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「...は、る?」
...え?
な、え??
私、透明人間。
何で、気付いた?
「おい、はる?はるっ!!隠れてねぇで出てこいッ!!!」
...いや、隠れてはねえよ。
君のお隣にいるよ。
「はるっはるっ、.....はぁるぅッッ!!!」
君は何でそんなボロボロ泣きながら叫ぶんだね。
喉痛めてまうよ?
何でそんな絶望的な顔してるんだね君は。
辛気くさいよ?
「――ッ.......は、るぅ.....」
君にそんな顔させる猛者がいたとはね。
人生17年史上初めて見た。
「たの、むよぉ.....会いたい。会いたいよ、はる.......は、....」
見ていられないなぁ。見ていたくないよ、そんな顔。
バカな君は、いつでもバカみたいに笑ってたら良いのに。
「....ぁ....幽霊でも、いいからぁ。....会いてぇ、よ...!」
...やっぱり、そうか。
本当はもう気づいてたんだけどさ。
―――私、もう、死んでたみたいだ。
家に家族がいないのは、仕事でも飲み会でも学校でもない。
葬式の準備で忙しいのだ。
おばさんが泣いてたのは玉ねぎのせい何かじゃない。
あのメニューは、私の大好物だったもん。
このおバカな幼なじみを泣かせたのは、ほかでもない、私自身。
人類皆の夢の透明人間の正体は、ただの幽霊だったのだ。
はぁ~、世知辛い世知辛い。
ようやく夢の1つが叶ったと思ったんだけどなぁ。
もう、他の可能性が閉ざされた後でしたか...そううまくもいかないもんだねぇ。
しっかし、隣のバカはよくもまあ、腑抜けた顔をしよるのお。
情けない情けない、私がいなくなったくらいで、取り乱しやがって。
こうなったら、一変気合いを入れ直してやらないとなぁ!!
ふっ、そうと決まればやることは1つ!
――ッパァーン
「っいった!??」
...決まった...必殺!!平手打ち!!
動かすことはできなくても、触れることが出来るというのがミソだねっ
見えなかろうが、関係ない。こんなだらしない幼なじみ君は断じて幼なじみとして認めんっ!!
根性叩き直してやるわ!!
「...っぇ、え、は、はる!?おい、はるなのか!?そこにいるのかっ!!?」
ようやく私の存在に気付いたか....遅いな。
しょうがない、全くしょうがないやつだ。
気がついたご褒美として特別に頭なでなでしてやらんこともない。たまには、仕返ししたっていいよな?
「っあ、はる....はる....ふぅぅ、あぁ.....ぁ」
いきなり私の手を引いて拘束するとはいい度胸だな貴様...
はあ、こんなに強い力で拘束されたら逃げられないじゃないか...
しかし、これは端から見たら結構いたいぞ?
エア友達、エア彼女並みに痛い。
だって空中で抱き締めるポーズして大号泣でしょ?
誰が見ても速攻で精神科送りですわ。
「ごめん、ごめんな!...あ、あぁ、ごめんなぁ...」
何にそんなに謝ってるんだよ。
別に君が謝る理由なんてないだろうに。
「っ、あの日、俺が、おれ、が、くだらない、こといって....お前を、おこらせてっ」
おいおい、そんなのいつもの事じゃないか。
喧嘩は私たちの正常な日常会話だっただろ?
「あの日!一緒に、いっしょ、っ行ってれば、おまえは...お前はっ!!」
ああ、後悔なんかしてほしくないよ。
喧嘩両成敗、いつもそうやって2人して怒られてたんだから...
「おれ、は!!お前を、ころ、し、......ぅ...ぁ」
それは違う!!
罪悪感から変な想像するなっ!!
ほんとうに、きみは、いつまでたっても、大バカだ!
