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私たちの○角関係  作者: 鈴野あや
13/14

十二話「今世の幼馴染み」

同性愛表現あり、注意。(ごくわずか、軽めです)

 部活紹介が全て終わって、体験入部の用紙を手に、るんるん気分で家に帰ってくると、玄関に見知った靴を見つけた。

「ただいまー」

「あ、やっと帰って来た」

 玄関からリビングに向けて声を出すと、そこからひょこっと顔を出したのはお母さんではなかった。

 ふんわりとした黒髪に、大きな瞳、かっこいいと言うより、むしろ女の子より可愛い男性がそこにいた。声はそれなりに低いものの、女の子だと言われれば、女の子にも聞こえるその声の主は私の姿を瞳に映した途端、瞳を輝かせた。

「おかえり、結芽ちゃん」

「なんで、ゆずるお兄ちゃんがうちにいるの?」

「え、なんか冷たい」

 咄嗟出た言葉に、譲お兄ちゃんは嘘泣きをする。しかしそれは、いつものこと。慣れたもんである。

 私はそれに突っ込まず、敢えてスルー。そのまま階段を上がっていった。

「結芽ちゃん、突っ込んでよ!」

「嫌だよ、譲お兄ちゃんに突っ込むときりないもん」

「お兄ちゃん悲しい!!」

「はいはい、わかったから。着替えるから五分経ったら部屋に入ってきて」

 譲お兄ちゃんは、部屋に入る許可をもらうなり、嘘泣きをやめた。

「りょーかい!」

 そんな譲お兄ちゃんに、私はこっそりとため息をついた。


 私には三つ年上の幼馴染みがいる。もちろん、それは前世ではなく今世での話だ。

 そう、それがさっき出迎えてくれた譲お兄ちゃんだ。

 そして今、私は到底三つ年上には見えない譲お兄ちゃんになぜか熱弁されていた。

「ねぇ、結芽ちゃん、聞いてる!?」

「あー、うん。聞いてるよー……」

 譲お兄ちゃんがわざわざうちに来ているということは、なにかしら私に話を聞いてほしい時が多い。だから今日も部屋に来てもいいよ、と言った。

 けれど、まさかこんな話だとは思いもしなかった。

 遠い目をしながら聞いていると、すかさず譲お兄ちゃんに注意されてしまう。だけどこればかりはさすがに許してほしい。そう思ってしまうのは、私だけではないはずだ。

「好きな人ができたんだよね?」

 譲お兄ちゃんは恋多き男性だった。だから昔からよく相談に乗っていた。

 同性とか同い年の友達にすればいいのに、と何度も言ったのだが、僕のことを一番分かってくれているのは結芽ちゃんだけだからと一蹴され、年下なりに一生懸命乗ってきた。

 だから今回もそうなのだろうと踏んでいた。もちろん、それはあっていた。けれど、その相手がまさかすぎたのだ。

「そうなんだよ、一目惚れしちゃってさ」

「うん」

「スラッとした背に、堂々とした立ち姿。店員さんに話しかける声もいい感じに低くて本当にかっこいいんだよねぇ」

「うん」

 皆さんお気づきだろうか、この違和感。

 いやでも、まだ大丈夫だ。モデル体型で、アルト声の持ち主なのかもしれない。ちょくちょく女性じゃないかも? だなんて思うところはあったけれど、まだ決定的な一言をもらっていない。

