あんた人を呪う才能あるよ
あたしが若干引いているのにも構わずに、奥野さんのおしゃべりは続く。
「ちょっと気難しくて近寄りがたい雰囲気あるけど、いいなぁ、素敵だなぁって思って眺めてたの。実は私イケメンウォッチングが趣味で」
「は、はぁ、それはまた斬新な趣味をお持ちで……って、あたしイケメンなの???」
「うん、美形ってカンジ! その姿もばっちり似合ってるけど、私は普段の野性的な格好のほうが好きだな」
そして、まだ進学先が決まってないなら女子校も視野にいれてみて、鈴木さんは女子校こそが真価を発揮できる場所だと思う! と、身を乗りだして熱く語られてしまった。
いやいや、そんな不純な動機で進路を決めるのは如何なものかと思います。
ちなみに、「ならば男子ウケする女子とはどんなもので?」となんとなく訊ねてみたら、奥野さんは「アレ」と興味なさそうに窓際の調理台で皿洗いをしているツインテールの女の子を指差した。
小柄で甘ったるい声の持ち主の名前は……たしか太田さんとかいったかな。
全体的に小作りで整っていて、顔は少し丸いけど、目が大きくてまつ毛が長い。
ものすごい美少女っていう訳ではないけど、仕草などがいちいち女の子らしくて、リアルで等身大の可愛いさがそこには詰まっていた。
(うむ。あたしとは違う種族だ)
そうこうしている間にも時は確実に歩みを進め、授業終了のチャイムが鳴り響く。
結局ほとんど手伝えなかったけど、出来上がったバナナクレープはそれなりに美味しかった。
◆ ◆ ◆
ぐぬぬぬ……。
腹立たしいことに、ホームルーム終了の合図とともに教室から逃げ出す計画はマッハで頓挫された。
あたしがカバンに手をかけて立ち上がろうとしたら、もう西園寺が目の前にいて、足止めをくらったのである。
アクション起こすのはえーよ。こいつ絶対すばやさ255あるだろ。
さいおんじは いっしょにかえりたそうなめで こちらをみている
なかまにしますか?
はい
→いいえ
「鈴木さんもう帰るの? よかったら一緒に」
「ごめんなさい、今日は用事があって急ぐの」
やーだよ。
コーカソイドの血が混じっているあんたは気にしないかもしれないけど、一緒に帰ったりなんかしたらどんな噂をたてられることやら。
いまだって大勢が耳をダンボにしてこちらの様子を窺っているんだ。純日本人のあたしとしては断固拒否するッ!
切なげな視線を無視してそのまま戸口に向かおうとしたところで、あたしの一挙一動を目で追っていた西園寺が悲しそうにぼそりとつぶやいた。
「そっか……残念だ。時間があれば、これを葬るのを一緒に見届けてほしかったんだけど」
言いながら自身のカバンからごそごそと取り出したのは、藁でできた不恰好な手作り人形だった。
こ、これは……まさか……!
「それなに」
あたしが口元をひきつらせながら問うと、西園寺は手にしていた不恰好な人形を、『おまもり』と称した。
ちげーよ! それ藁人形だろ!!!
「これはね、昔ここを離れる時に作成したんだ。なんとなく処分しがたくてずっと持っていたのだけど、そろそろ手放し時なのかもしれない……」
そう言って西園寺は透き通るような笑顔をみせた。
そして、
「もう必要ないから捨てる。焼いてくる」
ひいっ
まてまてまて――――!!!
あんたが去ったあとの4年間の悪夢の数々が脳裏をかすめて、今、心拍音が凄いことになってるぞ。
これは危険なものだ。ただちに確保してお寺で供養してもらわなくてはならない。
「そ、その人形可愛いっ! いらないならちょうだい!」
「こんなの物が欲しいの? 鈴木さんのセンスって独特だね」
「う、うん。私、人形とか大好きでね、なんだかその子に一目ぼれしちゃったみたいなの。どうしても欲しい。絶対ほしい。お願いします。ね?」
「どうしようかな。鈴木さんに焼き払うところを立ち会ってもらいたいと願ったけれど、欲しがられるとは思いもよらなかった」
そこまで言うと西園寺はちょっといじわるな顔をして、「一緒に帰ってくれたらあげる」と告げてきた。
おいっ。あたしはさっき用事があるって述べたはずだけどぉ!?
それで笑顔をひきつらせながらなんとか人形だけ貰えないかとお願いしてみたものの、西園寺は頑として首を縦にはふらなかった。くっそ。
やがて交渉に失敗したあたしは観念して、一緒に帰ることを承諾する羽目になったのである。ギギギ。
「予定があるんじゃなかったの? べつに明日でもよかったのに」
「う、うん。よく考えたら急ぐこともなかったから」
こっちは一刻も早くそれがほしいんだよ!
ああくそ、ヒガシが部活じゃなかったら、襟首を引っ張ってでもついて来てもらったのに!!!