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一:神護の森

 静謐な森の中、聞こえてくるのは滝の落ちる音と小鳥のさえずりだけ。現代の日本ではかなりの遠出をしなければお目にかかれないような、豊かな自然がこの場所には存在していた。

「・・・・・・」

 水の流れる音に耳を傾けながら、私は閉じていた瞳をゆっくりと開いていく。長い時間目を閉じていたため、強い光に少し目を顰めるが、これが意外と不快ではない。

 今は日課である瞑想のために、住んでいる村「シャディノ村」の裏手にあるここ、「神護の森」と呼ばれる場所に来ていた。

 体内の気を整え、周囲の気を感じ取り込むということは、陰陽道を含む魔術や呪術にとって重要な要素だ。そのため、こうした毎日の瞑想は欠かせない。

 特にこの森は陽の気と陰の気のバランスが良く、こうした修行にはピッタリの場所だった。

 一人で歩けるようになって約3年、私はこうして毎日のようにこの場所に来て修行を続けている。

 お陰でこの年にしてはかなりの術を再び使えるようになっていた。どうやらこの体は、今までの体に比べて術を扱うための気を、随分と上手く練ることが出来るらしい。

 前世やその前の生でもこの肉体であれば、随分と楽だったろうにと思う。しかし、それはまぁもしもの話だ。今はこの体に生まれたことを喜んでおこう。

「セイ~!そろそろお昼の時間よ~!」

 座っていた大岩から降り、長時間同じ姿勢で居たために凝り固まった体を、伸びをしながらほぐしていると、木々の奥からそう声をかけながら一人の女性が出てきた。

「母さま・・・」

 絹糸のような金髪に、特徴的な長い耳をした美しい女性、名前をプエラリア=エイバムと言う。

 その女性が、今生での私の「母親」だった。

 その特徴的な耳は、エルフと呼ばれる種族特有のものらしい。

 ・・・そう、エルフだ。ゲルマン神話に起源を持つ森の妖精、現代日本ではファンタジー作品などで有名なあの種族らしい。

 若々しい見た目に反し、年はすでに100を越えているのだという。この時点で、彼女が人間とは大きく異る種族だという事がわかる。

 そう、人間と違う種族、亜人種と呼ばれる種族が、この世界・・・・には普通に存在するという。

 まだ会ったことはないが、ドワーフや獣人といった創作ではお馴染みの種族も普通に存在するらしい。

・・・少なくとも、平安の世にも、現代日本にも、そんな種族は実際には存在しなかった。

 いや、もしかしたら私が知らないだけでどこかにひっそりと存在していた可能性もゼロでは無いが、少なくとも普通に存在・・・・・などはして居なかった。


 私、安倍晴明が安部春秋となり、そして今、セイ=エイバムとして生を受けて6年。

 

 

 新たに生を受けたこの場所はどうやら日本ではなく・・・異世界、そう呼ぶべきものであったらしい――




「おかえり、セイ、プエラ」

「ただいま、父さま」

「ただいま、あなた」

 母と一緒に家に帰ると、迎えてくれたのはブラウンの髪を短く切りそろえた精悍な男性だ。

 ヤナ=エイバム、そう呼ばれる彼が、私の父だった。

 どうやら今日の昼食は父が用意してくれていたようだ。ちなみに父は普通の人間種らしい。

「すぐに昼食の準備ができるから、手を洗ってきなさい」

「はい、父さま」

 そう答えて私は水汲み場まで行き、井戸に備え付けてあるポンプで水を組み上げ、手を洗う。

 このポンプ、竹製ではあるが、私が考案して父に作ってもらったものだ。

 体はまだ6歳の子供の物である上に、すっかり現代日本の生活に慣れきってしまったのだ、いちいち井戸から水を汲むという作業は面倒この上なかったからだ。

 これを考案して作ってもらった時はやはりというか、随分と周囲の大人たちから驚かれた。

 天才だなどともてはやされるのは晴明時代もそうであったし、春秋時代でも幼少期はやはりそうであったので今更どうこう思わないが、やはりこの程度でもてはやされてしまうのは微妙な気分だ。

