3 ドジっ子サラ
日曜に間に合いました!
序章最終話です!どうぞお楽しみ下さい。
「・・・・服、ありません?」
目覚めたとき裸だったことを聞く間もなく、近くにあった家に連れて来られ、ベッドに座らせられた後、俺は目の前に居る白金色の長い髪をした美女にそう言った。
「あぁ、すまない。私たちの使っている服で良ければあげよう。」
そう言うと、彼女はクローゼットのようなところから服を取り出した。白い道着、灰色の袴、昔の戦国武将が訓練用に着るような服だった。
俺は着替えると、彼女に現状を聞いた。
「お前は魔法を食らって死んでしまったのだが、私が器を作り、魔法でお前の魂を私の作った器(肉体)に定着させたのだ。その魔法に制限はあるがな。」
「なんで俺の身体に定着させなかったんだ?」
「お前の魂が弾いたんだ。私もああなったのは初めてで驚いた。お前の身体にはなにか特殊な魔法でもかかっているんじゃないのか?」
「そんなことは・・・・・無い、と思う。」
一瞬、チート能力と思ったがそうなのだろうか。
「まぁいい。仲間を救ってくれたことには礼を言おう。だが、お前は何者なんだ?最近では竜人族の言語を知るものなどいないだろう?そもそも”あの事件”以来、人間は亜人の言語どころか文化も捨てたはずだが。」
「最近?あの事件?まぁ、俺はなんというか、信じられないでしょうけど、別の世界から国王に召喚されたんだよ。その時に全言語理解というスキルが手に入って、魔族の言葉も竜人族の言葉も聞こえるようになった。そんで魔王退治でフルボッコにされた帰りにあんな事が起こった。」
「召喚魔法にも私の知らないものもあるのだな。別の世界の肉体なら、魔法に異常が起こったのも頷ける。ではお前はこの世界のことを何も知らないのか?」
「いや、それなりに城で本は読んだ。勇者のお陰で人間に平和が訪れたとか、魔王が存在しているせいで人間は自由に動くことが出来ないだとか。それと、亜人は人間よりも下等生物とも書いてあったな。後は地図見て昼寝してたな。」
「・・・・そうか。まずはこの世界の事を正しく知るべきだな。私は40年、いや、人間の年月で換算すると800年生きてきた。昔のことを少しだけ話してやろう。」
「800年!?アンタこそ何者なの?」
「私は竜人族とは少し違うんだ、例えるならと私は竜の純血で竜人族は混血と言うべきかな。私は古代竜のサラ、古代竜の生き残りだ。生き残りという節はこの後に話す。」
「あっと、俺はカイト。まぁ、話をお願い。」
「では、私が小さかった頃の話だ。人間の年で約700年前、この世界は人間も亜人も協力しあって一緒に生きてきた。あの頃は活気溢れるとてもいい世界で、よく母親と里から降りて遊びに行ったものだ。緑に溢れ、醜い抗争など無かった。相手が誰であろうと、皆平等に接していたんだ。」
サラの目は何か懐かしいものを見るような目をした後、鋭い目つきに変わった。
「しかし、その平和な世界は私が人間の年で15歳、約500年前に終わりを告げた。ここで起こったのが”あの事件”、『魔素災害』だ。火山が噴火するように、各地で高濃度の魔素が地上から吹き出たんだ。原因は今でも分からない。」
「魔素って?」
「魔素というのは現代では魔力と呼ばれる。体内に宿し、魔法を使ったりするためのエネルギーだ。体内に入るエネルギーの量は、母親が妊娠し、肉体構成の始まったあたりに決まってくる。そして私が幼かった頃は、人間にその器が無く、魔法が使えなかった。」
「でも、今は使えてますよね?」
「そうだ。その災害のせいで人間は魔法が使えるように、魔素を体内に宿せるようになったんだ。おそらく、高濃度の魔素で影響が出たのだとは思うが。まぁそうだな、もし、今まで力が無くて誰かに仕事を頼む事で生きてきた者がいきなり魔物と渡り合えるような力を手にしたらどうなると思う?」
「んー、自分で色々出来るようになるなら嬉しいかな。でも逆に出来ちゃうと面倒くさくなってきそうだな。」
