エピローグ
「スピード解決でしたね、坂巻さん」
暗い夜道を二人並んで帰りながら、僕は坂巻さんに話しかける。
「ま、途中のとんちんかんな推理には度肝を抜かれましたけど」
ちょっと思い出して苦笑する。
「えー、とんちんかんとか酷くない? あれでも考えた方だよ」
「はあ、まあ筋は通ってましたけどね。なんか、パズルのピースに無理矢理小さ目のものを入れ込んだら入った、って感じ」
「ふーん、まあ褒め言葉ってことで受け取っとこう。まあ、あの時点じゃ証拠も何もなかったし、机上の空論だったから仕方ない。あの会話とパソコンがあったから当てずっぽうが確信に変わったわけで」
「でも、壱川さんがハッカーだったなんて」
ただでさえ綺麗なのに言葉遣いまで丁寧な、本当にお嬢様だった彼女。あれは全部嘘で、演技に過ぎなかったのかと思うとちょっと心苦しくなる。
「まぁ、人は見かけによらないからね。奏人くんは見た目通り、真面目そうなよくわかんない性格だけど」
「僕も一応、褒め言葉として受け取っておきます」
「......奏人くんはいい子だねー」
ほんの一瞬の沈黙の後、突然子供をあやすかのように優しく放たれた坂巻さんの言葉。その真意は全然わからない。
「はあ!? 何ですか突然、坂巻さんらしくない」
「気持ち悪いって言わない辺りが奏人くんらしい。実はさっきの琴美さんの言葉、結構傷ついたんだよ」
坂巻さんでも傷つくことってあるんだ。いつも楽観主義者な坂巻さんでも。
「うーん、けどそんな棘のある言葉、壱川さん言ってましたっけ?」
「ええ!? 去り際に言ってたじゃん」
『まさかこんなあっさりと解決されるなんてね。しかもこんな可愛い坊や達に......』
「え、ただの捨てゼリフですよね?」
「いやいやいや、だって坊やだぞ。俺23なのに。ああ、やっぱ俺童顔なのか?」
ええー、なんか変なところ気にするなあ。特に興味のない僕はさらっと流して別の話題に移る。
「あ、そうだ。そういえば坂巻さんって初めて壱川さんに会ったときに言ってましたよね、彼女は嘘をついているって。あれ、何のことだったんですか?」
「俺の悲痛伝には何も言ってくれないんだね、奏人くん......。嘘ってのはあれだよ、最初に身分聞いた時の台詞だよ」
『壱川琴美さん、27歳華の独身で大手企業の社長秘書びじん』
「これが何か?」
「俺の鋭い観察眼でみると、彼女は絶対三十路を超えてる。肌年齢がもう化粧で誤魔化してたけど30代だったし、奏人くんはわかんなかったみたいだけど一瞬呟いた五右衛門之助は主に30代の人が見てた人気アニメだったからね。あと、その化粧もちょっと濃すぎだ」
ごめんなさい僕が悪かったです、ここまで聞かなきゃよかったと後悔した話は初めてだ。あんなに格好良く言ってたのに......。少し前まで持っていた坂巻さんへの若干の尊敬を失い、それからも事務所につくまでだらだらとした会話を続けたのだった。