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窒息しそうになった

 ――――……。


 目を開けるとまず視界に飛び込んできたのは、あたしを心配そうに覗きこむ西園寺の顔だった。


「さい…おん…じ……?」

「気がついたようだね。頭痛や吐き気は?」

「ん……、ちょっとおでこがズキズキするけど、これぐらいならヘーキ」


 なんで西園寺があたしを看てんだ?? 

 と不思議に思いながらもひとまず質問に答えると、西園寺はホッと溜め息をついた。

 その隙に状況をうかがう。また病院に担ぎ込まれたのかとおもったけど違った。

 壁にベタベタと貼られた張り紙と室内にかすかに漂う消毒液のにおい。ここは見知った保健室だ。

 ベッドから身を起こそうとしたら、西園寺が慌てて止めてきた。


「まだ寝ていたほうがいい。橋本先生が家の方に連絡を入れている最中だから、迎えがくるまではここでゆっくりしてるんだ」

「うえっ。しなくてもよかったのに」


 あたしは盛大に顔をしかめた。

 家に帰ったらまたねちねちとした説教が待っているに違いない。ああやだやだ。しかしまぁ、救急車を呼ばれなかっただけでもマシだと思うことにするか……。

 ところであたしはどれくらい気絶していたんだろう。

 気になって時刻を確認すると、壁掛け時計は17時にもなっていなかった。

 空白の時間は15分程度といったところだろうか。それ程長くは気を失っていなかったようだ。

 じゃあ、なっちゃんはどうなったんだ!?


「ねぇ、なっちゃんは?」

「彼女なら今頃、職員室でこってりと絞られているはずだよ」


 あたしの疑問に西園寺が素早く答える。

 あらまぁご愁傷様。向こうは武器持ちだったから相当分が悪いことだろう。

 いい気味だ、と溜飲を下げていると、西園寺がキッとあたしを睨みつけてきた。


「何へらへらと笑ってるんだ。君は自分がしたことを理解している!?」

「怒らないでよ。言っとくけど先にバットをブン回してきたのは、なっちゃんの方なんだから」

「だからといって身ひとつで応戦するバカがいるか。無茶にも程がある!」


 ぴしゃりと言われてあたしは口をとがらせた。

 そりゃあ振り返ってみると自分でも無茶なことをしたもんだと思うけどさ。元はといえばあんた絡みでふっかけられた諍いなんだから、上から目線であれこれ言われたくないわ。というかさっきも思ったけど、なんで西園寺がここに居るんだろう!?

 あたしは疑問を口にする。


「そういえば、なんであんたがあたしを看てるの?」


 すると、西園寺は「話せば長くなるけど」とため息まじりに前置きしてから、とつとつと語りだした。


「うちのマネージャーがなかなか姿を見せないと不思議に思っていたら、遅れてきた部活仲間が興奮しながら耳打ちしてきたんだよ。僕の名前を連呼しながら上級生とストリートファイトしてるってね。それで慌てて確認しに行ったら、君がマネージャーに飛びかって卒倒したところに出くわして、ここまで運んできたんだ」

「ふぅん」


 話は呑み込めたが、あたしは面白くなかった。

 というとなんだ。つまり西園寺はなっちゃんを探してて、たまたまあたしと遭遇したってことか。

 そっか、西園寺はなっちゃんを探してたんだ、あたしからは逃げまわっているくせに……。


「ねぇ、なっちゃんて結構カワイイよね」

「へ?」


 あたしが独りごちてつぶやくと西園寺がキョトンと首を傾げた。

 それがまたイライラくる。


「カワイイ後輩から懐かれてあんたもまんざらじゃないでしょ。いいよここはもう。あたしは平気だからなっちゃんの所に行きなよ」


 シッシッ、と手で追い払ってから寝返りをうって背中を向けると、西園寺はやれやれといった具合に嘆息して、そのまま保健室を出ていった。

 遠ざかる足音が消えてからもムシャクシャした気分は晴れなくて、勢いにまかせて壁を蹴っ飛ばしたら痛くて涙がでた。いてぇ。



◆ ◆ ◆



 それから西園寺と入れ替わるように担任の橋本ちゃんが保健室に訪れた。

 不在の保健医の代わりに現れた橋本ちゃんは仕事が溜まっていて忙しいらしい。慌ただしくあたしに用件を告げてきた。


「今さっき鈴木さんのお母さんと連絡がとれて、もう少ししたらタクシーでやって来るそうだから、ついでにそのまま病院で診てもらって来なさい」

「え……、あたしもう元気なんでそこまでしなくても大丈夫です!」

「ダメよ。頭の場合は後から症状が出てくる事もあるんだから、元気でも検査しておかないと」

「うへぇ」


 めんどくさいことになったもんだと顔をしかめていると、橋本ちゃんは更なる追い討ちをかけてきた。


「でも残念ねぇ、これで明日の球技大会は不参加になっちゃったわね」

「ええっ、なんで!?」

「だって気絶したってことは、いくらかのダメージが脳にいってるってことなのよ。少なくとも数日間は運動は厳禁よ。先生は医者じゃないけど、これぐらいのことならわかるから」

「そんなぁ」


 あたしはガックリとうなだれた。

 あーあ、なんてこった。せっかくこの日のために練習してきたのについてない。

 運動しか取り柄のないあたしの、数少ない見せ場だったはずなのに……。

 期待を寄せていたクラスメイト達になんて謝ろうかと頭を悩ませていると、「そうだ」と橋本ちゃんが思い出したかのようにつけ加えてきた。


「後で介抱してくれた彼氏クンにお礼を言っておきなさいね」

「は!? 別にあいつは彼氏でもなんでもないですッッ!」


 ぎょっとして慌てて否定すると、橋本ちゃんは首をかしげた。


「だって鈴木さんが気を失っている間ずっと手を握り締めて『しずかちゃん!』って呼びかけていたのよ。これはもうただならぬ仲だと思ったんだけど」

「――――ッ!」


 ひ、人が気絶してる間に何やってんだよアイツ!!!

 恥ずかしさのあまり枕に顔をうずめてジタバタやってると、頭の上から「青春ねぇ」としみじみした声が降ってきて、あたしはより深く枕に突っ伏したのであった。



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