「そうだ、人間が力を手に入れた後でも、いつもと変わらない日常が少しの間だけ続いたのだ。しかし、人間は自ら動くことを面倒に思い、他の種族、亜人などを従わせようとした。そのため、人間と亜人を含めた他種族で分かれ、戦争が始まってしまった。戦争で使う武具の素材を集めるために、身体が魔素を秘めた硬い鱗や皮膚で覆われており、角や牙などがあった古代竜はいい的にされたんだ。」
ちなみに竜人族は混血で、鱗や皮膚、角や牙などは人それぞれになっていて強度もバラバラであり古代竜しか狙われなかったそうだ。
「古代竜は力を手に入れた人間よりも実力は高かったが、人間は仲間の命を犠牲にして闇魔法の中でも禁忌とされる呪魔法を使ってきたんだ。多くの古代竜は呪われ、次第に弱り死んでいった。そこで、古代竜は身を隠すためにこの里を空間魔法と結界魔法で作り上げたんだ。古代竜は持ち前の魔力ゆえ、同種の竜人族とともに身を隠すことは出来たが、他の種族は抗うことしか出来なかった。酷い戦争だった。その戦争に終止符を打ってくれたのが亜人の中でも戦闘種族であり、体格が自慢の巨人種だった。彼らは何万という人間の勢力を圧倒してくれたおかげで今も亜人などが完全に潰されずに済んでいる。未だに攫われたりなどして、奴隷として扱われる事が絶えないがな。どうやら最近では人間たちは巨人種の長を魔王と呼び、殺そうとしているようだ。まぁそんな感じだ。どうだ?理解できたか?」
つまり簡単に言うと魔素災害で魔法を使えるようになった人間が欲の限りを尽くして周りにとんでもない迷惑を掛けたってことか。言語は他種族と関わりが無かったから知らないうちに消えたってところだろう。というか、今の話を聞いた限りじゃ俺がいるのはまずくないか?
とりあえず聞いてみることにした。
「大体分かったけど、それなら俺が里にいるのってまずいんじゃ?」
「お前は仲間を助けてくれたからな。すこしくらいならいいだろう?」
「それは・・・・まぁ。」
少し首を傾げながらも答えた時、竜人族の女性1人が部屋に入ってきた。
「サラ、長老が呼んでるわよ。そこの人間も連れてくるように言ってたわ。」
サラは頷くと、俺に『行くぞ。』と言ってきたので、ついて行く。
なんだかんだで里の外に出たのは初めてなんだが、出てみると感嘆の声が漏れた。里は一帯が草原となっていて建物が建ててある。隅の方にある水場は小さな湖と滝があり、上空にある魔法陣から水が流れ落ちている。里の外は断崖絶壁になっていて、向こうという表現をする場所は無く、世界が途切れている感じだった。例えるなら、昔の間違った地球の形だ。扇型になっていて、世界の果てがある。
景色に見惚れながらもサラについていくと、木造の大きな家があった。そこが長老の家だそうだ。向かっている途中に、サラから長老の話を聞いた。長老は生き残った古代竜の人らしい。
家の中に入ると、すぐに客間になっていて、客間にあった椅子に座らせられた。
待つこともなく、座ってすぐに、向こうにあった扉が開いた。扉から出てきたのは、とてもやさしそうな顔をしていて頭に渦巻く短い角のある老人がでてきた。
俺が出てきた老人が長老なのか、サラに聞くと、
「そうだ。言葉に気をつけろよ?お前が私の作った肉体でいくら強くなったとしても敵わないだろう。」
サラがそう答えた。すると、長老が吹き出した。
「ガハハハ!サラ、何だその言葉使いは。ゲイル以外の初めての人間相手に戸惑っとるのかぁ?」
長老がそう言ったので、俺はサラの方を見るとサラは顔を真っ赤にしていた。
「だ、だって人間に気をつけろって言ったのは長老でしょ!死んだ人間生き返らせるように言ってくるし!私だって年甲斐もなく怖かったのよ!」
「なーにが年甲斐もなくじゃ。ゲイルと仲良くやっとったくせに、ついこの間まで外界に行きたくないと泣いてたのは・・・・・・。」
「あー!あー!聞こえない!聞こえない!長老、その話はやめて!娘が聞いたらどうするの!」
・・・・・あぁ、サラさん。それはフラグというものですよ?
