最終話 気性の荒波
―――――――――――――――――――あれ以降、私は学校に出向くことなく、あの高校を辞めた。香寿は私を、よくやったと褒めるけれど、私はあのやり方で良かったのか、と思うこともある。
穂村さんは無事学校に通えるようになったそうだが、穂村さんの良いウワサは、あまり聞かなかった。私の思った通り、あの子はやはり自意識過剰なのだ。香寿は時々、私の家に来てはあの高校の話をする。私は既に他校の生徒だし、関係のない話なのだが。
「進学クラスの奴らが、俺たちにやんや言わなくなったのは、紗奈のおかげかもな」
という香寿の言葉を聞いてしまうと、どうも頬が緩むのだった。
どうも私は、気分が乗るとその勢いで行動を起こしてしまう節がある。私はきっと、穂村さんと鉢合わせしてしまった雨の日、雨音に乗せられて外に出たし、担任に嚙みついたあの日は、香寿の言葉に乗せられて反乱を起こした。私は自分の気性の荒波に乗って、これからも生きていくのだろうか。だとしたら、私の今後の人生は、鋭くとがった茨の道を突き進むことになるやもしれない。それでも良い、と思うのは、私のことを良く知っている香寿が、近くにいることをよくわかっているからか、穂村さんが救われたことを嬉しく思っているからか。私には分からなかった。
青空の下を歩いていると、ときたまに私の嫌いだった、あの制服を見かけることがある。知っている顔も時々はお見掛けするわけで、その度に私は、奇妙な気持ちになった。エリートと私では、学力は雲泥の差があるかもしれない。だが人としての思いやりなんかは、きっと私の方がずっと高尚なものを持ち合わせているのだろうな、と思う。
「勉強ですべてを決められるのは困る」
私の言葉に、今ならあのクラスは頷いてくれるのだろうか。不毛なことを考えながら、私は今日も、一歩外へ踏み出していく。