初任務
ウルノ村に着くと、そこには頭から山羊のような角が生え、長い爪を持った三メートルほどの怪物と五人の警察隊が交戦していた。周りを見ると二人の警察隊が倒れており、いまこの怪物と交戦している警察隊が敗れるのも時間の問題であろうとレイスは悟った。
「状況は?」
フィリノが冷静に聞くと、
「はい、ウルノ村に悪魔が出現し」
「そんなことは分かってるよ! けが人は?」
フィリノは少し強めに言うと、警察隊の男は姿勢を正し、
「けが人は警察隊の隊員二名でとも重症ですが、村人には一人もけが人は出ておりません!」
「よし、後は私達に任せて警察隊の皆さんは村人の避難の手助けをしてあげてください。」
わかりましたと、警察隊の男が頷くとその男は仲間に撤退命令を告げる。
「スモーク!」
警察隊が五人一斉に魔法を悪魔に向かって放つと、黒い煙が悪魔を包み悪魔は周りが見えず獣のように吠える。そして、警察隊が全員撤退すると、
「こんなやつに七人使って二人重症とか、警察隊の今後が心配だね?」
警察隊は軍の中でも成績優秀者が入る精鋭の中の精鋭のはずなので、レイスはフィリノの聞いていることを理解できない。
「警察隊って成績が優秀な人が行く場所ですよね?」
とフィリノに尋ねると、
「そうだけど、警察隊はあまり戦いには参加せず町や村に配属され見回りとかをするんだよ。だけど、軍の精鋭は毎日のように戦いをするから、戦いの経験値は私達のほうが断然彼らよりも上なの。それに昔の警察隊は軍にも威張ってばっかで言うことを全然聞いてくれなかったけど、、最近はその実力差を理解して言うことを聞くようになってるんだよ。」
「そうなんですか.......」
レイスは最後の方は全く聞いておらず、フィリノの言った『毎日のように戦いをする』という言葉が妙に引っかかっていた。一体誰と毎日戦うのだろうか?
「君もしかして悪魔を見るの初めて? あれはメリヘムっていう下級悪魔だよ。」
何か違うことを考えていると思われているようだがレイスは、
「下級悪魔ってことは、弱いんですか?」
「悪魔の中ではそうだね。でも普通の魔術師と比べればあっちのほうが魔術師よりは強いかな。まぁ、軍の
それも精鋭の私達の敵ではないけれど。」
そう軽く言ってのけるフィリノは続けて、
「君はあまり戦いに慣れていなみたいだから、私の戦いかたをよく見てて。そして、私が『いいよっ!!』って言ったら自分の得意な魔法でも放ってみてね。」
分かりましたとレイスが言おうとしたが、そのときにはフィリノの姿はもう無く悪魔がいる方向から、
「魔法を撃つ準備しといてね!!」
と聞こえる。レイスは慌てて言われたとおりに自分の得意魔法『デイフィオルフレイム』の準備を始める。魔法は魔術師がもつ魔力や、一人ひとりの魔術師の持つ一千を超える『魔法構造』また性格などによって、その威力、速さ、命中度など色々なことが変わってくる。そして、この『デイフィオルフレイム』も上級魔法で殆どの魔術師達は使えない魔法だが、なぜかレイスはこの魔法を得意としている。魔法を撃つ準備が終わると、レイスは悪魔と交戦しているフィリノを見る。警察隊七名でも苦戦していた悪魔である、きっとフィリノも苦戦しているに違いないと顔を上げ悪魔とフィリノを見るがその状況にレイスは息を呑む、
「嘘、だろ?」
悪魔の攻撃を身軽なステップで交わし、強力な炎魔法を放ち悪魔に圧倒的優位に立っているのはフィリノではないか!
「焼き尽くせ!」
そうフィリノが空中で逆さになったまま叫ぶと炎が悪魔を覆い尽くす。
「ウォォォォォォォォ!!! オォォ!!」
悪魔は吠えるが、フィリノの攻撃は止まらない。
「久々に悪魔と戦えたけど、君じゃ準備体操にもならないなぁ」
そんなことをブツクサ言っているフィリノは悪魔の振りかぶった手をジャンプでかわし、背後に転移すると、
「はいどーぞ」
精神魔法を悪魔に放つと悪魔は怯み、それと同時に大きな声で、
「いいよー!! レイスくんの得意魔法見せてよ!!」
と満面の笑みでフィリノがレイスに言ってくる。こんな状況であんなに可愛らしい笑顔をするなんて、どんな心臓をしているのかレイスは聞きたくなるがそれを抑え、
「いっけーーー!!!!」
レイスが叫ぶと、上級魔法『デイフィオルフレイム』が悪魔に命中し大爆発が起こる。
「やったのか?」
レイスがそう呟くと、フィリノは首を振りそれを否定してくる。
「今の攻撃を見る限り使う魔法もいい、魔力も申し分ないしそれでいて撃ち慣れてるって感じかな。だけど構造がちょっと変かな? なんか魔力のせいでグチャグチャになってる感じがする。」
それをあっさりと言われレイスが驚くのも無理はない。いまの一撃だけでそこまで分かってしまうとは一体彼女は何者なのか? たしかに今日はレイスの魔力は大きい。それこそレイス自身が操れていないほどに。だがその魔法をレイスが使う姿を一度も見たことがない彼女が構造、魔力の大きさを一瞬で見破るなど不可能だ。
『一体彼女は何者なんだ?』
それだけがレイスの頭の中をぐるぐると回っているが、その疑問は一瞬で吹っ飛ぶ。レイスの体と意識と共に。
「バーン!!!!」
ものすごい大きな音がする。そしてレイスの顔の上で、
「大丈夫レイスくん!?」
きっと、焦っている天使の声はこんな声なのだろうとレイスは思いながら闇に落ちていく。