君とずっと繋がっていたい
……あーうん。ごめん、多分執筆してるとき病んでました(>人<;)
「めんどくせーな、生きるのって……」
少年はポツリとつぶやきながらも、ガチャガチャとレバーを動かす。
持ち方はオーソドックスにかぶせ持ちで、右手はせわしなくボタンを押している。最新の筐体でプレイするため、開店前からゲーセンの前で待機していた黒野は、虚ろな表情のまま格ゲーに没頭する。
平日の昼間は、ほとんど割り込んでくるような暇人はいないので重宝している。というよりは、ただ無為に時間つぶしをしているだけだ。
ノーダメで全クリした黒野を特に喜色を表さないまま、黙って席を立つ。
立って少し歩くと、汚らしくて身なりを整えていないおっさんが、椅子取りゲームのように黒野がさっきまでプレイしていた筐体に座る。まるで鏡を見ているかのようで、不愉快になりながら黒野は三階から階段を下りる。
街の外に出る自動ドアの前で立ち止まり、黒野は開くのを待ったのだが、
「ちっ」
自動ドアは何の反応も示さない。
恐らくは全身黒ずくめの服装でいるから、センサーかなにかに引っかからないから起こったのだろうが、黒野の胸中は穏やかではない。
(人間はおろか、機械にすら無視されるのか、俺は……)
黒野は手を胸の前に持ってくると、チッとシケた指パッチンをする。確実に出来た試しはないが、それでも16年間やり続けている。すると、白く透けるような黒野の肌に反応したのか、ウィーンと自動ドアが横に開かれる。
冷房の効いたゲーセンから一歩出ると、ムッとした熱気が足元から押し寄せてくる。昨日降った雨のせいで、湿気がこもっていて、いつも以上に熱い。年中無休かと勘違いしそうな灼熱の太陽の直射日光は、黒い服を着ている黒野を容赦なく照りつける。
「あちー。……でも、服これしか持ってねぇし」
黒シャツをパタパタとさせるが、焼け石に水。なんの根本的解決にもなっていない。こんなクソ暑い場所からとっとと帰って、自宅のマンションにでも帰ろうと、足を伸ばそうとすると、
「――――――――――――――――――――――――――――――――」
頭上から小さく、誰か人間の声が降ってきたような気がした。そんな訳ないよな、と思いつつも黒野は眼球の水分を全て蒸発させる魂胆を持っているかも知れない、腹黒太陽を視界に入れてみる。
すると、黒点のような小さい黒い点があった。そして、その黒い点はどんどんそのフォルムを明らかにしていって、
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああ」
頭上から、女の子が降ってきた。
黒野は必死で避けようとしたが、日常から乖離した状況に思考が追いつかず、そのまま少女のドロップキック気味の落下に巻き込まれることになった。
「グフッ……ゥ…………」
少女は黒野の顔面に両足を着地させると、そのまま縦回転して体操選手のようにシュタ! と器用に両足で着地してみせた。顔に重力と少女の体重をモロに受けた黒野は、そのままアスファルトに叩きつけられる。
「……ガハッ、…………アッ…………痛ゥ…………」
後頭部を手で押さえながら、起き上がろうとすると、
「すいません! ……だ、大丈夫ですか?」
落下少女が心配するように、黒野のもとに駆け寄ってきた。だが、怒り心頭の黒野は少女の手を振り払って激昂する。
「ふっざけん――な! お前一体なにしたと……思ってるん…………だ…………」
顔を上げて、怒りに任せて幾千の罵詈雑言を唾とともに飛ばそうとした。だけど、その少女の容貌を見ると、負の感情のままでいることなどできはしなかった。
まず目を引いたのは銀髪。
色素が抜けてしまった色ではなく、プラチナブロンドに近い輝きを持った銀色の短髪は彼女の碧眼の前で揺れている。二重まぶたの彼女の目元は緩んでいて、湖のような心のゆとりさが滲み出ている。そんな大人しそうな性格とは裏腹に、格好は下着姿に近い。
純白の服で短めなシャツをヘソの上で縛っている。そのせいで見える綺麗なくびれに、まず黒野は喉を動かして、そして、その強調された胸に口元をへらっと思わず歪ませた。りんごよりも大きなその胸はかなりでかくて、プリンのような柔らかさを持っていて……て、
「おい!」
「……っ、どうかしましたか? どこか痛いですか?」
「いや……なんでもない」
白い服のせいで、身につけている下着が透けてしまっていた。夏の暑さのせいか汗も吹き出していて、そのせいで妙に色っぽくて、その少女の見た目から、恐らくは黒野と同じ高校生のはずなのに。今まで見たどんな女性よりも女性らしい体つきをしていた。
そんな黒野の心をかき乱している自覚なんてこれっぽちもなさそうな少女は、黒野の腕を掴もうと手を伸ばして、
「ごめんなさい、私、少し急いでいまし――――」
ドグン、と心臓の音が聞こえて気がした。
少女は驚愕に満ちた瞳で視線を投射する。
「まさか、あなたが…………」
少女の腕が黒野の腕に触れた瞬間、足の指先から頭の超東部まで熱が急激なスピードで押し寄せてくる。そのとてつもないエネルギー奔流のようなものは血管の管を通っているようで、内部からとてつもない熱量で体の芯を貫いていく。
「なんだ……この、感覚ッ…………」
少女の心のぬくもりがそのまま黒野の体の中にダイレクトに伝わってくるようで、もはや立っていられない。まるで少女の全てを黒野はこの一瞬で全てを知ってしまったのかのような、全能感に細胞全てが歓喜しているような、この感覚。
「あは、ははははははははははははははははは。なんだこれ! 最高じゃないか!!」
叫ぶように高笑いしている黒野の隣で、少女は膝立ちになったまま頬を上気させていた。
露わになっている肌からは球のような汗が吹き出していて、蕩けるような表情で空を仰いでいる。弛緩しきった身体は、自力では立ち上がれない。
精神を共有し、脳を直接手で揺さぶられるような感覚を味わっている少女は、ハァ、と幸せそうにと息をつくと、
「…………き…………きもち…………いい…………」
少女は喘ぐように息を荒げながら、口の中で自分の状態を確かめるように言葉を転がした。なにかの中毒者のような顔している少女は手を握る力すらなくなって、黒野の腕から手を放す。
黒く燻るような炎を瞳に宿しているかのように、仄暗い瞳の色をした黒野は少女に向き直り、
「俺はお前のなんだ?」
「〝鞘〟です」
「お前は俺のなんだ?」
「〝剣〟です」
「違うな」
「……………………?」
「――お前はただの俺の道具だ」
怪訝そうだった少女は、恍惚とした表情になっていき、静かに肯く。異常すぎるほどに納得した少女に興味をなくしたように黒野は視線を外す。それを見た少女はあっ、と小さく声を上げて追いすがるように手を空中につき出すが、
「そう、お前は道具だ。俺の、俺だけの。っく、はははははははははははは」
哄笑している黒野を見て、安堵したように手を胸元に持っていき、聖者に祈るように両手を交差させる。黒野は空にむかって、今までの鬱憤を全て吐き出すかのように笑いを上げていた。
つづく!!