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いじめっこですが復讐されそうです  作者: とりのはね
【第二部】 テスト明け
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公に負けた

 期末テストが終わり数学の答案用紙が返ってきて、あたしは顔面蒼白となった。

 かつて見たことのないほど酷い点数だったからだ。


 0点。


 何かの間違いかと思って答案用紙をひっくり返してみたり、何度も目をこすって見直してみたけど、点数が増えることもなく、容赦のない現実がそこに存在した。


(あかん。これはあかん)


 赤点は慣れっこのあたしでも、初の0点はさすがに堪えるものがあった。

 だけど、まぁ、とってしまったもんはしゃーないので気分を切り換えようとした矢先。

 ふと背中に視線を感じて振り返ると、斜め後ろの席の西園寺が、食い入るようにあたしの答案用紙をガン見しておった。


(ひいいぃっ。み、見られた!)



◆ ◆ ◆



「しずかちゃん、その点はありえないよ。少し勉強したほうがいい」


 時は昼休み。いつもの密会場所の理科準備室で会って早々、西園寺の小言がはじまった。予想していたこととはいえ、傷心の傷をえぐられたようであたしはいい気分がしなかった。

 そもそも勝手に人の答案用紙を覗くんじゃねえよ。プライバシーの侵害だぞ。

 なんて苛立ちもあって思わず口を尖らせる。


「しょうがないじゃん。あたしはあんたと違って出来がよろしくないんだもん」

「いや、やれば出来るはずだよ。昔は僕なんかよりもよほど優秀だったじゃないか」

「それなんだけどさ。おかしいよね、封印は解けたはずなのに一向に頭が良くならないの!」


 言いながらあたしがポケットから赤ペンを取り出して答案用紙に小細工をし始めたところで、西園寺の指摘が入った。


「何をやってるの?」

「ん。0点はさすがに恥ずかしいから、親に見せる前に10点ぐらいに加工しとこうと思って」

「しずかちゃん!!」

「チッ、うっせーな。反省してまーす」


 西園寺のこめかみにピキリと青筋が立ったのを見て、あたしはさすがに態度を改めることにした。あまり怒らせるのは得策ではない。


「ごめんごめん。でもほんと勉強に身が入らなくなっちゃったんだ。もうあの林先生だって助走つけて匙を投げるレベルなんだよ」

「林先生?」

「え、知らない?」

「覚えがないな。まさかとは思うけど、その『林先生』とは、君の想像上の存在に過ぎないのではないでしょうか」

「なんだ、知ってんじゃん」


 意外とノリのいい西園寺にツッコミを入れたところで、もう1つ謝らないといけないことを思い出した。

 そうだ、今回ママにケータイをおねだりする計画を立ててたんだけど、こんな点数じゃさすがに話を切り出せない。酷いのは数学だけじゃなくて、ほぼ全教科平均点を下回っている始末なのだ。

 あたしがそのことを説明してケータイ買ってもらう計画は延期、と告げると西園寺はいよいよキレだした。


「そんな、これでようやくしずかちゃんと気兼ねなく毎晩やり取りができるって、ものすごく楽しみにしてたんだよ!?」

「ごめんってば! 電話だったら、なるべくかけるようにするからさ」

「嫌だよ。毎晩スマホを握りしめて連絡が来るのをひたすら待つ受け身の辛さが、しずかちゃんには分からないんだ!」


 そこまで言って、西園寺はあたしの肩をガッと掴んで揺すってきた。

 うっ、ちょっと怖い。目がすわってるよ。


「しずかちゃん。たしか補習で再テストがあったよね」

「う、うん」


 思わず逃げ腰になったが、その分だけ詰め寄られた。


「まだチャンスはある。明日から数学の教科書を持ってここにおいで。これから巻き返そう。ね?」

「えええーっ!」


 何それちょっと待ってよ。昼休みまでxとyに苦しめられたくないぞ。

 それならほとぼりが冷めるまでの間、ここには近寄らないようにしようかな。うん、そうしよう。

 だが西園寺はそんなあたしをお見通しとばかりに先手を打ってきた。


「言っておくけど、逃げたら校内放送で呼びつけるから覚悟しておいてね。逃がさない……絶対に……逃がさない……」


 ひえええぇっ。やばいよこいつ。

 あたしはもう、ひたすらこの話を早く切り上げたくて逃げ口上をうった。


「あ、あのさ、コミュニケーションならべつにケータイなんかなくてもとれると思うんだよねっ。だいたいメールよりも手書き文字のほうが、温かみがあって気持ちが伝わる感じがするじゃん!? だから――交換日記をしようよ!」





■聖子ちゃんへ


ケータイもパソコンも持ってなくてごめんなさい。

パソコンは家族兼用のならリビングにあるんだけど、親の監視が厳しくて……。

高校生になったら自分用のを持たせてもらえる予定なので、

あともう1年半だけ待っていてください。

(無事に進学できるように、あんたの得意な呪いをかけておいて!)

