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思いの外、早く学校に着いた。
元々かなり余裕を持って家を出たのだけど、葵くんと一緒に登校したおかげで迷わずに到着することができたのだ。
葵くんに感謝。
「いつもこんなに早く登校してるの?」
「うんにゃ、今日はオレ日直だから」
なんでも、日替わりで当番になった人は授業の前準備をやったりなど、その日の雑用ごとをするらしい。
「早めにやっとかないと朝遊ぶ時間なくなるからな、日直の日はこんくらいに登校してんだ」
葵くんは案外几帳面というか、面倒なことは先に終わらせたいらしい。きっと夏休みの宿題も始めのうちにやっておくタイプなんだろう。
「んじゃちょっと待ってろ。パパッと終わらせるから、外で遊ぼーぜ」
「え、じゃあ手伝うよ。なにすればいい?」
「マジか、助かる。んじゃーアサガオに水やっといてくれ」
ただ待ってても手持ち無沙汰になるだし、せっかく誘ってもらったのだから早く遊びたいしね。
僕が水やり、葵くんが黒板のそうじと分担してやっていると、ガラガラと教室のドアが開いた。
「……おはよぉ」
「おはよう。ええと――」
「おせーぞメグ。日直の日は7時に来いって言ってるだろ」
「そんな早く起きるのはむりー……」
咄嗟に名前が出てこなかったけど、葵くんのおかげで思い出した。クラスメイトの中井 巡くんだ。
どうやら今日は葵くんと巡くんが日直当番だったらしい。
「まー、でも今日は早いほうか。いつもみたいにギリギリで来ると思ったからユウに手伝ってもらっちまったよ」
「…………おー、…………おお?」
葵くんの言葉でようやく僕の方を向いて、ぼんやりとした目がきょとんとする。
すこしビックリしてるように見えるけど、もしかして今ごろ僕に気づいたのか。さっきあいさつしたのに。
「……転校生?」
「うん、塔屋 由宇。よろしく」
「……んー、覚えてる。……中井 巡。……寝てるのが、好き……」
あらためて自己紹介してもらったけど、昨日クラスのみんなが自己紹介してくれた時と全く同じことを言っている。ほんとうに覚えているのだろうか。
「よしっと、んじゃオレ日誌取ってくる。ユウ、ありがとなー」
黒板掃除が終わった葵くんが教室を出て行ってしまう。
ちょっと待ってよ葵くん、微妙に気まずいんだけど。
「…………」
「ええっと……」
ぼんやりとしたままの巡くんに見つめられる。なんとなく視点が定まってないように見えるけど、ちゃんと僕を見てるんだよね? 僕の後ろに見えない何かがいるとかはやめてほしい。
「……それ」
「え、ああ、水やり? ごめんね。巡くんの仕事とっちゃったみたいで」
「んんー……。……ありがとお」
「!」
そのまま巡くんは自分の机に突っ伏して寝てしまった。僕はというと、恥ずかしながらすこしのあいだ固まったままだった。
巡くんがお礼を言った瞬間、ふっと見せた笑顔にドキッとしてしまったのだ。……男の子なのに。