プロローグ 千年後、千年前
一風変わった世界観を楽しんで頂けたら、と思います。
次回より本編開始、ブクマ登録、評価、感想などなど、お待ちしております。
「おかーさぁん…」
「あらあら、どうしたの?」
シャイニ暦1005年、丁度、それは「空を取り戻した」千年後の世界。
「このお絵本よんでっ!」
「本当に、ユフィは本が好きなのねぇ。……あら、この本…」
かつて、千年前の話。≪屍神≫と呼ばれる、神々の成れの果て、或いは神々の規律を犯した者が、世界を束ねる≪オリュンポス十二神≫に叛逆し、世界に混沌が訪れた。
≪屍神≫は己が持つ絶対的な負の力、≪冥霊哭呪≫により、神々を圧倒した。しかし、既存の神々、そしてそれらを束ねる≪オリュンポス十二神≫の力はそれ以上に手強く、行き場を失った≪屍神≫は下界━━幾多数多の生物が混然一体となって暮らす、≪アースガルド≫に目を付けた。
「ユフィ、この本はどこにあったの?」
「おもちゃの沢山ある箱のなかっ!」
「まだ、残ってたのねぇ」
≪アースガルド≫を拠点とし、勢力の拡大を図ろうとした≪屍神≫は、≪冥霊哭呪≫により≪アースガルド≫から「天空」を奪った。以来長きに渡り、≪アースガルド≫の空は漆黒の闇と紅蓮に燃える月影に支配された。一重に、それは≪屍神≫達が、神の威光である太陽を嫌ったが為であるが、結論からして、それは≪アースガルド≫の略奪における重要なポイントとなった。
「おかーさん! よんでっ!」
「うーん…、けど、ユフィには少し難しいお話かもしれないわよ?」
「むぅ…、む、むずかしくないもん!」
陽の光が失われた世界━━それは、多くの植物が枯れ絶え、突発的な環境の変化により数多の生物の生態系が狂い、挙句多くの災難・災厄を呼び起こした。それは連鎖的に二次被害を及ぼし、世界には絶望と腐敗、終焉と衰退が蔓延り、希望や望みは消え失せたのである。
「ふふぅん? そっかぁ、ユフィはもう子供じゃないんだもんね」
「そうだもんっ! ユフィは、むずかしいお絵本もよめるもん!」
「ふふふっ」
しかし、唯一にして無二、一縷の願いが祈りと化して、世界に一筋の光明が差した。
それは、偶然とも必然とも付かず、月並みな表現で表すのならば、謂わば、運命。
「それじゃあ、読んであげる。ちゃーんと聞いてるのよ?」
「うんっ!」
初まりは、たった一人の少年であった。彼は、誰よりも空が好きで、誰よりも空を愛していた。浮かぶ白雲に、煌く陽光、澄み渡る清廉な空気と、青く世界を見渡す空。彼は、だからこそ誰よりも≪屍神≫を恨み、憎み、嘆いた。しかし、泣けど喚けど、世界に空は訪れない。そして、彼は決心したのだ。
「むかしむかし、悪い神様が、世界からお空を取り上げてしまいました」
「お空をとりあげる…?」
「そうよ? お空が無くなったらねぇ、お日様も見れなくて、雲もないのよ?」
「いやっ。そんなのいやっ!」
「でしょう? だからね、このお絵本の主人公━━クロード様がね、勇者になって、お空を取り戻すの」
「ほんとにーっ?」
彼の名は、クロード・ヴェスロイア。
先天的な才能に依存する≪魔法≫、≪屍神≫に抗う為の唯一の手段だが、クロードはその才能を持ち合わせては居なかった。それでも、彼は戦ったのだ。自分の手で、愛する空を、世界に平和を取り戻す為に。
「そうよー? さぁ、それじゃあ、続きを読むわね?」
「うんっ!」
「もう千年も前……世界を旅する一人の少年、クロード・ヴェスロイアが居ました」
それでも、たかが人間。成れの果て、まがい物、と言えど、相手は神様だ。
戦力は火を見るより明らか。例え剣の達人であろうと、弓の名手であろうと、≪魔法≫が無ければ根本からして話にならない。同じ土俵にさえ立っていないのだ。
「彼は、空を取り戻す為に、世界を巡りますが、ある時、一人の少女と出会います」
だが、クロードは勇者になり、後世に名を残す英雄となった。
その影には、多くの仲間の支えや、世界に空を蘇らせる為の、異常な執念があった。
しかし、当然それだけで勝てるほど、生温い相手ではない。
「少女の名前は、フィスタルガディア。悪い神様の一人です」
クロードが出会ったのは、神の中でも最も強く、それ故に神界より追放させられた最強の女神。
フィスタルガディア。通称フィアであった。
「クロードは、フィスタルガディア━━フィアと一緒に、世界を旅する事となりました」
空を奪った≪屍神≫、それを憎み、恨み、世界に空を取り戻す事を誓った少年。
≪オリュンポス十二神≫からも畏怖、畏敬され、強大すぎるが故に下界に堕ちた少女。
これは、世界に空を取り戻す物語。
そして、世界に平和を再臨させる、空を愛する少年と神を蔑む少女の物語。