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例えば、の話し

作者: 雪時雨


例えばの話しだ。






「君はこれから死ぬ」

「・・・・・・はぁ?」



友人は酷く呆れた風に聞き返してくれた。何言ってんだこいつ、頭大丈夫かよ?とでも言いたげな感じだ。

しかし私は気にすることなく続ける。



「だけど私は君に死んでほしくないからね、それを阻止しようと思うんだ」

「何言ってんの?頭大丈夫?」



口に出して言われてしまった。だが気にしない。誰でも突然そんなことを言われればそう返すだろう。



「まぁ例えばの話しだよ」

「例えば?」

「そう、例えば」



訝しげな友人にもったいぶって頷く。



「例えば私が君の未来を知っていたとして」

「へぇ」

「それが死であるならば回避させたいだろう?」

「そりゃまぁできるんならお願いしたいね」

「うん」



神妙な私に呆れたのか諦めたのか、あるいは真剣に耳を傾けてくれているのかもしれない。友人は私を横目に見ながら暇そうに大きく欠伸をした。



「一番手軽なのは君に死の危険を意識してもらって自衛してもらうことなんだ」

「どうやって死ぬか分かってんの?」

「勿論。君はこの窓から飛び降りて死ぬんだよ」



そう言って腰かける友人の隣の窓を指し示してやればつられるようにして視線を向けた友人がまじまじと窓を眺めた。

空気の入れ替えと称して全開となっている窓。二月の寒さは殺人的だ。なのに教師は暖かい職員室でぬくぬくと過ごし生徒には健康の為と空気の入れ替えを強制する。全く理不尽といったらない。あぁ話がそれてしまったかな。



「あーそう。自殺ね。じゃあないわ」



再び窓に背を向けて、友人は飲みかけのイチゴ牛乳を飲んだ。

つめてー、と文句を言いつつもそのまま飲み干す友人を私はじっと眺める。



「なぁ、今日の放課後家来いよ」

「いいけどどうしたんだい?」

「昨日姉貴が大量にドーナッツ作りやがったんだ」



家じゅうドーナッツのあっまい匂いだらけ。吐くかと思ったよ。なんていいながらパックを潰す友人を私は呆れたように見た。

甘い匂いに文句を言いながら甘い飲み物を飲み干す姿は大変矛盾している。気付いているのだろうか。

親切心で教えてやったほうがいいのかどうか悩むところである。



「とにかく家来いよ。でもってドーナッツ持ってけ」

「了解」

「危ない!!」

「は?」



その時クラスの一角、男子どもがたむろっていた場所から鋭い声が響いた。明らかにこちらへと向けられた声に友人がぼんやりと反応する。

瞬間視界に映りこんだそれに友人が目を、見開く。


がたり、


飛んでくるそれを避けようと友人が立ち上がり窓枠へと手、を―――



「・・・・・・」

「わりぃわりぃ。間違ってそっち行っちまった」



たむろっていた男子の中から一人すまなそうにして歩み寄ってきた少年が友人の足元に転がった紙飛行機を拾い上げる。どうやら暇を持て余し紙飛行機で遊んでいたところ友人の方へ飛んで行ってしまったようである。

まぁ少年の向こうでこちらを窺う男子どもがニヤニヤと笑っているので大方ちょっとばかり脅かしてやろうと態と大げさに叫んだ次第だろう。気付いたところで別に気にすることはない。

なにせ殺傷能力は無く、被害といえば友人の心を少しばかり驚かせるくらいなのだから。



「びっくりしたー・・・」

「突然だったからね」



たかが紙飛行機。されど紙飛行機。

不意であればそれが何であれ人は驚く。反応もそれぞれ、軽く驚くだけもあれば大げさに反応してしまう者もいる。加えてあれだけ切羽詰まった様に叫ばれたのだ。とんでもなく危ないものが身を襲うと勘違いしてしまっても仕方がない。

