04*勇人の弱点とムカつく点
「おっ、お帰り~」
出迎えてくれたのは乃衣。
乃依は、いつも帰りが早いらしい。
「穂乃香ちゃんっ」
「は、はい?」
「部屋に荷物が届いてるから。おばちゃんからだよ」
「荷物?」
「たぶん、俺たちにも届いたやつだと思う。だから、驚かないでね」
「わ、分かりました…」
みんなにも届いたもの?
荷物って、なんだろう?
とりあえず、自分の部屋へ行った。
ドアを開けると、そこには段ボールの山、山、山。
「うわぁお…」
よく見ると、机やベッド、テレビなどの家具だった。
そして手紙が1通。
おばちゃんとやらからだった。
『穂乃香ちゃんへ
>送った家具は、自由に使ってくださいねっ!
>あと、ほしいものがあれば何でも言ってちょうだい。
>すぐに送ってあげるからね。』
さすがお金持ち…
と言う事は、他の4人の部屋にもこんな家具があるという事だ。
今までとの違いに、かなり戸惑っていた。
――――とりあえず、段ボールから出さなくちゃ
テレビを出してみる。
出すまでは簡単だ。
ベッドも、机も、段ボールから出すだけなら簡単だった。
問題はこれからだ。
組み立て、接続…女1人の力では到底無理。
どうするものか…私は考えた。
誰かに手伝ってもらう?
いやぁ、頼むのがちょっと…
そんなこんな思っていると、勇人がやってきた。
「1人でやるつもりか?」
「いや…やろうとは思ったんだけど」
「ちょっと待ってろ」
そう言い残すと、乃衣を呼んできた。
乃依は、すぐに机とベッドを組み立ててくれた。
勇人は、テレビの接続をしてくれた。
これでこの先、1人で何でもできる。
2人には感謝だ…って、あれ?
勇人のイメージが、違うような…
「あ、ありがとう…ございます」
「いいよぉ。分からない事とかあったら、何でも聞いてね」
「はいっ」
「ついでに、勇人は隣の部屋だから」
「えっ!?」
…隣とは言っても、隣じゃない感覚。
広すぎて、誰がどこの部屋なのか把握していなかった。
この豪邸、まだ知らない部屋がたくさんありそうだ。
私は、ちょっとだけワクワクしていた。
2人が部屋を後にした後、家具を頑張って好きな位置に動かした。
それでも部屋は広すぎる。
壁も何にもない…ポスターでも、貼るか。
――――はぁ…とは言っても、ポスターって何の…あっ!
思いだした。
わずかなおこずかいで買ってもらっていた雑誌。
その雑誌についていたポスター。
…スポーツ関係だから、女の子らしさがない。
でも、この広い部屋に貼るにはちょうどよかった。
1枚1枚、丁寧に貼っていく。
貼っても、やっぱり壁は広く、大きく見えた。
かわいらしいオレンジの時計。
私が好きな色を知っていたかのように、オレンジや黄色でそろえられている部屋。
居心地は、1人にしては広すぎるけど最高だった。
――――こんな部屋に1人でいて、なんかもったいない…
借金に追われていた家族の一員だった私だ。
こんないきなり贅沢させてもらえると、やぱり戸惑う。
この先、こんなずっと贅沢な暮しなのか…
不安だってよぎるわけで。
これが自分の部屋と言ったら、普通の人は驚くって。
ここに両親がいたら…なんて思ってしまう自分。
捨てられた身でありながら、やっぱり憎めない。
あの写真は、机の横に飾った。
辛い思い出と言えばそうだけど、やっぱり家族だし。
重たい話になってしまった…
ベッドでごろごろしていると、ノックの音が聞こえた。
「はい?」
『入っていいか?』
「は、はい…?」
誰の声かよくわからない。
ガチャッ、とドアが開く。
勇人が勉強道具を持ってやって来た。
「分からないところがあるから、教えろ」
――――そこ命令口調…
「頭いいんじゃないの?」
「当然っ!ただ…家庭科は無理」
「な、なるほど…そういう事か」
家庭科の教科書と、裁縫道具を持っていたのだ。
最初は筆箱かと思っていた。
小さいバッグを作るというのが課題らしい。
どうもボタンが縫い付けられないのだとか。
かなり不器用…思った以上に。
「ちゃんと先生の話聞いてたの?」
「聞いてダメなんだから!」
「クラスの女子とか、教えてくれるでしょ?人気なんだから」
「それもそれで―――」
あまりの人気ぶりに、教える女子が殺到して…だそうだ。
分かる気がする。
1日学校にいただけで、どのくらいの人気なのかが分かった。
ちょっと厄介な悩み。
私には考えられない…って感じだ。
「ほら、指気をつけてよ」
「分かってるって!…ってぇ」
「だから言ったのに…」
「分かってるって言ってんだろっ!…ったぁ」
「そんな乱暴な言葉遣いするなら、教えてあげないよ」
「…」
おとなしく言った通りにするようになった。
子供…だんだん可笑しくなってきた。
あれだけ人気の勇人が、まずここまで不器用で。
そしてまさかのめちゃくちゃ子供っていう…
「できたっ」
すっごく嬉しそうに、出来上がったバッグを見ていた。
ふと見せた笑顔が可愛くて…見とれてしまった。
やっぱイケメンと言われるだけある。
スッと整った顔立ちに、ふと見せる笑顔。
モテるという意味がよく分かる。
ただ、私は全然ときめかない。
たとえ笑顔に見とれていたとしても、性格が…
「…サンキュ」
そう言って勇人は部屋を出た。
どんだけ照れ屋なんだか…
そうそう、強がっている割には照れ屋だと言う事が分かった。
だから…なおさらイライラがたまってくるわけ。
強がってるくせして、実際めちゃくちゃ気弱い。
――――なんかむかつく奴だよね…