あまりにも意味不明な釈明に全力で頭を殴り付ける。
顔中腫れて大アザでもできればいいんだ!そうすれば鏡を見るたびに思い出すからっ
「い、た。痛いって、いたいよ、ごめん、悪かった。...お前のことだから、どうせ意味不明な釈明すんなって、怒ってんだろ...?」
...分かってるじゃないか。
ちゃんと、伝わってるじゃないか。
何だか力が抜けてしまった。
いつの間にか筋肉質になった肩に、頭をグリグリと押し付ける。
「よかった、まだ、話ができて...なあ、はる?ずっと、ここに居ろよ。ちゃんと、部屋、片すから、さ...一緒にゲームしようぜ?...持てないなら、一緒にDVD見よう?手、繋いでさ。見えなくても...聞こえなくてもいい。だからさ、ずっと、おれと、いっしょ、に、っ...」
君らしくもない。
ほんとうに、君らしくもない。
分かっているんだろう?そんな子供じみた夢、もう語るときではないって。
「お願いだ、はる、はる。なにもしなくて、いい、から、俺を...おれを、おい、て逝かないでくれ...」
痛いほど。
痛いほど気持ちはわかるけど、それを決めるのは私じゃないんだよ。
手、貸して。
声が聞こえないなら、手に、文字を書いて伝えるよ。
「――っあ、わかった。お前は、なんて、いってるんだ?...きかせて、くれ」
きみは ばかだ
「っ、ひっでぇ言い様だなぁ...でも、いまに、はじまったことじゃ...ねえ、だろ...」
ああ わたしは いく
「まだ、まだだ。まだ、いくんじゃねえよ!!もう、すこし、はなし、しようぜ?」
けんか りょうせいばい だ
「っ、うん、おれも、お前もいつも、意地はって、喧嘩して...バカだな、おれ、は」
うん わたしも ばかだ
「ふっ、そう、だな。いっつもお袋たちに、呆れられた、もんなぁ?」
たのしかった
「まてよ、まだ、だろ?まだ、楽しいこと、たくさん、いっしょ、に...」
きょうで さいごだ
「っは、なあ、おれ、お前が好きだ...」
.....
「昔から、意地悪して、喧嘩して、そんなんばっかだったけど、だけど」
.....
「素直に、なんか、なれなかった、けど」
.....
「だい、すきなんだ....お前がいない、なんて、嘘だ」
......
「なぁ、くる、しいよ。なぁ、へんじ、し、て、くれ」
......
「おまえの、言葉を、きかせて、くれよ。まよう、なよ。おまえの、本心、最後なんだろうっ!!!」
ごめんね ごめん わたしも すきだった
「―――ああ、うぁあああああっっっ!!!」
今頃になって両思い
しかたがない、事だよね。
嘘、つこうか迷った。
もう、最後だから。嫌い。好きじゃないって。伝えた方がいいだろうって、
そう、思ったけど。
無理だ。
自称正直者の私には、無理だ。
この先、私が先に消えて、君を残して傷つけることがわかってたとしても。
それでも、気持ちを偽るだなんて、最期に伝えられないなんて、耐えられなかった。
私はとんだ酷い人間だ。
いや、もう幽霊か...
君にとっては、私の存在はきっと悪霊同然なのだろうな。
ほんとうは、私だって、地縛霊になろうが何になろうが側に居たいし未練たらたらだけど。
はぁ、一緒に居られないのも辛いけど、それより最期に君を傷付けてしまったことが、身を切られるより辛い。なんで、最後まで...
笑ってお別れなんて、そんなの誰がいった言葉なのか知らないけど。
それは、凄く難しいなっていまになって実感した。
ねえ おねがい きいて
「っふぅぅ、うぁ」
おいこのばか きけ
「ふぅ、ふっ、おう、ぼうすぎんだ、おま、え」
ゆびわ ほしい
「...指輪...?」
うん ひつぎ いれて
「...ひ、つぎ」
うん さいご すき しるし
「さいご、て」
もう さいご そのあとは ない
「無いってなんだよ!まだ、まだっ」
おわり ふたり かんけつ
「まだ、はじまった、ばっかじゃねえかよ...」
うん でもおわり うまれかわる きみも わたしも
「もう、けりつけようって、そう言ってるのか?」
さすが いしんでんしん あいぼう
「伊達に17年間、いっしょにいた訳じゃねえから、な」
わらって
「.....、」
みたい えがお
「.....っ」
えがお すき
「.....クッ、おまえ、らしい、なぁ」
わたしは わたしだもん
「俺も、おまえの、顔、見てぇなあ…」
いま ぶさいく
「ククッ、お前は、いつでも不細工だろっ」
ひどい しね
「ふは、死んでるの、おまえだし...!」
ぐぬぬ
「あははは、俺やっぱ、お前が好き」
......
「なあ、指輪ってどんなんがいい?」
.....
「やっぱ、ダイヤか?親に金、借りるっきゃないよなぁ...」
......
「なあ、はる.....」
......
「もう、いっちまったのか、はる...?」
.....あり がとう
「ああ、やっと...」
.....
「お前の不細工な笑顔、見られたわ」
ここまで読んで下さりありがとうございました。
皆様はどこで透明人間の正体に気づけたでしょうか?
騙された方も騙されなかった方も、楽しんでいただけたら幸いです^^
この話はここで完結します。
後日談なんかも考えましたが、執筆はしていないので間が空いてから投稿することもあるかもしれません。
それではまた。