男子どもの策略通り大げさに反応してしまった友人は窓へと張り付かせていた体を力なく机の上へと投げ出した。



「あ、窓閉めてたんだ」



いつの間にか閉められていた窓に友人が気付いたようでこちらを見やる。



「頃合いかな、と思ったからね」

「いい加減寒かったもんなー」

「うん」



そう。

寒そうだったから閉めたのだ。































例えばの話しだ。






「君はもうすぐ異世界に召還される」

「・・・・・・はぁ?」



帰り道。

友人の家に向かいつつそう言えば友人は酷く呆れた様子で聞き返してくれた。またか、こいつ何考えてんだよとでも言いたげな感じだ。

しかし私は気にすることなく続ける。



「だけど私は君に異界などには行ってほしくはないからね、それを阻止しようと思うんだ」

「またかよ。お前何考えてんだ」



やはり口に出して言われてしまった。だが気にしない。誰でも突然そんなことを言われればそう返すだろう。



「まぁ例えばの話しだよ」

「また例えばかよ」

「そう、例えばだ」



うんざりと返す友人にもったいぶって頷く。気分は教鞭を執る大学教授だ。



「例えば私が君の未来を知っていたとして」

「はいはい」

「それが異世界トリップなどという二次元世界の王道であるならば、」

「王道なのかよ」



小説ではよくあることだよ、と教科書以外本という物を読んだことのない友人に言えばあー、そうという何ともどうでもよさそうな返事が返ってきた。

まぁ別に友人の反応などこの際どうでもいい。



「回避させたいだろう?」

「そりゃまぁできるんならお願いしたいね」

「うん」



別世界とか願い下げだし、俺将来の夢パティシエだもんね。なんて語る友人を私は微笑ましそうに眺めた。



「一番手軽なのは召還陣が君を取り込もうとした瞬間を邪魔することなんだけど」

「へぇ。それで俺召還されんの」

「勿論、王道だからね」



友人の足元に光る陣が現れて眩しさに目をつむった一瞬後は異世界だ。逃げようったって何故かいうことをきかない体と無人の周囲に成す術はない。仮に人がいたってそいつらにも助けることは不可能だ。

なにせ不可思議な力の働いている空間。一緒に召還されるかあるいは無駄な努力で終わるか、色々パターンはあるけれど概ね対象が召還から逃れることはできない。



「無理ゲーじゃん」



そう言って呆れた友人はもう話は終わりとばかりに私の先を歩いた。

あほくさー、とぼやく友人の背中を私は眺めながら小さく、気付かれないくらいの小ささで笑う。



「つーかさ、そんなことよりお前どうだった?」

「何の話だい?」



くるり、と振り返る友人に不思議そうに首を傾げる。



「進路の話しだよ進路」

「あぁ」



私の今思い出したと言わんばかりの声に友人はむっと眉を寄せた。



「お前、まさか適当にしたなんて言わねーよな」

「まさか。一度きりしかない青春を灰色で終わらせるわけないじゃないか」



勿論進学する高校は厳選に厳選を重ねて決めたさ。それはもうここしかないというくらいに。



「お?ってことはお前もM高?」



M高とは可愛い女子が集まることで有名な共学高校で制服は可愛い。偏差値はそこそこだが私の友人は馬鹿だがアホではないので普通に勉強すれば受かるレベルだった。無論私も余裕で合格できる。けれど、



「残念、Y高だ」

「は?Y高?」

「そう、Y高だ」



Y高とは去年まで男子校だった高校で今年、つまり私が入学する年には共学になる高校である。当然女子は殆どいない。偏差値はまぁ、平均だ。



「げー、お前そんなとこ行くのかよ」



共学になるとはいえほぼ男子校のようなものだ。友人が嫌そうにするのも仕方がない。



「しかもあそこ馬鹿校ってゆうめ―――」

「おっと」

「なんだよ」



急に腕を引いた私に友人が不審そうにこちらをみやった。



「いや、ぶつかると思ってね」

「・・・なにに」



帰り道。そこには私と友人以外誰もいない。

日が短いゆえに辺りは少しばかり薄暗く、もう少しすれば電灯が灯されるだろうことが分かった。とはえい仄かに光る私達の足元に友人が気付くことはない。やがてそれは力を失うかのように光を弱めついには何もなくなった。



「気のせいだったようだ」

「はぁ?」



呆れた表情の友人に私は笑ってさぁ帰ろうか、と言った。































例えばの話しだ。






「君は世界を救うヒーローになるんだ」

「・・・・・・へぇ」



友人の家にて。

おすそ分けのドーナッツを袋に詰める友人を眺めつつそう言えば友人は酷くどうでもよさそうに頷いてくれた。懲りねぇなこいつ、これが俗にいう中二病かとでも言いたげな感じだ。