その間、交換日記で繋ぎましょう。よろしくお願いします。

紛失した時のことを考えて、名前は必ず指定した偽名を使って下さい。

あと教科書は持って行きません。持って行きませんとも!


                 6月25日(月) 静雄



■静雄くんへ


一発でバレてしまうような偽名だと思うけど……まあいいか。

こちらこそよろしくお願いします。

僕たちまだ付き合い始めたばかりでお互い知らないことも

色々あるはずなので、もっと理解を深めていけたらいいですね。

静雄くんの趣味は何ですか?

……ああ、こんなまどろっこしい事してないで直接話がしたいです。

次にふたりで会った時は覚悟しておいてください。


PS:小4の算数からやり直しましょう。

   今日渡したプリントは必ず問いてきて下さい。


                 6月26日(火) 聖子



■聖子ちゃんへ


ちょっと、参考書片手に迫ってくるのはヤメてよ!!!

あた……俺の趣味は以前にも話したことがあると思うけど、

畳の目を数えることです。

でもこの間、3万7千の新記録を樹立した途端

虚しさが無性にこみ上げてきて、それ以降はやってません。

そろそろ新しい趣味を探すべきでしょうか?

聖子ちゃんの趣味も教えて下さい。


PS:バカにしてんの!?って思ったけど案外難しかった。

   バカは俺だった。


                 6月27日(水) 静雄



■静雄くんへ


そうしたほうがいいです。

そんな不毛な趣味は辞めて、もっと自分を高めるような

趣味を見つけることを勧めます。

僕……自分の趣味は、資格の勉強をすることです。

興味が湧いた分野や、将来に役立ちそうな資格を幅広く取得しています。

静雄くんも一緒にどうですか?

高校入試に有利になりますよ。


PS:実はまだ諦めてません。

   静雄くんの努力に期待しています。補習頑張ってください。


                 6月28日(木) 聖子



■聖子ちゃんへ


もうっ、頭の痛くなるようなことを言うのはホントやめてってば!

聖子ちゃんとは楽しくおしゃべりがしたいです。

うちのパパやママもやれ勉強しろとか、しきりに塾や家庭教師を

勧めてきてうんざりしています。

来年はさすがに何かやらされるだろうけど、それまでは絶対に何もしませんから!

そういえば今週末はどうしますか?

また聖子ちゃんの家に遊びに行ってもいいですか?


PS:頑張って解答を丸暗記しました!

   無事に居残りから解放されました!!


                 6月29日(金) 静雄



■静雄くんへ


取り急ぎ

週末の件ですが、ここ数日、家のハムスターの様子がおかしいのです。

いつにも増して殺気立っているので調べたところ、

に……妊娠している兆候がありました。

あれが増殖すると思うと気が狂いそうです。

今のうちにまた山に捨てて来るか真剣に検討しています。

そんな訳でしばらく家には近づかない方が賢明です。

申し訳ないけど週末は会えません。


                 6月29日(金) 聖子



■聖子ちゃんへ


えっ、あいつメスだったの!? 相手はだれ!?

1匹で飼ってるのに子供ができるなんてホラーじゃん。ヤバイよ。

今日は1日中ごろごろするつもりだったけど

夕方から家族で回転寿司に行ってきました。

日曜だからか混雑が凄かったのと

食べてる間にパパからまた家庭教師を勧められて

好物のサーモンもさっぱり味わえませんでした。

なんとか断ったけど厳しい一時でした。

そちらの土日はどうでしたか?


                  7月1日(日) 静雄



■静雄くんへ


…………最悪です。4匹も産まれてしまいました。

急いで里親を探そうと思います。

里親探しに全力を尽くしたいのでしばらくは

昼休みも顔を出せれそうにないです。

本当ごめん。この埋め合わせは必ずするから。


PS:相手はおそらく脱走先か、山帰りの途中で見繕ったんだと思います。


                  7月2日(月) 聖子


日記の部分ですがPCからしか確認してないので携帯やスマホだと表示が崩れまくってる予感がムンムンします。

あまりにも読みづらかったら修正しますので教えて頂けると助かります。

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