8 ベルと女神。 昔と現在。
早くはUP出来ませんでしたが、いつもの時間には間に合いました!
今回は女神とベル(夏樹)視点です。
どうぞ!
「ごめん!すぐ戻るから!」
私は戒くんにそう言うと近くのドラッグストアに駆け込んで生理用ナプキンを買った。待たせるわけにもいかないので、買った後すぐに向かった。
戒くんの居るところまであと少しというところでニット帽を深くかぶり、サングラスをかけた中肉中背の男が前に現れた。
気味が悪かったので通り抜けようとした時だった。
ズヌッ
聞いたことのないような鈍い音とともにお腹に激痛が走った。
恐る恐るお腹を見てみると、背中から貫通した刃物の先が見えていた。私は悲鳴をあげようと思ったが、恐怖で体が震え、声も出ない。
ズムゥ・・・・シャー
また変な音が響いた。不思議と痛みは感じない。お腹の激痛のせいだろうか?
首に違和感があったので触ろうとしたが、近づけただけで勢い良く血が手にかかった。
「・・・戒・・・く・・・ん。」
私は必死に戒くんを呼ぼうとしたところで気を失った。
「・・・・・はっ!」
私が次に目覚めたのは真っ白い空間だった。目の前には銀色の髪をした女性が居た。
「貴方も不憫な女の子ねぇ。戒斗くんだっけ?もし告白してたらオッケーしてたよー?」
「あっ・・・・あなたは?」
・・・・どういうこと?ここが死んだ後の世界なのかな?っていうかあの女の人超美人!外国人なのかな。
「あー私?私はそうだなー、神様!神様よ私!」
「えっ?・・・あっ、そ、そうでしたか。」
ちょっと痛い子なのかな。うーん、でもこの場所も非現実的だし。どうなんだろ?
「まぁ普通は信じられないわよね―。じゃあこれでどう?」
そう言うと彼女は指を鳴らした。すると、私の前に鏡が現れて鏡の奥では呆然と立ち尽くす戒くんの姿が現れた。
「これでどう?夏樹ちゃんが死んだ後の彼よー。私としては貴方を彼の所へ飛ばしてあげたいのだけれど、そう上手くはいかないのよ。この世界だと死者蘇生って禁忌なの。ほら、非現実的でしょ?私の管理してる世界ならありえるんだけどねぇ。」
戒くん・・・・。もう逢えないのかな。
「まぁ、基本的には無理ねぇ。」
えっ?口に出してたかな?
「いやー、私神様だし?心読めちゃうの。」
それが本当ならすごいなぁ。
「でしょ!もっと褒めて!」
・・・・・本当だったんだ。
「それで、私はどうなるんですか?」
「えーっとね、私の管理してる世界に転生させてあげる。貴方は一応竜人になる予定よ。まぁちょっと風当たりが強いけどね、でもステータスは高いから死なないわ!安心して!」
「そ、そうですか。えーっと、じゃあ私は生まれ変わるんですね。」
「そうね、あー、じゃあ1つだけ願い叶えてあげる。私に出来る精一杯ね。あ、元の世界に戻してとかは無理よ?」
・・・そんな事望まないよ、まぁ、言い方を変えれば同じような意味かも知れないけど。
どうだろう、戒くん怒るかな?大丈夫だよね、戒くん優しいもんね。
「戒くん・・・・瀬谷戒斗くんを私の転生する世界に送ってくれませんか?」
「無理よ。」
「・・・・・だめ・・・・ですか。」
「ちょっと!そんな顔しないでよ!もぅ、私がイジメてるみたいじゃない!じゃあ彼がこっちの世界に送られるようにちょっとやってみるわ。」
「っ!・・・・ほ、本当ですか!?」
「でも、過度な期待はしないでね。一応理解できるか分からないけど貴方にも作戦を教えてあげるわ。今、丁度亜人と人間の関係が最悪になっているところね、貴方は転生を終えて、150年ほど過ごしてもらうわ。」
「150年!?」
「まぁ人間で言えば15年ほどよ。そんなに長くないでしょ。150年ほどで私はこの世界の空間を弱めるわ。そうすれば人間側は勇者召喚を成功させるはず。その時に彼が混じっていれば成功ね。やり方が結構グレーゾーンだけど、まぁ特別よ。恋する乙女には敵わないからね、ウフフ。」
「あっ、ありがとうございます!」
「まぁ後はこっちで何とかやってあげるわ!とにかく新しい人生を楽しみなさい!もしかしたら新しい・・・って言うのはダメね、ごめんなさい。」
「いえ、大丈夫です。」
「大丈夫って貴方・・・・。」
「ら・・らいぢょうぶですから。」
・・・あれ?戒くんともしかしたら一生会えないと思ったら急に涙が。
胸が苦しい。
呼吸がうまく出来ない。
彼が頭から離れない。
「えっ!?」
素っ頓狂な声をあげたのは、私の目の前にいた女神さんが私をギュッとしてくれたから。
「大丈夫よ。だから泣かないで。私が必ず彼を連れてきてみせるわ。と言っても私が彼を引き寄せることは出来ないのだけれど。精一杯頑張るわ。だから安心して転生しなさい。竜人族、古代竜と人間のハーフ、ベルとして。」
「・・・ありがとうございます。あの、女神さんの名前はなんですか?」
「私?私の名前はクレアよ。今から行く世界にいればいつか聞くこともあるわよ。」
「ありがとう、本当にありがとうございます。クレアさん。」
私は抱きしめて背中をポンポンしてくれるクレアさんにお礼を何度も言いながら意識を手放した。
目が覚めると、白金色の綺麗な髪をして角を生やした女性が私のことを覗いていた。
「ベル?お母さんよ。」
そう言っていたので、きっとこの世界でのお母さんなのかな。隣には普通の人間の男の人が居た。
「俺がお父さんだぞ?まぁお前が大きくなる頃にはジジィになっちまうかも知れねぇけどな。ハハハハ」
お父さんの言った通りで、私がちゃんと喋れる頃にはお爺ちゃんになってすぐに死んでしまった。お母さんは全く変わらず綺麗なままだった。
この世界はどうなんてるんだろう?
