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ヤバイヤバイヤバイ

「しーちゃん起きて」


(――んん。もうちょっと寝かせて)


「んもうっ、何したって起きないんだから。もう知らないわよ」


(――わかったわかったから)


「学校には、変なもの拾い食いしてお腹壊したって電話しとくから」


(――え、それは勘弁して。とにかく眠いから寝かせて。むにゃむにゃ……)





「ふぎゃーーーー!! なんでなんで起こしてくれなかったのッ!?」


 目覚めたら時計の短針が10時を差していて、あたしはベッドの上で絶叫した。今からだと、どんなに急いで学校に行っても早くて3時限目からだ。

 あたしが真っ青になりながらママに文句をたれると、ママは心外だとばかりに眉をひそめてきた。


「しつこいぐらいに起こしたわよ。それでも起きなかったのはしーちゃんでしょ。だいたい朝方まで奇声をあげてるから――」

「ぎゃあ。思い出させないで!」


 昨晩は例のキスのことが頭にチラついてなかなか眠れなかったのだ。まったく西園寺のヤツったら、去り際になんっちゅーことをしてくれたもんだ。ふざけんなっ!

 あたしが頭をかきむしってると、ママがにんまりしながら追及してきた。


「西園寺君だっけ? 今度うちに連れてきなさいよ。しーちゃんにふさわしいかママが審査してあげるわ」

「バカ言わないで。何か誤解してるようだけどアイツとはそんなんじゃないから」

「またまたぁ、隠さなくていいわよ。パパには内緒にしといてあげるから」

「だから違うってば! 大体あいつはオカルト野郎なんだよ。ユーレイの存在信じちゃってるし」


 UFOは否定するのにな。

 するとママは、あらそんなことと朗らかに笑った。


「いいじゃないの。お年頃だもの、少しぐらい中二病が入ってたって仕方ないわよ。かくいうママだって、昔は前世少女だったんだから」

「ちょっとまって、なんだよその前世少女って」

「言葉どおりよ。ママ昔は自分のことを聖母マリアの生まれ変わりだと信じ込んでいてね、雑誌の文通コーナーで十二使徒を募集したわけ。それに引っかかったのがパパだったりするのよ」


 もっともパパは下心があってコンタクトをとってきたようだけどね、とママはつけ加えた。

 うへぇ。いやだそんな事実知りたくなかった――ってヤバイ、無駄話なんてしてる暇はなかったんだっけ。

 ママとの会話を切り上げて慌てて身支度を整えると、あたしは全速力で学校へ向かった。



◆ ◆ ◆



 息を切らせながら学校に到着して教室内に入ると、ちょうど2時限目の授業が終わったところであった。

 クラスメイトと「おそよう」と挨拶を交わして自分の席に着くと、すかさずヒガシがあたしのそばまで近寄って来る。ヒガシは少し怪訝な顔をしていた。


「おい、昨夜どこ行ってたんだよ、お前のところのおばさんから電話あったぞ」

「実はちょっと家出してたんだ。でもすぐに折れて帰ったから変なことにはなってないよ」


 チラリと後ろを窺い見ながら答える。

 後方の席に座っている西園寺と目がかち合って、あたしは慌てて前を向き直った。

 まぁまずは話を聞こうじゃないか。


「で、何よ」

「それならいいんだけどさ。あと実行委員として伝えておくが、来週末に行われる球技大会でお前はバスケットボール担当に決まったからよろしくな」

「うげ。ドッジボールが良かったのに!」


 あたしは思わず口を尖らせた。

 そりゃたしかに遅刻したあたしも悪いんだけどさ、猛者どもが集うバスケチームの熱血ノリは嫌なんだよ。

 うちの中学の球技大会はバスケとソフトボールとドッジボールの2種類で選択は自由。ただし、バスケ部に所属している人間はそれ以外を選ばなくちゃいけないというオキテがある。

 あたしは帰宅部だから関係ないことなんだけど、どうせならと楽そうなドッジボールを狙っていたのだ。こっちの意を汲んで配慮してくれたらよかったのに……。

 あたしの不満げな態度を見てヒガシはちょっとだけ肩をすくめた。


「校内記録保持者をみすみす余り者で構成されるドッジボールに押し込めるわけないだろ。ま、今朝のホームルームに出なかった自分が悪いと思って諦めろ。ところで何を拾い食いしたんだ」

「何も食べてないよ。ううう。めんどくさい……」

「言っとくがうちのクラスは表彰状を目指してるからな、面倒がって手を抜くなよ」

「えーっ!」

「えーじゃない。そんなんだから怪我ばっかりするんだよ。真面目にやれば指折りの実力者なくせして注意力散漫すぎる」

「はいはい。まぁ頑張るよ」

「それと今日の昼休みだからな。わかってるな?」

「うっ、うん」


 そうだ、今日はいよいよ正体を打ち明ける日であった。

 とたんに及び腰になりかけたものの、ここで怖気づくわけにはいかないと気力を奮い起して立ち上がる。

 よしっ、いくぞ。


「アポとりつけてくる」

「おう。頑張れ」


 ヒガシの励まし声を背に受けて、西園寺の席へと向かう。

 その際にふと、ところであたしはなんでこんなに西園寺に対して苦手意識をもってるんだろうな、という思いがよぎった。だけど、今はそんなこと考えている場合じゃないと慌てて思考の外へとおいやった。



◆ ◆ ◆



 そして昼休みの放送室。

 なんとかアポをとりつけることに成功したあたしは、涙目になりながら西園寺がやって来るのを待っていた。

 なんで涙目なのかというと、今しがた予行練習にと思ってジャンピング土下座を実行してみたら、勢いあまって機材に激突しそうになったから。

 で、機材を回避しようと空中で体をひねったら、そのままバランスを崩して机の角に足のすねをしこたまぶつけてしもうた。骨に異常はないと思うがしばらく転げまわる程痛かったので、明日あたりに酷いアザができてそうだ。


(この技は危険だ。もう封印することにしよう)


 そんなわけでフツーに土下座することに決めたあたしは、西園寺の訪れをおとなしく待っているのだが……遅い。


(何もたもたしてんだよ、アイツ)


 休み時間はそれほど長くはない。

 しびれを切らして探しに出ようかと悩み始めた頃、足音が近づいてくる音がしてカチャリと扉が開いた。

 ようやく、ラスボス西園寺様のおでましである。


「西園寺君、遅いよ」

「ごめん、こちらに向かう途中で呼び止められて、時間がかかってしまったんだ。ってあれ、泣いてるの?」

「ちょっとね。来てくれないかと思ったから」


(ということにしておこう)

 まさかジャンピング土下座の練習をしていてコケましたとは言えず、あたしがその場しのぎの嘘をついてテキトーに誤魔化すと、扉をしめた西園寺が慌てて駆け寄ってきた。


「ごめん。本当にごめん」

「ううん、謝るのは私のほう。今日は伝えたいことがあって――」

「ちゃんと断ってきたから」

「へ?」

「僕が好きなのは鈴木さんだけだから」

「あ?」


 何言ってんだコイツ、と思う間もなく、西園寺があたしをぎゅうぎゅうと抱きしめてきた。

 な、なにこれどういうこと!?

 も、もしや……こいつ、あたしが愛の告白をしにきたと勘違いしてないかッ!?


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