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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
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忘れないで、嫌って。

作者: 誤字の住人
掲載日:2026/07/27

もし、好きと言った瞬間、

その人の記憶から自分だけが消えるとしたら。


あなたは、それでも「好き」と伝えますか。


これは、誰よりも人を想いながら、

最後まで「あまのじゃく」であり続けた一人の青年の物語です。

「好き。」


その一言を口にした瞬間、彼女は首をかしげた。


「……ごめん、君って誰だっけ?」


笑い話みたいだった。


昨日まで毎日話していた。

一緒に帰った。

くだらないことで笑った。


なのに、たった一言で、全部消えた。


彼女の記憶から、「俺」だけが。


医者は首を振った。


「そんな症例はありません。」


神父は言った。


「呪いでしょう。」


俺はその日から、二度と「好き」と言わなくなった。



人は案外、嫌われても忘れない。


教室で毒を吐く。


わざと冷たくする。


素っ気なく帰る。


「あいつ、感じ悪いよね。」


その言葉を聞くたび、少しだけ安心した。


嫌われている。


つまり、覚えていてもらえている。


好きになるほど、消える。


嫌われるほど、残る。


皮肉な人生だった。



大学で、一人の男に出会った。


「……変な人。」


第一声がそれだった。


笑った。


たぶん俺は、その言葉を待っていた。


彼は人の懐に入るのがうまかった。


俺が冷たくしても笑う。


悪口を言っても笑う。


「そういう優しさしか知らないんだろ。」


図星だった。


俺は初めて、怖くなった。


この人だけは、消したくない。


だから今日も冷たくする。


今日も突き放す。


今日も傷つける。


全部、覚えていてほしいから。



ある雨の日。


彼が泣いていた。


「僕、何かした?」


違う。


悪いのは俺だ。


でも言えない。


言えば、消える。


「嫌いだから。」


精一杯の優しさだった。


彼は泣きながら笑った。


「……嘘つき。」


その一言が胸に刺さった。



卒業式。


彼は最後に言った。


「僕ね。」


「きみのこと、ずっと好きだった。」


世界が止まる。


言うな。


頼む。


俺を好きになるな。


「でも、きみは一度も振り向いてくれなかった。」


違う。


違うんだ。


俺はずっと。


ずっと。


君が好きだった。


喉まで出かかった言葉を飲み込む。


飲み込めば、彼は俺を覚えたまま生きられる。


吐き出せば、俺はまた一人になる。


長い沈黙のあと、俺は笑った。


「ああ。」


「そういうことなら、よかった。」


彼は泣きながら去っていった。


最後まで、俺は嫌な男だった。



十年後。


街角で彼を見かけた。


結婚指輪。


隣には、小さな女の子。


幸せそうだった。


その笑顔を見て、俺は初めて思った。


これでよかった。


彼の人生から俺は消えなかった。


それだけで十分だ。


俺は背を向ける。


そのときだった。


「……ねぇ。」


振り返る。


彼は不思議そうな顔で俺を見ていた。


「どこかで会ったこと、ありましたっけ?」


胸が少しだけ痛んだ。


でも、笑えた。


そうか。


人の記憶は、呪いなんかなくても、少しずつ薄れていく。


俺が必死に守ろうとしたものも、

時間には勝てなかった。


「いいえ。」


俺は首を振る。


「初めまして。」


そう言って歩き出す。


あの日、飲み込んだ「好き」は、

誰にも届かなかった。


だけど。


たった一人だけは知っている。


俺が世界で一番あまのじゃくだったことを。


——それは、俺自身だった。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


この物語は、「好きだからこそ離れる」という、少しひねくれた愛の形を書いてみたいと思って生まれました。


主人公は最後まで「好き」と言えませんでした。

それが正しかったのか、間違っていたのかは、読んでくださった皆さんに委ねたいと思います。


少しでも心に残る物語になっていたら嬉しいです。

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