俺がそう思った時、玄関から音がした。玄関をみると、白金色の髪をツーサイドアップにした少女が立っていた。身長が150あるか無いかくらいの小柄で童顔の少女だ。
「・・・・・お母さん?顔が真っ赤だけどどうしたの?」
「なっ、なんでもないわよ?それよりもベル、いい子にしてた?」
「うん、服屋のおじさんがワンピース作ってくれたの。明日出来上がるって。」
ベルはチラチラと俺の方を見ながらも、サラに返答する。すると長老が俺の方へ来ると、
「今用事があるのはコヤツじゃ。サラ、ベルと外に行ってきたらどうじゃ?」
そう言うと、サラは『分かったわ。』と言うとベルと一緒に家を出て行った。
サラたちが行った後、長老は俺に椅子に座るようすすめてきたので、椅子に座った。それに続いて長老も座ると、長老は話し始めた。
「儂は長老をしておるゲルニアじゃ。マウリッツたちを助けてくれて感謝するぞ。奴はこの里の唯一の服屋で主人をしていてな、材料を探しに外界に行っていたところだったんじゃ。ほんとうに助かった。」
「まぁ、助かってよかったすよ。」
いざ敬語を使うとなるとぎこちなくなってしまうのは年頃の性だ。俺は敬語と言えるか分からないレベルの敬語を使い、俺にしようとしていた話を尋ねた。
「実はな、その体を仕上げたのも、加護を与えたのも儂じゃ。古代竜が使える念話でお主を助けたと聞いた時、なんとか助けろとは言ったのじゃが、まさか死靈魔法まで使うとは思わなくてな。裏から儂が手を貸しておったんじゃが、サラは気づいてなかったようじゃな。お主の肉体とマウリッツの親族の亡骸を使うと言っていたが、サラも相当慌ててたんじゃな。随分前に死んだ者の肉体がそのままあるわけ無いじゃろうが!ガハハハハハ!800年も生きておいて一般常識も分からんのか!」
「は・・・はははは・・・。」
「まぁどうしたかというとな、古代竜の亡骸をつかったんじゃ。古代竜の亡骸は魔素が宿っとるから簡単には腐らんからな。今のお主にはとてつもない力があるはずじゃ。だから、使い方を間違うでないぞ?」
長老は、見た目とても優しそうな表情の老人、とは思えない程の鋭く身体が震えるような視線で俺を見てきた。
俺はコクッと頷くと、すぐに元の目に戻り、話しかけてきた。
「まぁお主は外界の人間の腐った目とは違う目をしとるからな。心配なかろう。・・・・とは言うが目もお主の元々の目では無いのじゃがな!ガハハハハハ!」
長老と聞いて物静かで鋭い目をしたおじいさんを想像していたが、全く逆だった。とってもファンキーでフレンドリーなおじいさんだった。
長老は笑い終わると、真剣な表情で話し始めた。
「じゃが、いいことばかりではないぞ?お主はもう人間ではない。それがどういう意味かはサラから聞いた話でわかるじゃろう?」
長老に言われてハッとなった。今の俺は亜人であり、人間に下等生物と思われている存在だ。今の状態で王国なんぞに戻れば集中砲火をくらう。
「分かったようじゃな。まぁここに住めばいい、ここならば人間も入ってこれまい。既に土地を管理している者に話はしておるからな、これからよろしく頼むぞ。それと一つだけ頼みがある、サラの娘、ベルを気にかけてやってくれ。実はベルはお主と同じ竜人間なんじゃ。」
「・・・・はい!?」
長老は何も問題のないような顔で凄いセリフを放った。俺は驚いて聞き返すように声を上げた。
