉にレイスたちの方を向くがレイスは驚きでそのことに気がついていない。
「あと一応言うと私も加護持ちだから」
あっさり言ってくるフィリノにレイスはさっきよりも驚き、
「なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
と大声で叫ぶと周りの目は一瞬にしてレイスとフィリノの方向を向く。しかし、レイスにはその視線を感じることができない。なぜならば今この瞬間レイスの驚きは最高潮に達していたからだ。
この話書き終わって気がついたんですが、コメントが2つも来てましたー!!
コメントくださった堀塚龍さん、横長ごんスケさん、ありがとうございますm(_ _)m
これからも『隠し事をしています。実は結構強いです。』をよろしくお願いします。
あと用事があるので明日はおやすみでーす!!
コメントじゃんじゃん待ってます!!!!!