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4話

 デッドしたキャラがリスポーン――復活する場所、魔方陣の前で姉貴と待ち合わせをした。その為に俺は街の中を歩いているのだが、知っている顔を見つけて思わず足を止めてしまう。丁度、先ほど酒場でマッカランさんが連れてきたエルフの女の子であった。名前は確か、リリィだったか。ゲーム開始早々、プレイヤーキルされたのにも関わらず戻ってきてくれた事に思わず安堵する。


「……あ」


 目があった。ゲームの中というのもあるだろう、現実の俺には存在しない積極さで声を掛ける。初めての仮想世界ということで気が舞い上がっている、というのもあるが。


「こんにちわ、さっき酒場で会ったよね。……またログインしてきたんだ」


「は、はい。先ほどはご飯で落ちちゃいましたけど。まさか、キャラメイクして数分でPKされるだなんて思ってませんでした」


 苦い笑みを見せるリリィ。エルフということで耳は尖っている、髪は綺麗な淡いブルー。瞳のエメラルドのような輝きを放っていた。身長は百五十ほどと小さい。俺と同じような服装――初心者服とでも言えばいいのか、そのようなものを纏っていた。


「まぁ新しい固有技能の条件らしいし、間が悪かったとしかね。あの後、別のプレイヤーがあいつを倒してくれて今はいないから安心してくれ」


 ここで俺が倒した、とか言えればかっこいいのだが。


「……そうなんですか、すごいですね」


「ほぼ一撃みたいなものだったよ。俺は傍で見てただけなんだけど、ログインして早々にハイレベルの戦いが見れてラッキーだったなぁ」


 そういえばこの子――リリィも初心者なんだっけ。恐らく知り合いは俺と同じくシロヒゲ達、ギルド《ついていきますダンナ》の人たちしかいないだろう。このまま姉貴との待ち合わせに連れて行って、一緒に教えてもらうのもいいのかもしれない。しかし、女性プレイヤーをそうそう誘っていいものなのか? オフラインゲームしかプレイしたことのない俺は若干躊躇してしまったが、何かの縁だと思い誘ってみることにする。……無論、リアルでの出来事であれば見て見ぬふりをするという選択を選ぶが。


「あのさ、知り合い……まぁ俺の姉貴なんだけど、先に“LEW”やってたらしくてさ。これから色々と教えてもらうんだよ、えーと、リリィさんも来る?」


 どこか驚いた表情をするリリィさん。だがそれも一瞬で、首を縦にぶんぶんと振った。


「ぜひ! 私も仮想世界は初めてで、実はというと少し困ってたんですよ。でも自分からはお願いし辛くて。……甘えてもいいですか?」


「おう、どうぞどうぞ。魔方陣の前で待ち合わせしてるんだけど、もう直ぐ時間になるんだ。これから大丈夫か?」


「大丈夫ですっ」


 なかまが、くわわったぞ! ……実際はパーティを組んでるわけでもなく、一緒に行動しているっていうだけなのだが。ふと、自分が自己紹介していないことに気づいて、歩みだした足を止め、リリィの方を振り向いて一礼。


「忘れてた。改めましてツキと申します。これからよろしく」


「あっ、リリィです……私のことはリリィで構わないので、その、よろしくお願いします!」


 フレンド申請を交わしながら俺たちは魔方陣の前へ歩いていく。こういうところはオンラインならではの醍醐味だよね。知らない人と話して、パーティ組んで討伐にいったり、コミュニティの輪を広げていったり。これからの“LEW”での生活が楽しみである。


 ・・・


 魔方陣の前にはマッカランさんがいた。それともう一人――ふわふわでピンク色の装備に身を包んだプレイヤーが一人。もしかしてあれか、あれが姉貴なのか。オンラインゲーム未プレイでの俺でも分かるぞ、地雷の匂いがプンプンだということに。そのピンクは俺たちを見つけると、ジーっと俺の顔を見てきて、とことこと歩み寄ってきた。


「……樹?」


「姉貴か……もっとマシな確認があるだろ、オンラインで本名を出すな」


「ごっめーん、ついつい。しかし本当に始めちゃったのね、泥沼だよ? その隣の可愛いお嬢さんはあんたの連れ?」


「あぁ、キャラネーム分かんないのか。とりあえずフレンド交換しとこう」


 俺と姉貴、リリィを交えてのフレンド交換会。さくさく進んで全員分が終わる。


「まゆたんさんお願いしますっ」


「あたしのことはまゆたんでいいよ、さんとかいらない! 語呂悪くなるしね」


 姉貴と言えばリリィの事を気に入ったらしく、両方の腕で後ろから抱きしめながら頬をすりすりとしていた。リリィは振りほどくわけにもいかずされるがまま、といったところか。