私がちゃんと動けるようになった頃、沢山の情報をお爺ちゃんの家で調べた。
お爺ちゃんとは血はつながってないけど、いつも優しくしてくれる。お陰で色々なことを学べた。
お母さんの都合上、クレッチという場所に通わなければいけなかったけど、そこではボルドラさんとかいう人が私を守ってくれた。目つきがいやらしいのは気づいていないとでも思ってるのかな?でも、いくら格好つけたって無駄だよ、戒くんがこの世界に来るまで私の身体は他の男になんか指一本触れさせないんだから!
でも、軽蔑されるのは分かってたけど心が痛かった。ちょっと内気になっちゃったし、周りの人に気を使いすぎるようになっちゃった。
・・・・・助けて、戒くん。
数年経った頃、事件が起こった。服をいつも作ってくれるマウリッツさんが素材を取りに行った後、帰ってこない。
私は心配になったけど、お母さんが探しに行ってくれることになった。ちょっと心配だったけど、お爺ちゃんからお母さんとお爺ちゃんの事を聞かされた。
古代竜っていう最強の竜なんだって!絶対勝てるよね!
案の定、マウリッツさんは無事に帰ってきた。マウリッツさんのお店で奥さんにワンピースの寸法を測って貰ってた時に、マウリッツさんの無事と、お母さんの帰宅の知らせをもらった。
私は急いでお爺ちゃんの家に向かった。ドアを開けると顔を真っ赤にしたお母さんが。
「・・・・・お母さん?顔が真っ赤だけどどうしたの?」
「なっ、なんでもないわよ?それよりもベル、いい子にしてた?」
「うん、服屋のおじさんがワンピース作ってくれたの。明日出来上がるって。」
もう、お母さんも心配症だよ。私これでも15歳2回経験してるからね?っていっても知らないか。
よく見ると隣に見知らぬ人が。チラッとみてもう一度チラッと見なおした。顔つきがどう見ても戒くんだったから。
でも違う。角は生えてるし、髪はブロンド色だし。何よりあんな目をしてたかな?眼の色が明らかに違いすぎる。
私の勘違いだっただろうか?でも、もう約束の150年は経ってるし・・・・。
「今用事があるのはコヤツじゃ。サラ、ベルと外に行ってきたらどうじゃ?」
考え事をしているうちにお母さんと外にでることになっていた。
「あ、お母さんあれ食べたーい!」
この甘え口調は小さい頃に歳相応の話し方をしなくてはと思った結果、身についた口調。
もう高校生になりそうな歳だから止めなきゃいけないんだけど、どうも区切りがつかず、ズルズルとこの口調を続けてる。
私はお母さんに店に並んでいたパンを指さし、それを買ってもらって食べた。
モグモグしながらもさっきの人の事を考えた。
・・・・・人違いかなぁ?クレアさん、こういう時に教えてくれたりしないのかな。死んだ後に会ったっきりだし、クレアさんどうしてるんだろう?