 そう、どうやらこの世界は現代日本と比べて、大分文明レベルが低いようなのだ。物によっては平安の世と比べてもなお低い。

 そんなレベルだからか、はじめは粗末な家と思っていた我が家も、どうやら村の中では比較的立派な家らしいということもわかった。

 なんでも母は元々エルフの貴族の家の出らしく、父も今はもう引退したらしいが、かつては王都の騎士団で騎士団長をしていたとかで、周囲と比べてもかなり裕福な家らしい。

 とは言え平安の世では、私は一応平安貴族の端くれでもあったし、ましてや現代日本の家を知っている身からすると、どうも実感はわかないが。

 ちなみに今の両親の仕事は、父は村の剣術道場の師範、母は治療院で治癒術師をしているらしい。

 父の道場は、元騎士団長の肩書もあってかそこそこ多くの門下生が居た。私もよく顔を出すが、なるほど、確かになかなかの使い手とわかる人間も多く居た。

 そして、そんな使い手達を指導できる父の剣の腕は、確かに騎士団長を任じられるにふさわしい実力だった。

 平安の世にも頼光殿や綱殿のような剣の名手は多く居たが、その彼らと比べても遜色ないように思われる。

 もっとも、剣と刀では扱いは違うし、そもそも剣術に関しては誇れるほどの技量は持っていないため、なんとなくでしかわからないのだが。

 そして母が働く治療院、これは治癒術師が怪我や病気を治してくれる場所の事だ。

 治癒術師とは、治癒魔術を使う術師のことで・・・つまりそう、この世界では魔術が一般的なものとして使われていた。

 とは言え、実際正しく扱えるのは一部の者だけで、そういう者たちを魔術師、その中でも治癒魔術を主に使う人間を指して治癒術師と、そう呼ぶらしい。

 こういった知識を、言葉を覚え文字を覚えた後、家にあった書物を読むことで得て行った。

 この場所が日本ではなく、それどころか私の知っている地球であるかどうかすら怪しいと判断したのは、そういう書物を読んでの結論だった。

 地図を見たところ大陸の形は大きく違うようだし、日本列島らしきものも見当たらなかったのだ。夜空を見上げても、星の並びも大きく違う。これでは占星術も一から作り直しだ。

 もしかしたらここは数万年後の地球で、大陸の形なども変わり、今の世界は以前までの文明が滅んだ後に新たに生まれた文明で・・・なんて三文小説のような設定も思い浮かんだが、流石に無いと思いたい。

 まぁ本来なら泰山府君祭の原則として、転生する場所は必ず私が死んだ場所、つまり日本であるはずなので、その可能性もあるといえばあるのだが。

 かと言って、ならば本当に異世界かと言われると、確かに幽世等、『異界』と呼ばれる概念の存在は知っているが、それは決してこんなマンガやゲームに出てきそうな世界ではないのだ。実際どうなのかは未だに判断はつかない。

 しかしまぁ、裕福な家というのはどうやら本当のことらしく、この世界では貴重品とされるらしい書物が、家の書斎にはかなりの量があった事は非常にありがたかった。

 お陰で今の私は6歳にしてはかなりの知識を得ていた。世間の評価では、本を読むか森に籠るかばかりしている変な子供という認識のようだが、どちらも私にとっては必要なことだったのだ、仕方がないだろう。

 ただ、そんな私だが、例えばポンプなど役に立つ物を考えついたりもするということで、周囲の大人たちは割りと好意的な目で見てくれているようだった。

 「少し変わっているが賢い子供」というのが村での共通認識らしい。あまりこの年の子供らしくない言動や行動だが、行動を縛ったりせず好きにさせてくれているのはありがたい。

 転生したばかりの頃はどうなることかと思ったが、どうやら今回の生、周囲の環境には意外と恵まれているようだ。





 3人での昼食の後、母は治癒院に、父は道場へ戻るそうだ。

 私はどうするかと聞かれ、今日は久しぶりに父の道場に顔を出すことにした。

 陰陽道の修行・・・まぁ、対外的には魔術の修行と言ってはいるのだが、とにかく修行のために森まではよく歩いて行くが、それは運動というほどのことではない。一応多少は体力作りのためにトレーニングらしきこともやっては居るが、やはりたまにはこうしてきちんと運動をすることも必要だろう、健康のためだ。