 まじまじと姉貴のキャラメイクを見つめる。耳は尖っていない、エルフ以外――ヒューマンが濃厚だろうか。淡い桃色のロングヘアーで瞳は赤色。ショートパンツにロングブーツ、上着はくたびれたパーカーのような装備であった。もっとも、全てがピンクになっているため凄く目がちかちかするが。


「……リリィちゃん可愛いわね、マスコット的な可愛さがあるわ。どう、ウチのお店でバイトしない?」


「ば、バイトですか……?」


「そうそう、あたしは細工師みたいなことやってるんだけど、一応店持ちなのよ。可愛い売り子がいてくれたら、売り上げも伸びるんじゃないかなってね」


「なるほど……まゆたんは細工師なんですね。私も生産系で頑張ろうって思ってたんですけど、どんな感じなのです?」


「んー、そうだね。ここで話すのもなんだし、適当な店にはいろっか?」


 ・・・


 選ばれたのは案の定、俺がシロヒゲと出会った酒場だった。時間も時間なのだろう、先ほどログインした時の閑散ぶりが嘘のように、人であふれていた。空いている席に三人で座り、店内を忙しそうに闊歩するNPCに姉貴が注文をする。


「……じゃあ、あたしが解説しましょう。この世界には大きく分けて戦闘系と生産系の二つがあるのよ。スキルスロットの数は最大で八個なんだけど、それの半分を生産スキルで埋めてるか埋めてないか、がどちらに分類されてるかの基準ね」


 なるほど……半分以上を生産系のスキルで埋めていれば、それは生産プレイヤーとなるのか。


「スキルスロットは街中であれば入れ替え効くんだけど、生産系は費やす時間がハンパじゃないし、その分戦闘系のスキルがあんまり上がらないのよ。ここは生産職のネックね。種類は鍛冶、装飾、薬剤、細工、木工に傀儡、なんでもござれ。……あたしは可愛いアクセサリー作りたくて、細工を選んだけどね」


「なぁ姉貴、装飾と細工って違うのか?」


「うん、装飾は既存のアイテムにオプション効果を付与するのよ、人気なのは鍛冶と装飾、あと弓やそれに纏わる消耗品も作れる木工かな。不人気は薬剤、細工、傀儡とかそのへん」


 姉貴はため息交じりに話を続けた。


「細工は装備欄でいうアクセサリーを作るんだけど、特化したのは中々作れないのよ。数値で言えば平均値からあまり上下しない、っていう感じ。本当に極まれには出来上がるんだけど、ダンジョンでレアドロ掘ってた方が早いのよね」


「でも、作れるのは本当に自分のオリジナルですよね……そういうの、素敵だと思います」


「ふふっ、ありがと、リリィちゃん。……二人にあげるわ、上手く使ってね?」


 言葉が終わると同時にトレード申請のウィンドウが立ち上がった。そこに在るのはアクセサリーとカテゴライズされた装備――“銀糸のピアス”というアイテムであった。性能を見てみると、全属性耐性一、と書いてある。リリィも同じものを貰ったらしく、しきりに礼を言っていた。属性値は十まである――例外はある――が、属性耐性というのはなんなんだろうか。一パーセントの耐性が付くとかそんな感じか?


「苦労したのよーこれ作るの。グランドクエストのレイドパーティに入れてもらって、その時手に入れた素材で作ったの、五つしか作れなかったけどね。まだ未装飾だし、まだオプションも追加できるの」


「……グランドクエスト?」


「うん、個人に対して用意されたのはメインクエスト。攻略の速度も何も関係ない、“LEW”における個人の本編。グランドクエストは――超超高難易度! ユーザー全員が挑める大型のレイドクエスト、みたいなものかな。もう“LEW”が始まって一年になるけど、まだ一章も突破出来てないのよ。あたしが素材を手に入れた時も、難易度が高すぎて途中で引き返したし。武器ドロップが無ければ死ぬ前庭で進めるんだけど、ね」


「一年たってもクリアできてないクエスト、ねえ。バランスは大丈夫なのかよ、それ」


「さぁ? クリアできなくて運営にメール送った人もいたけど、返事は適正な難易度ですっていうテンプレだったらしいわ。……メインクエスト自体も長くて、ちょくちょくアプデ来てるし、普通に遊ぶ分にはグランドクエストはしなくても問題ないのよね」


