密入国者か正義のヒーローか 3
騙されているのか、それとも何かの罠が仕掛けてあるのか。三人はどうしたって疑心暗鬼に陥る。しかし勢ぞろいしたヒカルゴの首脳たちは笑顔を絶やさずに三人に話し掛けてくる。やはり洗浄党による独裁国家が曲がりなりにも機能していることに興味があり、ヒカルゴも同じような独裁国家を目指しているからかな。
「SNSに洗浄党に関する批判を綴っただけで禁固四〇年とか四五年ですか、まさしく独裁国家ですね。そんなオルダヤの、しかも刑務所からよく逃げ出せましたね」
「でも悪法も法です。決まりを破って投獄させられ、そして脱獄したわけです。褒められる行動は何もしていません」
「そうです、俺たち……、私たちは隣国オルダヤの脱獄囚です。こんな振る舞いをされる理由もありません」
ホフマン大統領に脱獄したことを問われた三人ですが、自分たちが良い行動を取ったとは思えないので、ペトとブルはこんな答えを返した。
「確かにそうとも言えますね。しかし、あなたたちは公正な感覚を持つ刑務所職員によってオルダヤの将来を託され、そのために脱獄をエスコートしてもらった人たちだ。確かに脱獄なんて褒められるものではないが、これから先はオルダヤのために、いやその他の国も救うために立ち上がらなければいけない人たちだ」
――洗浄党によって祖国オルダヤがおかしな方向へと進んでしまい、祖国を立ち直らせるために選ばれて脱獄したのが俺たち三人だ。ここから何をどうすれば良いのかはまったくわからないが、とにかくそんな使命を帯びているんだ。
ブルは勇ましいことを考えていました。
――他の国を救うためにって一体どういうことなのだろう。
ブルとは違い、ペトとハットはまた別なことを考えていた。
「そんな使命を負っているから生きてわが国に流れ着くことができた。もしも神様が君たちではないとお考えならば、わがヒカルゴに生きては流れ着かなかったはずだし、もし生きていたとすれば、オルダヤに戻されているはずだ。私はそう確信しています」
「俺たち……、私たちが自由になるために脱獄させてもらえたのではないもんな、そこを忘れちゃダメなんだよ。今でも祖国では目に見えない鎖に繋がれ雁字搦めになりながら生活している人がたくさんいる。その人たちを助ける使命があるんだった!」
大統領の力強い言葉に、ブルが立ち上がって宣言するように言い放った。
「リーダーのハット君は君かな?」
「いえ、俺……、私はブルです。ハットはこの一番年下の彼です」
「僕はリーダーなんかじゃないです、高校も卒業できず何も知らない人間ですから」
ペトとブルに指を差されたハットは、謙遜しながら大統領に話した。
「ハット、脱獄するまでは刑務所長代理のシンが主導し、ハットは私たちに付いて来るだけだった。でも刑務所から出た途端に、君は勇敢で的確な判断をしたじゃないか。狙撃されて死ぬくらいならば、サメに喰われて死んだほうがましだと海に飛び込んだ。そして私たち二人もそれに続いたから助かったんだ。十分リーダーとして引っ張っているじゃないか!」
「ペトの言うとおりさ、ハットが海へ飛び込まなければ、俺たちはボートの中で身をかがめて撃ち殺される瞬間を待つだけだった。ハットの判断があったから助かったんだよ」
「でも、僕なんて……」
「ハット君、リーダーと言うものは自分で手を上げるだけではダメなんだ。君のように仲間に信頼され、初めてリーダーになれるんだよ。そこにはきちんとした理由があるから君を信頼しているわけです。そして私も君を信頼している、ハット君、どうかヒカルゴを救ってくれ」
ペトやブルだけではなく、大統領や大臣など国の主要メンバーが一斉にハットに対して拍手をした。まぎれもなくハットにヒーローになってほしい、この国を助けてほしいという、心から待ちわびたヒーローの誕生を祝う拍手です。
その様子に顔を真っ赤にしたハット。恥ずかしさからではなく、高ぶる気持ちを抑えられずに紅潮したのです。でも冷静さも持ち合わせていて、ヒカルゴを救ってほしいという言葉に違和感も覚えていた。
「私はヒカルゴの諜報機関である国家安全情報部で長官をしています、ミスティ・パガーノです……」
ここからは諜報機関の女性長官がヒカルゴの現状を三人に説明した。
タレントとしてヒカルゴで人気があり、後にオルダヤで洗浄党を立ち上げて今は党最高顧問となったトクル・カストの影響で、ヒカルゴでは洗浄党の人気が高まっている。その高まりに乗じて洗浄党の支部がヒカルゴ国内にできた。今は支部ではなくヒカルゴ洗浄党が結党されて所属する地方議員が増えており、徐々にではあるが中央(国会)議員も増加している。
ヒカルゴ洗浄党は積極的に国や自治体から民間へ権利や業務を移譲する案を示し、国民の多くが税金の無駄遣いをカットできると歓迎したことでこの動きが加速した。また長らく世界の大国として君臨してきたアストル中心の外交から、チカリヤ共和国との交流を盛んにすることで、さらにヒカルゴを発展させようとの問い掛けに多くの国民が賛同した。
ヒカルゴの企業はチカリヤへの進出が果たせて利益は莫大なものとなったが、その反面チカリヤからの移民の増加で、ヒカルゴ国内にチカリヤの一地方都市のような街が生まれたり、ヒカルゴの大企業のトップにチカリヤ出身者が就くことが多くなって実質的に企業が乗っ取られるなど、国内の富裕層は移民ばかりの状態が目立ってきた。
これ以上洗浄党に任せておくことはできないとの動きも出てきてはいるが、まだ洗浄党こそ正義だと信じる国民が多い。洗浄党を信じる国民の声を利用して議員定数を削減し、それまでの有力な議員を落選へと追いやることで地方も中央も洗浄党所属議員による議会の独占が進んでいる。こういった状況となり、国内では意見が二分される状態になっている。
ここまではヒカルゴ国民が実感として理解していることだが実は……。