しかし私は気にすることなく続ける。



「だけど私は君に危険な目になど遭ってはほしくはないからね、それを阻止しようと思うんだ」

「懲りねぇよなお前。中二病かよ」



やはり口に出して言われてしまった。だが気にしない。誰でも突然そんなことを言われればそう返すだろう。



「まぁ例えばの話しだよ」

「はいはい、例えばな」

「そう、例えばだ」



右から左へと聞き流す友人にもったいぶって頷く。気分は悪童を諌める菩薩のような坊様だ。



「例えば私が君の未来を知っていたとして」

「すごいすごい」

「それが五色に輝くはた目に見ると目にイタイ戦士であるならば、」

「痛いのかよ」

「イタイが子供には憧れられる」

「そりゃいいこって」



悪を滅する正義の味方はいいとして覆面の上に派手な色の全身タイツは出来れば遠慮したいものだ。制服、と認識を変えても拒否感がぬぐえない。

まだある。その問題をクリアしたとして、敵が破壊する以上に味方であるはずの戦士も多分戦闘で周囲を破壊しているはずだ。普通はそんな描写などされないが実際はそうなるだろう。あれだけ激しい戦いをするのだから。あぁまた話がそれた。



「とにかく回避させたいだろう?」

「そりゃまぁできるんならお願いしたいね」

「うん」



ヒーローとかガラじゃねぇし、高校生活お先真っ暗じゃん。なんて言う友人にそうだろう、と私は頷き返した。



「一番手軽なのは君を勧誘しようとする輩を排除することなんだけどね」

「排除ってお前何するつもりだよ」



冗談だと思っているのか友人は既に三つ目となっている袋にドーナッツを詰めながら笑っていた。



「別に手荒なことはしないさ。私は所詮しがない学生だからね」



出来ることといえば些細な妨害くらいさ。



「そういえばさっきから外が騒がしいな」

「そうかい?テレビのせいじゃないかな」

「あぁ、どっかで爆発事故があったのか」



ニュースではどこぞで爆発事故が起こったというテロップが流れていた。感情のない声で短くキャスターが話し現場のリポーターへと中継が繋がる。

映像が映し出され驚いたリポーターの声に黒い影へとカメラが移動した瞬間、私はさり気無くテレビを消した。



「おい、見てたんだけど」

「それよりもそれ全部、私が持って帰るのかい?」

「あ?多いか?」

「七袋はちょっと多いかもね」



そういえば友人は私に五つ、袋を差し出した。これでも十分多いけれどまぁ良しとしよう。



「そうだ。少し遊んで行ってもいいかい?」



受験は既に終わっている。あとは結果を待つばかり。今更足掻いて心をすり減らしたところで何が変わるわけでもないのでちょっと遊ぶくらいいいだろう。

久しぶりの誘いだからか友人は嬉々として二階の自室へと駆けて行った。

後を追おうとリビングを出ていきかけてふと、カーテンの閉められた庭へ視線を向ける。

少し前までうろうろとしていた影はなくなっていた。



「おーい!早く来いよっ」

「今いくよ」



諦めが早くて助かるよ。































例えばの話しだ。






「君はとある事件に巻き込まれやがては世界の裏側と対峙することになるんだ」

「あっそ」



とあるところのとあるテーマパークにて。

高校生になる前の長い春休み。家に閉じこもってばかりではもったいないと友人に引っ張られ遊んでいたところである。

さて、次はどれにしようかとパンフレットを眺める友人は最早私の声などBGMでしかないのだろう。御座なりな頷きはどうでもいいから次決めようぜ、とでも言いたげな感じだ。

