4話 孤高の戦士
――――――――――――――――――――黄色い海の中を泳ぐ夢を見た。永遠に続くであろうその水面下を、魚の様に進んでいく。ある程度進んだところで、視界は全て真っ暗になって、目が覚めた。
夢だ、と分かる夢は、これが二度目だ。昨日の青い海の夢も、不思議な夢だったが、今回はより不思議だった。海は黄色いし、魚の様に泳いでいたのだから。
珍しく目覚まし時計と同時に起きた私は、急いで制服を着て、朝食を口に突っ込み、駅に向かって走った。私は決めたのだ。進学コースにもヤンキーが存在するという事実を、校内中に知らしめてやると。そして奴らの石頭をかち割ってやるのだ、と。
駅から電車で五分、一駅先の大きなショッピングモールを超えた学園都市に、私たちの学び舎は建っている。機械的な外見、寒色ばかりの制服が相まって、私たちの通う高校は、非常に冷徹に見えた。
「見てろよ、1年1組」
私の今日の風貌は、商業科にも居ないような、派手なヤンキーの様だ。黒のアイラインが私の目つきをより一層悪くしている。髪はこれ見よがしに巻いて、まるでパーマ後の様。ブラウスの第一ボタンはおろか、第二ボタンまで閉めず、リボンは金メダルの様に提げられている。スカートも何回折ったか忘れたが、とにかく短いし、靴下もハイソックスをわざわざルーズソックスの様に履いている。私の中のヤンキー像はこれ、なのだが、香寿に見せたらきっと笑うだろう。
ヤンキーの風貌で、早速教室に入ってやった。見事、教室は騒然とし、学年で一番成績のいい学級委員長が、私に話しかけてきた。
「何だ、その化粧は」
まるで自分は生徒の模範です、と言いたげな顔をして、そんな言葉をかけてくる。やっぱり私はこのクラスが嫌いだ。
「落ちこぼれに構ってる暇があるなら自分のプライドの為に勉強なさったらどうですか、委員長さん」
私に口で勝てない、と分かると、委員長は教室を飛び出して行った。きっと職員室に行って私のことを密告するのだろう。予想外の事態ではない。寧ろ好都合だった。
程なくして担任が、私を職員室に呼びつけた。素直に職員室に行ってやると、わざわざ大多数の先生の輪の中でお説教をしてくださった。全くありがたくないお言葉である。
「藤代、お前に限ってこんなことするとは思わなかったよ」
担任に言われたその言葉に、私は我慢の限界を迎えてしまった。私が口を開けば、きっと停学処分になるか、退学になるだろう。だが、それは怯む様な事態ではない。
「いや、あんたが私の何を知ってんの」
私の言葉に、藤代、と叫ぶ担任教師。はい、と返事をしてやりたい気分だが、それよりも今は教師に対する説教が先だ。
「昨日、穂村さんが休んだ理由知ってますか?クラスで嫌がらせを受けたからだよ、それはもう、陰湿な」
小テストを配られなかったり、移動教室の連絡を回さなかったり。教科書を忘れても穂村さんには見せてあげなかったり、グループ学習では一人ぼっちにしたり。
「勉強出来なきゃ人としても終わってるとか、本気で思ってんの?だとしたらあんた相当馬鹿だよ」
別に、穂村さんを守ってあげたいという感情はないけれど。私はあの状況を黙認してきた穂村さん本人と教師に、腹を立てていた。
「勉強しか出来ないのは、何も出来ないのと一緒だよ。人の気持ちなんか分からない能無しなんだから」
何も言えない様で、教師が全員黙り込んでしまった。私は職員室を飛び出して、学校を出て行った。もう二度とこの学校に来ることはないだろう。清々しい気持ちでいっぱいだった。