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私たちの○角関係  作者: 鈴野あや
12/14

十一話「部活動」

 午後の五、六限が終わり、掃除の時間がやってくる。

 いつもであれば、掃除とホームルームをして終わりなのだが、今日は違う。待ちに待ったこの日を、私は朝からドキドキワクワクと待ち構えていた。

「これから体育館で部活動の説明を行う。部活動は強制ではないが、説明会は全員揃っての参加だ」

 えー、と不満の声を上げる者もいれば、どの部活に入る? と友人たちと相談している者もいた。

 美優はバイト一本だから部活動はしないし、私もすでに入りたい部活があるから、何の部活に入ろうなどと話題にはしてなかったものの、たくさんの部活の説明が聞けるのは楽しみにしていた。

 体育館に入って準備を待っている間、美優が話しかけてきた。

「うちの高校って無駄に部活の種類多いよね」

「無駄とか言わないの。その無駄に入るであろう部活に私は入りたいんだから」

「あー、ごめん、ごめん。ってかなんだっけ? 結芽が入りたい部活って」

「あれ、言ってなかったっけ?私が入りたいのは――」

 入りたい部活を口にしようとしたところで、準備が整ったから今から説明会が始まるというアナウンスが流れた。

 体育館はしんと静まり、自然と私も続きを話すのをやめた。まあ、その部活の紹介が始まったら美優にこれだよ、と合図すればいいだろう。そう判断して、壇上に視線を移した。


 部活動が多いこともあり、各持ち時間五分程度で説明が進んでいく。最初は運動部からはじまり、開始から一時間くらい経ったころにようやく文化部の説明に移った。運動部は実践的なものが多く華やかで、文化部は吹奏楽が誰もが知っている曲を演奏して賑やかだったものの、他部活動は作成済みのものを舞台中央に置いて説明するだけのところが多かった。それでも視覚的にはかなり充実していて、つまらないと思う暇がなかった。

 そんな両極端な説明が終わり、そろそろ終盤というところで、私が最も入りたいと思っていた部活が紹介された。

「次に紹介するのは『イヌネコ部』です」

 紹介されて一番最初に壇上に姿を現したのは、茶色い毛並みで膝下くらいの大きさの雑種だった。その顔は遠目から見ても愛嬌があって可愛らしく、同学年の子たちから可愛い、などと声が上がる。

 その茶色の犬を先頭に、先輩たちに連れられて、猫と犬が交互に壇上へ現れた。それぞれきちんと飼い慣らされていて、私たちの興味津々な視線をものともせずに、堂々と歩いていた。

 総勢十匹の犬と猫が、先輩たちの指示の元、その場に大人しく座る。その姿に感動した生徒の中には拍手するものもいた。

 私はといえば、ようやく入れるんだという興奮で知らずの間に美優の袖を引っ張っていたらしい。

「制服引っ張りすぎ。結芽が入りたい部活ってこれなの?」

「あ、ごめん。ようやく入れるんだと思ったらつい」

 イヌネコ部。その名前の通り、犬と猫を飼育する部活である。部活の始まりは、ある生徒が野良猫を拾ってきたところからだった。

 家では飼えないけど、見捨てることもできない。最初は隠れて飼っていたのだが、それが先生に見つかってしまう。保健所に連れていかれてしまうかもしれない、と思っていた生徒は必死に先生に頼み込み、特別に学校で飼う了承を得た。

 そこで次に登場するのが、動物好きの生徒たち。彼ら、彼女らは自ら率先して野良猫の世話をした。その姿に当時の校長が感動して、処分される動物を一匹でも減らすためにこの部活を新設した、というのがこの部活の始まりらしい。

 他の学校にはないこの学校の独自の部活。

 前世はアパートに住んでいたからペットが飼えず、そして今はお父さんが動物が苦手でペットが飼えず。だから早く部活動がはじまらないかとわくわくしていたのだ。

「結芽、動物好きそうだもんね」

「うん、大好き! でも家で飼えないからさ、せめてこういうこととかでお世話したいなぁって思ったんだ」

「へぇ、いいんじゃないの? 結芽って面倒見とか良さそうだし」

「えへへ。部活動で動物と触れあえるとか本当に幸せ。最初は中々お世話させてもらえないかもだけど、がんばる!」

「うん、がんばれ」

 総勢十匹の犬と猫が披露する芸に、目を輝かせながら美優と小声で話す。

「でもこの部活って人気そうなんだよね。やっぱ犬とか猫って可愛いし、癒しだし」

 その証拠に周囲の子たちがイヌネコ部に入ろうかな、と相談しているのがちらほらと聞こえる。定員オーバーになったらどうしよう。そんなことを不安がっていると、美優に何故か自身満々にそれは大丈夫だと言われた。

「なんで?」

「それはね、入ったらすぐにわかるよ。ペットは確かに可愛いけど、可愛いと思うだけじゃペットは飼えないから」

 その言葉の意味が、ペットを飼ったことのない私にはイマイチ分からず首を傾げてしまう。むしろその言葉を聞いて、私がこの部活に入って大丈夫なのかとそっち方面で心配になってきた。

 そんな私に苦笑しながら、美優は私を頭をくしゃりと撫でる。

「大丈夫だよ、結芽なら。だってお世話がしたいんでしょ?」

「う、うん」

「ん、なら大丈夫」

「そうなら、いいんだけど……」

 美優が大丈夫って言ってくれるから大丈夫だと信じたい。少しの不安を残しながらも、明日から始まる体験入部に胸を馳せた。

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