しかし私は気にすることなく続ける。



「だけど私はそんな壮大な話にはついていけないからね、それを阻止しようと思うんだ」

「なんにする?俺これ乗ってみてー」



完全に無視されてしまった。だが気にしない。誰でも突然そんなことを言われればそう返すだろう。



「まぁ例えばの話しだよ」

「よし。決めた」

「そう、例えばなんだ」



互いに別のことを言っていることに気付いておきながらもったいぶって頷く。気分は俺がやったんじゃない、と憔悴し虚構へと逃れようとする犯人の思考を繋ぎとめる警官だ。

友人は往生際が悪い。聞きたくないからといって逃避するだなんて。だがまぁそれも仕方がないだろう。例えば、であっても想像したくもない話だ。



「例えば私が君の未来を知っていたとして」

「げ、結構並んでるな」

「それがアンダーグラウンドの住人となるのであれば、」

「二時間待ちかー。仕方ねぇ、先に昼食うか」

「ならば私はあれが食べたいなぁ」



一向に聞こうとしない友人に仕方がないので私が合わせる。

まぁつまらない話だったのかもしれない。やはりああいうのは流れが典型的過ぎて先が予測できてしまうのだ。面白味の欠片もない。

私の希望した店へと友人が入っていく。その後ろ姿を眺めながらだから私はゆっくりと振り返っていったのだ。にっこりとした笑顔を添えて。



「回避させなければならないだろう?」



振り返った先には丁度こちらへと必死に駆ける一つの影。

それはしきりに背後を気にしながら何かを探すかのようにきょろきょろと視線を彷徨わせていた。故に私は小さく手の中で遊ばせていたそれを少年へと投げてやる。

まるで突然頭上から降ってきたかのように、少年の足元にタイミングよく落ちる様に。



「!?」



目測通り目の前に突然現れたそれに少年は息をのみ、急いで拾った後に警戒するように周囲を油断なく見渡していた。落ち方が不自然であるから誰かが投げたと分かったのだろう。

けれど行き交う人々は誰も少年に意識など向けておらず、当然人ごみに紛れ少年からは死角となる私のことにも気付けない。やがて追手に追いつかれそうにでもなったのか少年は周囲を気にしつつ慌ただしい様子でその場を去って行った。



「お待たせ」

「いや、そんなに待ってはいないよ」



店から出てきた友人を笑顔で迎える。



「一番手軽なのはきっかけをなくすことだからね」

「なんの話だ」

「さぁ、なんの話しだったかな」

「なんだそりゃ」



笑う友人に私も一緒に笑った。


本当に、どんな話だったんだろうね。































例えばの話しだ。






「君は同時に複数の女子とめくるめく高校生活を謳歌するんだ」

「へぇ!」



高校の入学式に参加すべく電車に揺られている途中。

全寮制ではあるが入寮は入学式当日でもよいとのことでこうなった。肩を並べる友人は楽しそうに頷いてお前偶にはいいこと言うな!とでも言いたげに私ににっこりと笑いかけた。

しかし私は気にすることなく続ける。



「だけど私は君にそんな破廉恥な日々を送ってなどほしくはないからね、それを阻止しようと思うんだ」

「なんでだよ。最高にハッピーじゃねぇかよ、邪魔すんな」



どうやら私の発言で称賛は一瞬のうちに非難へと変わってしまったらしい。だが気にしない。誰でも突然そんなことを言われればそう返すだろう。



「まぁ例えばの話しだよ」

「マジでこい」

「いや、例えばだ」



真剣に私を見つめる友人へきっぱりと否定の意味でもって首を振る。気分は不治の病だと言い張る患者にただの風邪だと言い含める医者だ。

しかも相手はかなり頑固でしぶとい。十年ぐらい放置した油汚れ並だ。尋常じゃない。



「例えば私が君の未来を知っていたとして」

「バラ色だろ!」

「それが煮え切らない態度でハーレムを形成するという男の風上にも置けない屑であるならば」

「屑なのかよ、おい」

「たった一人に絞ることもできず、ふらふらと男気のない奴はもはや人間ですらないよね」

「なんか恨み入ってないか?」

「気のせいだろう?私のはただの一般論だからね」

「完全な個人論の上に極論だ」



真剣に恋する女の子の心を弄ぶなど言語道断だ。許されない。ましてやハーレムなど論外である。それに考えてみたらいい。もし裏切られたと彼女たちが傷つきその心に憎しみを抱いたとしたら、裏切った男は最悪殺されるのではないだろうか。