次の日、お爺ちゃんのすすめで学校に入学することになった。私はお爺ちゃんから魔法知識を色々教わっていたので学力は申し分ないということで1年早く入学できることになった。
学校へ行くと、私は孤立した。
・・・・ボルドラさんか。もう、あの人は全く。
クレッチの時もだったけど、ボルドラさんは取り巻き2人を使って周りを脅したりして私を孤立させてボルドラさんが、私にとりいってくる。
ボルドラさんは気づいてないと思っているようだけどバレバレ。私を見る目つきは嫌らしいく、顔から身体を舐めまわすように見るし。
クレッチで私はボルドラさんとある約束をしてしまった。私を人間の血が混じったハーフだとイジメてくる人たちから守ってくれるという話だった。
断る理由もないので、私は約束を断らなかった。
今朝、玄関でボルドラさんにそのことで話があると呼ばれている。私は、面倒なことになりそうだと気が重くなる。
気が重いが、だからと言って時間が遅く感じたり早く感じたりすることはなく、入学式が終わり、教室に戻った。
教室に戻ると、彼が入ってきた。そう、昨日、お爺ちゃんの家で見た戒くんに似ている彼だ。
私は驚いて彼を見て固まっていた。すると周りを見渡していた彼と目があってしまった。すると彼は私を見て微笑んできた。
あまりに戒くんに似すぎた笑顔に、どう反応していいかわからず顔を逸らしてしまった。
私の右隣の席が空いていたらしく、先生が指を鳴らすと、机が出てきた。
彼がそこに座ると私に小声で話しかけてきた。
「俺はカイト。長老とサラさんから話は聞いてるよ。よろしくね。・・・・ベルって呼んでいいのかな?」
「お母さんとおじいちゃんの・・・・?うん、よろしく。」
そっか、やっぱりお爺ちゃんとお母さんから話は聞いてたんだ。それよりも!今なんて言った?カイト?戒くんなの!?
でも同姓同名なんてよくあることだし。でもでも、彼の顔は戒くんそのものだし。
怒られないように、返答した後すぐ先生の方を向いた。それで、そんな事を頭の中で考えていると、先生が校内を案内すると言ったので、並ぶために廊下に出た。
・・・・・・やっぱり人違いだよね!クレアさんも100%とは言ってなかったし。似てるからそうだって決めつけて間違いだったらショックだしね。あれは戒くんじゃなくて、違うカイトくんだ。そう思うことにしよう!
私はそう心に決めたが、胸がちょっと苦しかった。
「・・・・何で隣に来るの?」
私は並ぶと、隣にカイトくんが来た。いくら私の事情を聞いてるからとはいえ、私とあんまりベッタリし過ぎるとボルドラさんが・・・・ね。
ある程度好感度を下げるために嫌そうに彼に聞いた。少し心が痛むけど、彼のためでもあるしね。
「さっきも言ったけど、長老とサラさんから話は聞いてるし、俺さ、訳あって友達が全く居ないんだ。だから友達になりたいなって。」
やっぱり。でも、仲良くなんかしちゃったらボルドラさんが彼に手を出すだろう。
「っ!・・・・・他の人と友達になればいい。嬉しいけど、私と友達になったら色々と面倒だからやめたほうがいいよ。」
彼は微笑みながら言ってきたのでちょっとドキッとしてしまった。
・・・・・戒くんに似すぎなんだよもう。一瞬ドキッとしちゃったじゃん。
彼の笑顔に耐え切れず顔を逸らしてしまった。
「俺もベルと同じ竜人間なんだよ。」
彼がそう言ってきた。
私は驚いたけど、少し悲しかった。”もしかしたら”という可能性が潰れたからだ。
彼は戒くんじゃない。分かっていたけど、分かっていたけど少し胸が苦しかった。
私はその後、カイトくんをそれなりに受け流しておいて、ボルドラさんに呼び出された裏路地へ向かった。
かまってくれて嬉しかったけど、カイトくんに迷惑はかけられない。
そして裏路地で、ボルドラさんに愛人になれと言われた。
下心丸見えだったのは分かっていたけど、最低だよ・・・。
下心があっても、差別しなければ仲良くしても良かったのに、結局ボルドラさんも差別してるじゃん。クレアさん、何で私を竜人間にしたの?確かに身体能力は凄いけど、なんか私人間の血が濃くて本来の力を十分に出せてないみたいだし。終いにはお父さんのことまでバカにされた。人間、人間って、ボルドラさん達は人間に何もされてないじゃん!これ以上お父さんを、人間をバカにしないで!
・・・助けてクレアさん、助けて戒くん。これからどうしたら良いの?
