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次!

「で、この杖はどこで手に入れたの?」


 な、何でここにいるか分からないぜ。

 ここは詰め所の取調室だ。

 前にはさっきの姐さん。

 後ろには見張りのごつい大男。左にはひょろ長い人。

 書記っぽい。狭いところに四人ぎゅうぎゅう、心理的圧迫される!


 お、俺は自白なんてしないからな!


 まあ、何もしていないわけだが。

 名前、住所などを吐かされた上、俺は硬いイスの上で身じろぎした。

 俺の目の前には聖賢ラドスギエウの杖のフェイクが置かれている。でも、防護結界を展開されているから触れん。


「作りました」

「は?」

 大体この反応には慣れている。悲しいことにな! 信じてくれねー。

 眼光の鋭い爺さんが部屋に入ってきた。

「お願いします」

 憲兵達が礼をするから、お偉いさんだと思う。

 俺の前の杖を触る爺さん。ああああ、削らないで、俺の作品が!

 でもそんなことをいえる雰囲気ではなく、俺はイスの上で身体を硬くした。

 ふむ、と爺さんはしばらく杖を眺め、魔力を通している様子だった。

「これは」

 魔力の通りに目を丸くする爺さん。そうさ、俺の作品は見た目がそっくりなだけじゃない! 可能な限りギリギリまで性能もまねているのだ! といっても、どこまでいけたかは、実際の杖に触れたことがないからワカンネ。あとは資料を読んだだけである。

「どうですか、エヤム様」

爺さんの名前だろうか? 憲兵の姐さんはやたら丁寧な応対をしている。

「これはよく出来た贋作じゃな。坊主、これはどこで手に入れた?」

 爺さんの眼光がぎらりと俺に向けられる。

 俺は背中がいやな汗でびっしょりになった。マジ威圧半端ナイ。

「これだけのもの、杖によく触れているものでなければ作りだせん。誰から渡されたのか、正直に話せ」

 喉の奥に何か押し込まれたような緊張が走る!


「自分で作りました!」


 俺は悲鳴のように声を出した。

「おぬしが?」

 えーうっそーそれはないってーって言うようなつめたーい眼差しは止めろ。これでもナイーブなんだっつーの。だから何度も言ってるだろ!

だが、俺の作品をバカにされて、職人魂に火がついたぜ!

「ちょっと貸してください」

 俺は杖を受け取った。背中に威圧感がある。後ろの人、何かしたら俺をブッスリ刺すつもりなのが殺気になってダダモレだ。止めれ。

 俺は魔力を通して、黄色いガラスに触れた。そこから光が漏れる。


『この作品は、イスヴァーサル・スルアルメルリアにより制作されました。本物と間違わないでください。そして俺が作ったことを疑わないでください』


と光の文字が溢れ出した。俺署名である。これがないと結構疑われる。昔のトラウマによってつけるようにしたのが、今役立った!

 ヤタには容量の無駄遣いといわれたがな。

「なんと」

 部屋の全員がぽかんとして俺を見た。俺はどうだとドヤ顔で周りを見た。

 ん? あれ? なんか一瞬景色がというより人が変な風に見えたんだが。徹夜のせいか。それはともかく、

「俺は何もしてませんよ!」

俺の主張に、気まずそうに姐さんが身じろぐ。一般市民を連行して取調べだからな。きっちりわけを聞かせてもらおうか!





 想像を超えた事態に俺は口が開いた。


「盗まれたあああ?」


 展覧会で展示していた聖賢ラドスギエウの杖は昨夜何者かに盗まれたそうだ。マジでか。やたら憲兵が多かったわけだ。そして俺が捕まったわけだ。

 俺の贋作が完璧だったせいもあるのだが、誇らしくともそれが今は辛い。

 で、何かを知らないかと聞かれても、俺は一介の学生でただの贋作作成マニアである。知るわけない。

「でも聖賢ラドスギエウの杖だったら、剣聖アウエステラの剣に聞けばいいんじゃないですか?」

 何で見つからないか分からん。

 剣聖アウエステラの剣は、杖の持ち主と双子だったらしい。別々に育った二人が大きくなって同じ王の下に再会するとか言うサーガは今でも有名である。この間キリエも小説を持っていた。持ち主と同じように、武器も同じ職人が作った二つで一対だ。その呼応する力を使えば、何とかなるんじゃないのか? 鑑定士の爺さんが知らないわけがない。

 俺が首を捻っていると、

「坊主はよく知っておるの。だが、今はそれは出来んのじゃ」


 爺さんの言うことには、どうやら隣国へ展覧会で貸し出しているらしい。どうやらもって帰ることは不可能だそうだ。へー。あ、でも。

「じゃあ、俺の剣聖アウエステラの剣を貸しますよ」

と言ったら、なんかかわいそうなヤツを見る目で俺を見るんですがこの人たち。

「おぬしが作ったものか?」

「はい、俺が作ったやつです」

「それに何が出来るんじゃ?」


 ふっふっふ。一年前、剣聖アウエステラの剣を作ったときに仕込んだ機能が今役に立つぜ!

 一年前、俺は展覧会の優待に当選した。「伝説の武器に触れてみよう」という、俺垂涎、まさに俺のためにあるだろう会だったのだ。ヤタは抽選に外れたらしく、かなり歯噛みしていたがな! あそこで俺はさりげなく実際の剣聖アウエステラの剣の魔術式を解析したのだ! 解析と記憶は俺の特技である。で、自分の作品に組み込み、俺作剣聖アウエステラの剣が完成したのであった!

「それが本当だとしても、精度は信用できるの?」

「ばっちり! 多分この式が呼応式かなって言うヤツも複製したし、作家の魔力の癖も真似した」

 憲兵さんがかなり疑いの目を持っていますが何か。

 そんな対応じゃ貸さないだけだ。ぶっちゃけ本物が盗まれたところで俺にはあまり関係ないし。

「ほっほっほ。坊主の力量を拝見してみるかの」

 なんだかいやな表現だが、俺の力を見せてやるぜ!


 俺はあまり深く考えずに剣聖アウエステラの剣を持ってくることになった。


 色々あとで考えて、この時あれがおかしかったって気付いたんだがな! 

 もうちょっと注意力を持っていれば、いろいろごたごたに巻き込まれずに済んだんだが、それはあとで分かった話である。





「遅い!」


 とりあえず家に帰った俺を待っていたのは、キリカの怒りでした。すみません。即効土下座した! 調理中だったせいか、包丁を握り締めて出てきたキリカに勝てる気がしねえ。

 俺の土下座に虚をつかれたのか、

「で、なにがあったの?」

と包丁を煌めかせながらキリカは不機嫌そうな声で問いかけた。

 ちょっとそれをしまいませんかキリカさん。


 で、俺は床に正座をさせられたまま、キリカに学校を出てからのことを話した。静かに聴いていたキリカだが、やがて台所に行き、包丁の代わりに剣を持ってきた。飾り気のない剣は珍しく俺オリジナルで作ったやつだ。なんだかんだいいながら、キリカは愛用してくれているらしい。とうとうこの剣のさびに俺がなる日が来たのかと正直震えた。そこまで怒っていたか、キリカ。

 だが、言い出したのは意外なことだった。

「私も行くわ。いやな予感がするの」

女の勘は俺は信じてないけれど、キリカが言い出したことを引っ込めるとは思えない。

 俺は一も二もなく了承したのだった。ちなみに俺に拒否権はない! 残念なことに首を縦に振る権利しかない。


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