「そうならないよう回避したいだろう?」

「えー、でも可愛い女の子と仲良くはしてぇよ」

「隣にいるじゃないか」

「は?どこ?」

「・・・・・・」



本気で周囲を探す友人に私はにっこりといい笑顔を向けた。

まぁ、やばいのはパスだよなぁ・・・と友人がしぶしぶ頷いた。うん。



「一番手軽なのは君の周囲に女の子をおかないことなんだ」

「無理だろそれ。M高は共学だぞ」

「勿論。でもこれなら可能だよね」



そうして辿り着いた校門。

友人は校舎を見上げてぽかん、と口を開けた。



「は?ここどこ」

「何を言っているんだい?Y高校に決まっているじゃないか」

「Y高?俺が受けたのはM高だけど」

「あぁ」



ぽん、と手を叩いた私に友人は訝しげな視線を向けた。だから私は安心させるために微笑んでやった。



「君、受験を間違えてたんだよ」

「なわけねーだろ。ちゃんと証拠がここに・・・あれ?」



慌てて鞄から出された入学案内書はM高のものではなくY高。あれあれ?と混乱する友人は己が着ている制服がY高であることにも今更気付いたのかさらに焦っているようだった。

仕方がないので思考停止状態に陥った友人を寮へと引きずり部屋番号と荷物を確認する。

ちゃんと友人の荷物は部屋へと届いているそうだった。



「受験高校を間違えるだなんてうっかりさんなんだね」

「うそだ・・・俺の、バラ色高校生活・・・」

「M高のことを言いながら真反対の路線に乗るしおかしいなぁとは思ってたんだよ」

「気付いてたんなら言えよ!」

「言っても手遅れだったと思うけどね」

「・・・・・・」



完全に灰になった友人を私は暫く慰めてやることにした。

あぁなんて君は馬鹿なんだろう。受験を受けた時点で気付かないはずがないだろう?君はちゃんとM高を受験して合格していたんだよ。なのに私の説明であっさり信じてしまうだなんて。

だがまぁ仕方がないか。いくら違和感を感じようと友人は今実際にY高の生徒としてここにいるのだから受け入れるほかに道はない。



「これは何かの陰謀だ!」

「大げさだね」

「うるせぇ!」



大正解。よくできました。



「ちくしょーーーーーーっっ」



君は諦め悪いなぁ。































例えばの話しをしよう。






あるところに物語の主人公に成るべくして生まれた命がありました。それはいくつかの分岐点の中でどれかを選び、そうして主人公となるよう定めづけられていました。

それの傍にはある人間がいました。物語の主要人物ではなく、脇役でもなく名前すら出てこない人間です。

人間は思いました。


それが主人公になるのは嫌だ。だってそれが主人公になってしまったら自分と違うものになるじゃないか、と。同時に不公平だ、と言ったのです。

どうしてそれは主人公になれて自分は何にもなれないのか。何にもなれない人間はそれが主人公になった後もその他に分類されてしまうせいで誰に目をとめられることもなくやがては死んでしまいます。だから自分も何かになりたいと強く願いました。けれど、決められたそれらをちっぽけな人間が変えることはできません。

人間は悔しくて悔しくてしょうがなかったのですがどうすることもできないので諦めるしかありませんでした。


そんなある日のことです。


不思議なことにそれがいつどこでどのように分岐点を迎え主人公となるのかを人間は知ることが出来るようになったのです。

一体何が、どうして、何の目的で、全てが謎に包まれていて分かりません。人間は突然の力に一瞬だけ悩みましたがそんな些細なことなどどうでもいいとすぐに気にならなくなりました。それよりも大事なことが人間にはあったのです。

それからというもの人間は分岐点が来るたびに邪魔して邪魔して邪魔しまくりました。これでもか、というくらい邪魔をしまくったのです。


長い長い戦いでした。


何せ主人公となるべく定められたそれでしたから次から次へと分岐点があらわれるのです。並大抵の労力ではありませんでした。一瞬たりとて目を離すことなどできず、ただそれだけのために全神経を傾け続けたのです。

それこそ人間の人生全てをかけるほど。

けれどそのかいあってかそれはとうとう死ぬまで主人公になることはありませんでした。死ぬまで主人公になるかもしれなかったそれ、でした。


人間はそれを見届けて大変満足し、そして安心して眠りにつきました。



―――あぁこれで漸く彼は私のものだ



とてもとても満足げな声でした。










そう、これはもしかしたらあったかもしれない例えば、のお話しなのです。









例えば、死んで記憶あり転生

例えば、召喚されて勇者業

例えば、スカウトされて戦隊ヒーロー

例えば、巻き込まれ系アンダーグラウンド

例えば、ギャルゲーのハーレム主人公

そして語られないいくつもの例えばのお話し

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