 そんなことを父に説明すると、その年で健康の話をするなんてまるで年寄りのようだと呆れられてしまったが。

 仕方がないだろう、肉体はともかく中身の実年齢は100歳以上の年寄りなのだし、前世の春秋は病気で死んだのだ、健康には気をつけなければなるまい。

・・・実年齢と比較しても私よりも年上の母が見た目通り若々しく振舞っているのは、エルフという種族のせいだと、そう思うことにしよう。





 道場に着くと、多くの門下生たちが素振りを行っていた。

 ちなみに彼らが練習に使っている竹刀も、私が考案したものだった。それまでは普通に木刀を使用しており、けが人が絶えなかったからだ。

 まぁ治癒魔術があるので怪我は比較的簡単に治るとはいえ、それでは母の仕事が一向に減らないのだ。

 竹刀を導入してからは怪我人が大幅に減ったため、母からは仕事が大分楽になったと感謝された。何でもそれまでは一日の患者の約半分以上がこの道場の門下生だったらしい。

「お、セイじゃんか!珍しいなお前が道場に来るなんて」

 声をかけてきたのは、私と同年代の一人の少年だった。金髪を短めに刈った、ややツリ目がちだが美少年と言っても差し支えない容姿をしている。

「まぁ、たまには運動しないと、健康に良くないからね」

「あいかわらず爺さんみたいな事言うなお前・・・」

 失礼な、体はまだピチピチの6歳児だというのに。健康というのは日々の積み重ねが大事なのだ。

「まぁいいや、折角来たんだし、ちょっと手合わせしようぜ!」

 そう言って目の前の少年、フェイ=ティールは持っていた竹刀をこちらにビシっと突き出してくる。

「わかった、けど、まずは準備運動してからだ。急に体を動かすと怪我するからね」

「またそういうジジ臭いこと言う・・・大体、急に襲われた時とかそんな暇無いだろ?」

「それはそうだけど、そういう訓練じゃない場面でまでそんな事考えることはないだろう?怪我は少ないほうが良いんだし」

「そんなもんか・・・?」

 どこか納得言ってない顔をしながらも、フェイはこちらの言い分を聞き待ってくれていた。

 フェイとは家が近所だからか、よく一緒にいることが多く、私にとっては数少ない友人と言える人物だった。

 まぁ、感覚的には孫を見守る祖父という感覚に近いところがあるが。

 けれどそれも付き合いが長くなれば薄れてくるだろう。前世の春秋の時も幼いころの友人にはそういう感覚を持った物だが、やはり精神も肉体に引きずられるのか、次第に自分が老人という感覚がなくなり、付き合いが長くなると対等の友人という感覚に変わっていったものだ。

「よし、こんなもんかな、おまたせ、フェイ」

 簡単な準備運動を終え、改めてフェイと向き合う。フェイが構えるのを見て、私も自分用の竹刀を両手に一本ずつ握り、構えを取る。

「お、なんだなんだ、フェイの奴またセイ坊っちゃんに挑んでるのか?」

「懲りないねー、フェイも。まぁ筋は良いからいつかは勝てるかもしれないけどな」

 私達に気づいた周囲の門下生たちが、素振りをやめこちらに集まってくる。こうしてフェイが私に挑んでくるのはもはや恒例行事となっているからか、毎回こうしてギャラリーがつくようになっていた。

「なんだ、またやるのか?」

 そして、その様子を見て父が審判役をしてくれるのも何時も通りだ。この道場での最高責任者が審判してくれるのだ、その結果に文句をつける人間は居ない。

「今日こそ、絶対勝つ!」

 フェイのほうは気合十分のようだ。私もフェイの真っ直ぐな剣は相対していて気持ちのいいものなので、こうして手合わせをするのは結構好きだった。まぁもっとも・・・

「まだまだ、フェイには勝たせてあげられないな!」

 いくら専門ではないとはいえ、6歳の子供に負ける訳にはいかないが!

