始まりはSNSから 3
刑務所生活二日目は、昨日収容された全員が集められ朝から刑務官による仕事の割り振りが行われます。仕事を一切行わないという選択も可能なようですが、一週間もすれば何も食べられなくなるのでさすがにそんな選択は選べません。
ハットはゴム製品加工の職場に配属され、明日から先輩収監者に仕事を教わりながら働くことに決まりました。
ただ今日の本題はこの刑務所内での過ごし方についての周知徹底で、特に早く出所したければ働いてお金を貯め、刑務所長を通じて国家に寄付することで刑期が短くなるという話は力がこもっていた。この刑務所内ではそれは賄賂ではなくあくまで国家への寄付行為としてみなされるため、刑期も恩赦によって短くなると言う。
「内緒の話ではあるが、どうしても手に入れたい物があれば刑務官に相談してくれ。どのような物が必要でいくら出せるかによって考える。ここでは経済的思考と取引が常に優先されるのだ」
――タバコくらいは手に入りそうだな、酒も大丈夫かもしれないな。
――刑務官と組んで利用すれば一儲けできるかもしれない。
刑務所内で生きていくためにはお金が必要だが、働いてお金さえ得られれば自由で快適な生活を送ることができると考える収監者たち。収監された時点で第一二ランクに落とされ、出所しても第一一ランクの犯罪者・出所者というレッテルが張られる。
そんな低ランクで仕事も居住地域も何もかもが制限される事を思えば、刑務所内のほうが快適に暮らせる。さらに刑務官と組んで一儲けすれば、出所するよりもはるかに快適な生活を送ることができる。
また刑務官の大半は第九ランク(自己破産・ギャンブルや酒依存等、要監視者)または第一〇ランク(犯罪者の家族)の人で、たまたま刑務官という最下位国家公務員に抜擢されて第五ランクになった人たちです。同じ第五ランクの農林水産業の人たちとは区別されており、実際には低ランク出身者として身分も給料も低く抑えられたまま。
収監者と刑務官は洗浄党が作ったランク分けによって苦しむことを思えば、刑務所で気楽に生活するほうが絶対に楽だという歪な思考に走るのも仕方がない。
でも収監者や刑務官の中にも、先を信じて生きていこうとする者もいるのだが……。
刑務官からの話は午前中に終わり、ハットはブルと昼食を取っていました。周りで監視する刑務官や警備システムの存在を忘れそうになって、午前中の話からつい刑務官や刑務所への批判を口にしそうになる二人ですが、そのたびに別の収監者が二人の足を叩いて諫めて現実に引き戻してくれる。
でも不思議で、絶対にハットたち二人の会話は刑務官の耳に入っているはずで、話が盛り上がりつつあるとなぜだか刑務官が背を向けるのです。何かの合図かもしれませんが、とにかく怒られて連行されることはありませんでした。
昼食の後は明日から働く職場への挨拶と、職場での諸注意や仕事の要領などを聞いて二日目が終わった。
この刑務所に入れられて不思議に思ったことがある。刑務官はもっと高圧的で逆らえば懲罰房へ入れられる、刑務所にはそんなイメージを持っていたのですが、不正が蔓延り収監者と癒着するためなのかもしれないが妙にやさしく接する刑務官が多い。
房にいる先輩収監者たちも、房から出て自由に行動する収監者たちからも悲壮な表情は見受けられず、意外と笑顔が見られる。
「おい、ハット、そんな険しい顔はここではしちゃダメなんだぞ」
夕飯を食べ終わって雑居房に戻ったハットは、牢名主のグリーンに声を掛けられた。
「でも、刑務所に入れられていますから、ニコニコとはできないです……」
「ハット、もっと奥に来て壁側を向いて座れ」
グリーンに指示されたハットは、格子から離れて房の奥の方へ移動して壁側を向くように座り直した。
「ハット、ここの警備システムは険しい顔をする者は何かを企てると検知する。だからみんなイヤでもにこやかな顔をしているんだよ」
「もしも検知されると……」
「処刑されるよ」
収監者と同じように刑務官たちもにこやかな顔をしている人が多い。刑務所での処遇に反感を抱いているのではないかとシステムに検知されれば刑務官だって処刑される。だからにこやかな顔をしながら刑務所長の指示通りに動く人が多い。
しかし刑務官の中にも、にこやかな顔をしながら刑務所内での待遇や洗浄党の方針などに反感を抱く者もいる。オルダヤの現状を憂い、SNSに投稿した不満の書き込みに共感する刑務官も存在する。たまたま刑務官として最下級の国家公務員になれてはいるが、婚姻や居住地域のことになると彼らは元のランクとして扱われることが多いからだ。
それだけに洗浄党に対する不満はハットたちと同様に持っているから、収監者たちに同情的に接する刑務官もいます。ハットとブルの会話を聞いているはずの刑務官が、聞いていないふりをして背を向けるのもこれが理由です。