 けれどその一縷の希望は次の決定的一言で覆された。

「かっこいい男性だったんだよー。名前なんていうのかなぁ?」

「…………おふ」

 思わず私は机に突っ伏した。

 そんな私の肩を叩きながら、不思議そうに譲お兄ちゃんは声をかけてきた。

「どうしたの? いきなり机にうつ伏せちゃって」

 察してほしい。まじで、察してほしい。

 しかし残念なことに、譲お兄ちゃんは察するほど勘がよくはない。むしろ、私にこういうことを相談する辺り、疎いくらいだろう。

 そこがいい、可愛い、という人は確かにいる。

 けれど今日くらいは言わしてほしい。

 まじで勘弁してくれ、と。

 同性愛に偏見はないけど、身近な人がってなると受け入れる方も準備ってものが必要だ。

 そんな私の心の内を知らず、今度は頭のつむじをつんつんとつついてきた。

「結芽ちゃーん? おーい」

「……ごめん、なんでもない。んで、どこの本屋で出会ったの?」

 だんだんと突かれるのが鬱陶しくなってきた私は、覚悟を決めて顔をあげた。

 ようやく話を聞く体制になった私に、譲お兄ちゃんは頬を赤らめて話し始めた。その姿は恋する乙女そのものだった。むしろ可愛い顔立ちをしているし、知らない人が見たら、本当に女性だと勘違いしそうだ。

「ほら、隣町にさ、大きな本屋あるじゃん?」

「もしかして、文房具とかすっごい豊富なとこ? ここから自転車で三十分くらいの」

「そう、そこそこ。そこにさ、画材をすっごく真剣な眼差しで見てる人がいてさ。その姿がすごいかっこよかったんだよねぇ」

 もしかしなくても、私が悠くんと今世で初めて出会った場所だ。しかも画材を売ってる場所とは、まさに同じ場所ではないか。あそこは、出会いの場所かなにかなのだろうか。

「へぇー。んで、譲お兄ちゃんは声をかけたの?」

「もちろん。だってレジで会計するときに、声を聞けるかわからなかったし。それに声を近くで聞きたかったし。だから後ろ通りますって声かけたんだよ。そしたらさ、ちょっとどいてすみませんって。もう本当に好みの声でさ」

 なるほど、用事がなくても確かにその方法なら、声はかけられる。

「でもさ、名前とかはさすがに初対面では聞けなくて」

「そりゃ、そうだろうね」

「だから僕は決心したよ、あの本屋に通うことを」

「その人がいつ来るかもわからないのに?」

「だって行動しなくちゃ、進展なんてしないでしょ?」

 なに当たり前のことを聞いているの? という顔をされ、少しむっとなる。

 そういう行動力持っているのは、なかなかいないと思います。けれどそんなことを言ったら、譲お兄ちゃんはきっと反論してくるから、言わずにおく。

「でも顔はいつでもみたいから、撮った」

「…………はい?」

 ちょっと待って。本当にちょっと待って。

「だから、写真撮ったの」

「……それ犯罪だよ、譲お兄ちゃん」

 思わず真顔で事実を突きつければ、お兄ちゃんは明後日の方向を向いた。

「携帯、貸して」

「い、嫌だ」

「いいから、貸して」

「絶対に嫌だ」

 譲お兄ちゃんは実に分かりやすい。ズボンの右ポケットを両手で隠して、私から盗られないようにしている。

 私は警戒する譲お兄ちゃんの隣へ移動すると、耳に息を優しく吹きかけた。

「ひゃあぁぁ」

 譲お兄ちゃんは耳が極端に弱い。それは幼馴染みだからこそ、知っている弱点だ。

 両手のガードが緩んだ隙に、私は俊敏な動きで譲お兄ちゃんの携帯をゲットした。

「結芽ちゃん、返して!!」

「写真消去したらね」

「消去せずに返して!!」

「却下する」

 譲お兄ちゃんからしたら無情かもしれないが、世間的には私が正しいはずだ。それに、携帯にロックをかけていない譲お兄ちゃんも悪い。

 私は慣れた手つきで操作して、その写真を見つけ出した。

 すぐに写真を消去しようとしたが、写真に映ってる人を見て、操作する指が止まった。

「譲お兄ちゃん」

「……なにさ」

 譲お兄ちゃんは、瞳を潤ませて私を睨んでいた。確かにその顔は可愛いけど、私の決心は揺るがないぞ

「想い人ってこの人?」

「そうだよ……。かっこいいでしょ? だから消さないでよ」

「消します」

 譲お兄ちゃんに肯定をもらって、私は速攻消去ボタンを押した。

 無情だ、鬼だ、鬼畜だ、と涙目で言われようとも、後悔はない。


 だって写真に映っていたのは――前世の幼馴染みの悠くんだったのだから。

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