「それでは・・・始め!」

「うぉおおお!」

 父の合図とともにフェイはこちらに突進してくる。やはり毎日鍛えているからか、このくらいの歳の子供とは思えない速さだ。

 そしてその勢いのまま放たれる上段からの振り抜きを、私は両手の剣を交差して受け止める。

「くっ、動かねぇ・・・!」

 これが一本の竹刀であれば、例えば受け流したりしてもう一度距離を取ることも出来ただろう。

 だが、私はあいにく2刀流であり、しかも交差させた竹刀でフェイの竹刀をガッチリと挟んで押さえ込んでいる。そのため、フェイはそこから竹刀を動かせない状況になっている。

 そう、私は二刀流で竹刀を扱っている。というのも、私が晴明時代に修めた剣術が、二刀流のものだったからだ。

 何故二刀流か、それは、これが純粋な剣術ではなく、陰陽道の一環としての剣術だからだ。

 それぞれの刀を陰と陽に見立て、時には儀式を行いながら魔を祓う。これはそういう剣だ。

 陰陽師といえば、どちらかと言うと術師としてのイメージが多いため、剣は全く扱えないというイメージもあるようだが、実際はそうでもない。かの有名な源義経が修めていたという京八流の開祖、鬼一法眼も元は陰陽師であるし、意外と刀との縁は深いのだ。

 ただ平安の世には頼光殿や、綱殿を筆頭とするその麾下の四天王たちなど、純粋に「剣士として強い」人間が多く居たため、それらと比べると剣術としては私の剣は見劣りするというだけだ。決して剣が扱えないというわけではない。

 まぁとはいえ、この剣術は元々魑魅魍魎を相手に戦うためのもので、人相手を想定したものではない。そのため試合などになればやはりきちんと剣を修めた者に軍配が上がる。しかし・・・

(子供の剣など、獣のそれと大して変わらないしな・・・!)

 フェイが力を込め、無理やり防御を突破しようとした瞬間に、私は右手の竹刀に込める力をゆるめ、そのまま左手の竹刀でフェイの竹刀を左に受け流す。そして空いた右手で、前につんのめりバランスを崩したフェイの側頭部を狙うが・・・

「うぉっ!危ねぇ!」

 フェイはとっさにそれを、自分からさらに前へと倒れることでギリギリ回避する。ふむ、咄嗟にこういう回避ができるというのは、確かに皆が言うとおりに筋は良いのだ、フェイは。しかしまぁ・・・

「よぉし!今度はこっちの番・・って、ちょ!まっ!」

 フェイが体制を立て直し、こちらを振り返った瞬間、今度はこちらから攻撃を仕掛ける。右手で剣戟を入れ、そのまま体を回転させながら、バックハンドで左手の剣戟を入れ、さらに回転しながらまた右手で剣戟を入れ、と、連続攻撃を容赦なく浴びせる。

 回転しながらの連続攻撃というのは、恐らくまっとうな剣術ではあまり見ない攻撃方法だろう。それもそのはずで、これは本来儀式も兼ねているからだ。

 『舞』による術式は割りとどの魔術でもポピュラーなものだが、当然陰陽術にもある。禹歩、反閉などと呼ばれる、歩法による術式もその一つだ。

 特に剣舞は、刀禁呪とも呼ばれ、極めればこうして実戦の中にも組み込むことが出来る。

 と言うより、私の場合はむしろ剣舞「しか」できないので、実戦の中で剣舞を使うのではなく、剣舞を無理やり実戦で使っているという感じなのだが。

 で、剣舞なのだが、儀式を行うための舞である以上、必ず決まった動きになる。なので、対人戦ではすぐに動きを読まれてしまい、本来使いものにはならないのだ。

 初めて戦う相手にこそ動きの特殊性、練度で多少は有効だが、2度目以降ではある程度心得のあるものには簡単に動きを読まれてしまう。

 その事は当然師範である父には見抜かれており、初めて見せた時こそ驚かれたが、その後すぐにもっと臨機応変に動けなければ実戦では使えないとダメ出しされている。

 まぁ、本来これは『剣術』ではなく『舞』なのだから、当然といえば当然なのだが。

 しかしまぁ、剣の心得があるわけではない魑魅魍魎には有効な手段であり、剣の心得というほどのものにまで至っていない6歳時相手にも当然有効な訳で

「ぐっ!くぅっ!」

 どんどん攻撃を受けるフェイに余裕がなくなってくる。むしろただの6歳児ではここまで受けきることは出来ないだろうことを考えると、フェイはかなり優秀だ。

 けど、段々とこちらも面倒になってきたし、この辺で一気に決めてしまおうと思う。

 私は体内の陰と陽、両方の『気』を練り合わせ、圧縮し、それを体の隅々まで行き渡らせる。

 いわば身体強化の術で、私は『練気法』と呼んでいる。今回は少量の気を練っただけのため少し腕力が上がる程度だが、全力で使えばおよそ人間には不可能な動きでも可能になるだろう。