私がクレアさんと戒くんに叶うはずのない助けを求めていると、ボルドラさんは仲間を呼んだ。私は囲まれてしまった。そして無茶苦茶な選択を余儀なくされた。
そっか、私、犯されるんだ。この身体能力じゃボルドラさんに抵抗できない。
前の世界では惨殺、この世界では強姦か。・・・・もう死にたい。
気づくと私は泣きかけていた。胸が苦しい。どうしたら良いかわからない。
そして、もうすぐに迫った強姦。
そんな時にあの人の声が聞こえた。
「選ぶ必要はないよベル。俺が守ってあげるから。」
とっても臭いセリフだった。思わず笑いそうになるくらい。
声のする方を見るとそこにはカイトくんが居た。助けが来てくれたからなのかは分からないが、私の緊張は解けて涙が止まらなかった。
そして彼は、あっという間に3人を倒した。泣いている私を慰めてもくれた。
昔、戒くんと同じようなことがあった。私がガラの悪い中学生に絡まれた時に、助けてくれた時もこんな感じだった。泣きじゃくって動かない私の手を引っ張って、戒くんは家まで送ってくれた。
そのせいだろうか、私は彼に手を繋いでいいか聞いてしまった。普通ならば異性としてはグレーゾーンかも知れない。でも彼は、下心のない笑みで『いいよ』と答えてくれた。握った手は温かかった。
思わずお母さんと同じと漏らしてしまったが、本当はそう言いたかったんじゃない。何でそんな事覚えてるんだと言われて引かれるかも知れないけど、その温もりは戒くんと同じだった。喋り方も、手の握り方も。
それからカイトくんはお母さんともお爺ちゃんとも知り合いだったので、晩御飯も一緒に食べたり、朝、登校する前に家に行ったりした。
そして色々あって、私とカイトくんは実技教諭のミリオス先生の思いつきで外界旅行に行けることになった。
私はお爺ちゃんとお母さんと何度か空を飛んだことはあるけど、カイトくんは初めてだったらしくはしゃいで、街につく頃には酔っていた。一緒に服屋に行こうと思ってたのに。
・・・・というか、私は戒くんのことが好き。でもカイトくんも気になる。とっても複雑。やっぱりダメだよね、私。優しくされるとすぐ好きになっちゃうとか。日高くんと亜依ちゃんに怒られちゃうな私。
そんな考えが頭をグルグル駆け回っている。
結局、酔ったカイトくんは寝てしまったので、ミリオス先生と行くことになった。
お金を沢山持ってきたわけではないので、とりあえず明日に買うものを検討することにしてウインドウショッピングをして帰ってきた。カイトくんは寝ていた。そして私は、迷うこと無くカイトくんのベッドに潜り込んだ。ミリオス先生も軽く事情は知っているので、変な関係と思われることもなく、仲の良い兄妹としか思っていないようだ。私もそれに近い感情かもしれない。ただ、私はカイトくんに甘えるのがどこか懐かしいような気がしてならないので、今日だけ、カイトくんと一緒に寝ることにした。彼なら絶対手を出さないと信じられた。
そして夜、頭を撫でられる感触がして、目が覚めた。ドアの閉まる音で完全に目が覚めた。どうやらカイトくんが出て行ったらしい。
窓からは月明かりが差し込んでいる。
窓から外を見ると、地球と全く変わらない月だった。
しばらく眺めていると、階段から急いで登ってくる足音が聞こえてきた。
・・・・カイトくんかな?
私はベッドに座ると、ドアの方を見た。
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私は今絶望している。
なぜって?1人の恋する女の子のために1人の少年を私の世界に引っ張ろうと空間をイジった結果、変な召喚者を呼んでしまい、戦争が再開しそうになり、召喚者を排除するために大部分の神界を切り離して消滅させてしまったからだ。
私にはもう創造する力など無い。精々、世界のバランスをよくさせるくらいの力しか無い。
なら戦争だって大丈夫じゃないかって?無理よ、召喚者のせいで色々と面倒なことになったんだもの。この世界で最強のステータスを誇る男の子に全てを託しちゃったけど、実際どうなるのやら。
でも、夏樹ちゃんの願いも叶ったようだからめでたしめでたし。
やっぱり最後は責任をとってもらわないとね。彼自体は何もしてないのだけれど。
ただ、私の世界に入り込んできた召喚者は彼を含めた召喚者ではなく、また別の召喚者だったようだ。神だからそれくらいなら分かる。数十名が追加で召喚されたようだ。私の世界の人間は一体何を考えているのやら。気が滅入るよ全く。
とにかく、この絶望は後で来る運命のお二人さんをイジってふっとばそうと思うの。
元はと言えばあの子達のせいなのよ。そうよ、絶対そうよ。私は悪くない!
・・・・・・・責任転嫁をする女神であった。
女神「そうよ、貴方達のせいなのよ。」
夏樹「ひ・・・ひどい。」
女神「ちょ・・・そんな顔しないで!私が悪かったわ!」
戒斗「女神ェ」
女神「や・・・やめて!そんな目で私を見ないで!」
夏樹「・・・・・・。」
女神「も、もう!ふたりとも!その目で私を見ないでえぇぇェェェ!」
次回も日曜日更新となると思います。
いよいよ本当の再開です!
次回をお楽しみに!