「……でも、そこまで高難易度だと……クリアしてみたいと思います」


「リリィの言うとおりだなー。ソロプレイで突っ込んでるやつもいそうだ」


「あぁ、わんさかいるわよ。悉く魔方陣から帰ってくるけどね。……高耐性で近接が一しか通らない癖に、属性値はほぼ(・・)全てが無効とか舐めてるでしょ」


「ん……ボスの癖にか?」


「そう、困っちゃうわ―。だから盾持ちで前を固めて入れ替わりで攻撃、魔法や銃、弓とかの遠距離が一ずつ削るんだけど、高い防御のせいで一万とかそんな打数を与えなきゃいけないのよ。……全階層は十、フロアの最後に行き着くたびにそんなボスがいるんだもん、回復アイテムが足りる訳ないわ」


「本当に高難易度なんだな……そういえば防御無視のオリジナルスキルとかあるだろ、それらはどうなんだ?」


「一応は有効よ。ただ近接はワンミスで死ぬし、連発出来る消費MPでもないし、五十人でしか挑めないクエストなのよね。アルティメット一撃五百ダメとして計算して、近接フルパーティで行くとガリガリ削れるけど……深部には属性ダメージしか通らないマスターメイジなんてのが通常湧きするのよ。故に魔法使いは必須、どう足掻いても七層に入るころには息切れして八で詰むわ」


「ほえー……なんだか、始めたばかりの私たちには、気が遠くなる話ですね」


「そうだな、挑むのは半年後か、一年後か――」


「もしも魔法以外で光か闇の属性ダメージを与えられれば話が早いんだけどね。モンスター鑑定で見たけど、グランドクエストのボスやらモブは光闇以外の属性値が無効の代わりにその二つは三倍弱点なのよ。……ボス部屋じゃ光と闇の魔術は縛ってくるくせにずるいわよね、ほんと」


 ――思わず体が反応。声に出してしまいそうになるが、なんとか飲み込んだ。姉貴に確認を取る為、声が震えないようにして、さも疑問であるかのように聞いてみる。


「……そんなの、光か闇の属性持った武器やらスキルを使えばいいんじゃないのか?」


「あー、あんたは始めたばっかりか。なら仕方ないわね」


 姉貴は大げさにため息を零す。そしてNPCが運んできたドリンクでのどを潤してから、告げた。


「今のところ存在していないのよ、光と闇、どちらかの属性値を持った武器もスキルも。ランカー達が血反吐の勢いで探してるけど、見つかってないわ」

 

 スキル――“黒焔・閃”。強大な炎と闇の属性値を併せ持ち防御を無視する一撃。確定だ、俺がコノヒから貰ったオリジナルスキルは完全に出回っていない唯一無二、オンリーワン。しかも起動すれば武器に炎と闇の属性値を与えることのできるスキルまである。


「……ま、グランドクエの方はいいのよ。あたしがあげたその全耐性、割とレアだから売ったりしちゃ嫌よ?」


「どのくらいの恩恵があるのでしょうか……?」


「全属性ダメを一割カット。属性単体はよく出来るけど、全体なんて滅多にないのよ、序盤だと有難みが分からないかもしれないけど、後半に行くにつれて敵も属性攻撃をしてくるから、重宝するわよ?」


「なるほど、メインストーリー進めるの、頑張ってみます! こんないい装備をいただいて、なんとお礼をすればいいか……」


 リリィと姉貴が会話を続けているが、俺の頭の中はそれどころではなかった。恐らくだが――俺はそのグランドクエストを一人で達成できる可能性がある。ボスは防御無視、闇属性付きの“黒焔”スキルでほぼ一掃できるし、道中も同じくだ。問題は消費MPが足りるかどうかだが――“黒焔”スキルは恩恵の対して非常に燃費がいい。初期の俺のMPでも“黒焔・閃”であれば十発は打てる。これからのキャラメイク次第では、その可能性はより現実的なものになるだろう。

 ――このロストエンドでの生活の第一目標が決まった。まずはグランドクエスト・一章をソロプレイで攻略だ。縛りプレイみたいな感覚で、盛り上がってきたぞ。

tips:《メインクエスト》、《グランドクエスト》

《メインクエスト》はキャラクター一人一人に用意された“LEW”のメインコンテンツ。これだけでも十分に楽しめるように設計されてはいるが、多人数オンラインというものをより楽しむために《グランドクエスト》が用意されている。五十人までのパーティが挑めるダンジョンは超が付く高難易度、クリアは一度きり。“LEW”が始まって以来、幾度となく攻略隊が組まれてはいるが、その全てが撤退になっている。

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