 だがまぁ今回はその程度で十分だ。フェイも疲弊しているし、ここで少し力を込めてやれば・・・

「あっ・・・」

 私の一撃を受け止めきれなかったフェイの手から、竹刀が飛んで行った。

「・・・そこまでだ」

 審判をしていた父の一声で、試合は終了となる。これは一応剣術の試合になるのだし、剣を失えばそこまでということだ。

「・・・参りました」

 一瞬呆然とした後、悔しそうにフェイがうつむく。下馬評通り、今回も私の勝利だった。



「・・・なぁ、セイ、お前、最後身体強化の魔術使わなかったか?」

 試合の後、フェイが少し訝しむようにこちらを伺ってきた。恐らく最後、急に一撃の威力が上がったことに違和感を感じたのだろう。

「いや、使ってないよ。私達の年齢ではまだ使うのは禁止だって、父さまから言われてるだろう?」

 一応この世界にも、身体強化術としての魔術が存在している。一般的に強化魔術とも呼ばれているそれは、原理的には練気法と近いものだ。

 まぁ、私から言わせれば非効率的この上ないものなので、自分で使うことは無いのだが。

 そしてこの強化魔術だが、扱いがかなり難しいと言われる上、体にかなりの負担がかかるのだ。そのため、12歳を超えるまでは使ってはならないと道場では決められている。

 しかし、私が使ったのは『練気法』であって『強化魔術』では無い。そのため、まぁ効果は近いが嘘は言っていない。

「それに使えば父さまは気づくだろう?魔力が見えるのだし」

「そりゃまぁ、そうなんだけどさ・・・」

 そして父は、この世界でも珍しい『魔眼』持ちであるらしかった。

 なんでも父は魔力の流れというものが見えるらしく、相手が魔術を使おうとすると、すぐにそれが何の魔術かわかるらしい。

 また、その流れに干渉して魔術を打ち消したりも出来るらしく、なるほど戦闘に魔術が多用されるこの世界では強力過ぎる力だろう。

 魔術師だけでなく、剣士でも強者は強化魔術を当たり前のように使うというし、ならそれを無効化出来る父はどちらにせよ有利な状況で戦うことが出来る。そう考えれば、その上で剣士として一流の父は規格外の強さといえるだろう。

 騎士団長まで上り詰めたというのも、コネなどではなく実力なのだとわかる。

 そしてその父が何も言わなかったということは、それは『この世界の魔術』を使っていないということだ。まぁもしかしたら違和感くらいは覚えたかもしれないが。

「というかその言い方、つまりセイは強化魔術が使えるってことだよな・・・」

「・・・あ」

 いやまぁ、私からすれば単純な技術であるし、非効率的なため使わないだけで使おうと思えば使えるのだが、そういえば一応高度な魔術の一つであったことを思い出した。

「まぁセイのことだしもう驚かないけどさ・・・そっか、もうそこまで・・・」

 フェイの視線が少し痛かった。つい忘れがちになるが、今の私は6歳で、本当はそんな魔術使えるはずがないのだ。一応かなり自重はしているつもりなので周囲の大人にはこの年で魔術を使える「天才」程度に思われているはずだが、一歩間違えれば「異常」扱いだ、気をつけなければならない。

 しかしフェイに関しては、付き合いが長いからか、また二人だけで行動することも多かったからか、こうして時折ボロが出ていた。今はまだそこまで異常に思われていないが、いずれ何かうまい言い訳を考えなければならないだろう。

「ま、まぁそれはいいとして、ほら、試合も終わったし鍛錬に戻ろう!」

「お、おう・・・」

 とりあえず今は適当ごまかすことにしておく。先のことはまた先に考えれば良いのだ。

 単なる先延ばしだということはわかっているが、今は早くこの世界に慣れる事と、陰陽道の研究を行えるようにするための、環境づくりの方が優先なのだ――

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