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僕が転校してきた阿部湖小学校は『男女性差合融教育』なる教育法が取り入れられている。
遡ること昔の昔、ここ阿部湖付近の集落では兵役を逃れるために男児に女装を、流れのものやお偉いかたに女の子を連れて行かれないように女児には男装をさせることをよくしていたらしい。
こういった風習は近世あたりまで脈々と受け継がれてきて、現代では極一部のお家でだけ行われていたのだが、現在の阿部湖小学校の校長先生が赴任してきたとき「現代におけるジェンダーや男女不平等の問題を解決する素晴らしい教育法だ!」として、この小学校に登校する際は男女それぞれ異性の服装を着るように、との校則を新設。
なんでも、幼いうちから男女それぞれの服装を着用することで、成長してからも異性の気持ちや立場になって思いやることの出来る大人になれる、と。
そんなようなことを転校初日に校長先生へのご挨拶の時に伺った。
正直なところ、いまいち僕には理解できないところもあったけど、熱心に語る校長先生の姿は自信に満ち溢れていたので、きっとこの教育方針は立派なものなのだろうな、と思えた。
転校したての僕は学校に慣れるまでいつもの服装のままで登校していいらしいが(そもそも女の子ものの服を持っていない)、なぜだか興奮した様子の校長先生に「君には間違いなく女装が似合うよ!」と太鼓判をおされてしまった。
そのあと担任の先生に連れられて僕のクラスである5年1組(そもそも各学年ごとに1クラスしかないけど)に案内されながら、クラスメイトは男子が4人の女子が6人のちょうど10人で、「東京とかの学校に比べたら児童の数は少ないけど、少人数っていうのはそれだけ、すごく仲の良いお友達になれるってことなのよ」と先生。
10人のクラスメイト達全員と親友になれれば良いな。とウキウキしながら先生について教室に入った僕は衝撃を受けた。
そこには6人のすごくカッコいい男の子たちと、4人のとってもかわいい女の子たちがいたのだ。
女装した男子というのは、てっきり、前の学校の友達である将矢くん(野球クラブに入っていた丸坊主の男の子だ)がスカートを履いたような子を想像していたので、まるでテレビの中のアイドルが目の前で座っているような光景に僕はとても混乱してしまった。
僕の自己紹介のあとにクラスメイトの皆がそれぞれ自己紹介をしてくれたのにほとんど耳に入らなかったくらいだ。
ともあれ、僕はなんだかとんでもない小学校に転校してきてしまったようである。