どうやら人間にもいい人は居たみたいで、サラと人間の間に生まれた子供らしい。人間の方は、俺と同じように竜人を助けたみたいで、その時に会って、里で暮らしたそうだ。寿命の関係でもうこの世には居ないが。
しかし、人間には前科があるので、あまり好かれてはいない。そのため、汚れた血の入った古代竜の子供として嫌う人もごくわずかだが居るそうだ。年の近い子供たちにイジメられてる事があるそうで、話を聞くだけで胸くそ悪くなってきた。
長老のお願いを聞き入れると、見ている方も安心するような優しい顔をした後、地図を俺に渡してきた。
「慣れるまで大変じゃろうが、頑張ってくれ。なにか困ったことがあれば儂のところに来ればいい。基本的に里で金はいらんぞ。生活に必要な分はタダで作ったり売ったりしてくれるわい。ただ、必要以上に欲しい時には、それなりの対価となるモノを持っていかねばならん。まぁ、いわゆる物々交換じゃ。お主の家は地図で丸く囲っておいたから、そこに行けばいい。既に生活用品は置いてあるはずじゃ。とりあえず、ベルのことも頼むぞ。」
俺は『どうも。』と一言お礼を言うと、地図の場所へ向かった。実際に地図を見て歩いてみると、里はかなり広く、里というよりも街レベルだった。
街を歩くと、いろいろな人が俺に話しかけてきた。皆、マウリッツという人を助けたお礼を言ってきた。食べ物だったり、飲み物だったり、日用品だったりを貰った。
自宅に辿り着いた時には、両手いっぱいに荷物を抱えていた。着いてから空間魔法を使ってみればよかったと後悔した。
貰った家は思ったよりも広く、木造の家だった。よく見るRPGでお馴染みの民家というべきだろうか。入ってすぐにある広いところにテーブル、椅子が置いてあり、部屋の隅にコンロっぽい魔道具が置いてあるキッチンがあり、反対側には階段があった。登ると、部屋が2つあり、一つが寝室になっていて、反対側が物置のようになっていた。二階をチェックして階段を降りると、目の前によく見ると、ドアがあり、開けてみると、洗面台があり、奥の横開きドアを開けると、王国で見た魔導器付きユニットバスっぽいものがあった。洗面台の裏のドアを開けると、水洗トイレっぽい魔導器があった。
日本の民家と何ら遜色ないレベルの家だったため、驚きが絶えなかった。
一日で色々あったが、明日からの新生活に備えるため、貰ってきた食べ物と飲み物を食べた後、風呂に入った。生活魔法もあるのだが、どうやら風呂に入った方が気持ちがいいという概念はこの世界でもあるようだった。王国に居た時がそうだった。俺は風呂からあがると、生活魔法のドライで髪を乾かすと、寝室に行き、ベッドにダイブした。
ドズッ
鈍い音がなった。
顔を上げると、シーツに二つの穴が開いていた。
「・・・・・しまったあああああああああああああ!」
角が生えていたことをすっかり忘れていた俺は叫ぶと、魔法を使い、シーツと下にあったマットも含めて直した。今度はちゃんと角が刺さらないように仰向けでダイブした。
寝たまま背伸びをした後、ふぅと息を吐いて眠りについた。
カイトは、古代竜サラの肉体合成により竜人族と人間のハーフになった。
・・・・否、サラは実は失敗していて長老が影から手助けをして古代竜と人間のハーフになったのだった。
サラが失敗していた事は長老ゲルニアとカイトだけしか知らない・・・・・・。
次回も日曜日更新予定です。
序章に登場した人物などの説明も後々アップしますのでよろしくお願いします。