俺、思うんだよね……男でも可愛ければいいじゃないかって
「きゃあ!」
「どうした?!」
不意打ちか?
きららが対応できなさそうなら、俺がヘイトを――。
「きらら、それは狙いすぎだよ? 僕も嫌いじゃないけど」
「も~、なにこれ~。とりもち? やーん、江口くーん、とってとってぇ。写真撮ってから、やさ~しくこの白濁としてねちょねちょした液体も取ってぇ?」
「【ファイヤーボール】。僕、男には興味ないから」
「んぎゃあ、ハァハァ……江口くんったら照れちゃっても~。ん~、このパリパリになったとりもち、おいしい!」
ダンジョンで実際に死なないからこそ、こうして誰かが前を歩くだけでトラップを強制解除できる。
肉壁――いや、変態……でもなく、頼れる仲間がいるのは正直ありがたい。
即死系のトラップ――たとえば「膝に矢を受けてしまう」だとか、「親方、空から天井が!」だとか――が出てきたら、インディでもなきゃ回避は無理だ。今回はトリモチトラップだったからいいけど解除なんて、なおさら――。
……ん?
なんだ。
急に、意識が――。
「あん? なんだ? 鼻がムズムズすんな……おい、なんかやべぇぞ!」
「ハァハァ……これ、なんか興奮して……」
これ、何かしらのトラッ……ぷ……。
「り、莉奈人? どうしてきららに、にじり寄って来るのかな~?」
「きららさ、可愛いよね?」
「きゅ、急になにさ。きららが可愛いのなんて今さらじゃん~」
「俺、思うんだよね……男でも可愛ければいいじゃないかって。アストルフォきゅんだって、フェリスたんだってイケるんだからいいじゃないか。むしろ男の娘――最高じゃないか!」
「ちょっ、にじり寄ってこないで! アイドルにおさわり厳禁……」
「ンふーンふー。ねぇ、江口ちゃんってイケメンよねェ。わたし、もう我慢できないわァ。ほら、無限の愛ッに抱かれなさァい?」
「いや、僕はちょっと遠慮したいかなぁ……」
「遠慮しなくてもいいのよォ? ほぅら、江口ちゃんの大好きな大きい胸。おしりも自信あるわよォ? ほら、試してみなさァい?」
「いや、それは胸というか胸筋と大臀筋……」
「「さぁさぁ!」」
「「ぎゃあああああああああ」」
素晴らしい。
細いラインに、確かな男らしさ。
しなやかで、透き通った肌を流れる汗。
……たまらなくいい。
これが男の娘。
どうして俺は、今までこんなにも身近にある素晴らしい物に気づかなかったのか。
「ちょっ、莉奈人……んっ! そこは……」
「さぁ、激しくしてあ、げ、ル」
「筋肉が! 筋肉がぁ! 僕は同じ胸でも柔らかいほうが!」
「大丈夫よォ。愛があれば、そんな問題は些細なことじゃないわァ」
男四人でくんずほぐれつ、先ほど取り切れなかったとりもちが互いに絡み合う。
「ったく、見てらんねぇな。一体どうなってやがる? 目がハートになってねぇし、催眠の類じゃねぇ。さっき感じた鼻の違和感……発情ガス? いや、それなら俺が発情してねぇのはおかしい。となると惚れ薬か? なら【キュア】」
「ハァハァ、きららたん、きららた……ん?! うぉおお! ご、ごめん!」
「あらァ? わたしとしたことが、我を失っていたみたいねェ。ごめんなさい」
や、やばかった。
完全に自我を失ってた。
なるほど。
とりもちで足止めして、その間にガスを散布するトラップか。
下手したら、ここで全滅だった。
京のおかげで助かったな。
「ようやっと元に戻ったか。感謝すんだな。おい、襲われた二人は大丈夫か?」
「う、うん。きらら、正直ちょっと襲われるのも悪くなかったかも……」
「ハハハ、筋肉が、筋肉が……当分は巨乳物やめとこ、僕は莉奈人と違ってそっち系の趣味ないんだ」
俺もない。
ぜひとも、やめていただきたい。
「ま、仲間内でそんな関係になっても、めんどくせぇだけだしな」
「うふふ。分からないわよォ? 危機的状況を愛の力、らぶぱぅわ~で乗り切れるかもしれないわァ」
「確かにあるかもしれねぇな。なぁ? きらら、莉奈人?」
「ごめんね、莉奈人。きららは、きらら以外愛せないの……」
「え、なんで俺、振られたみたいになってんの? いや、そもそもないから。今までだって似たような状況は多々あったけど、最後のラインは越えてないし?」
そう。
全身ローションのきらら、服だけ溶かすスライムにやられた、触手に捕まったきらら――色々あったけど、ラインは越えてない。だから俺にそっちの趣味はない。ないったらない。
「でも莉奈人、男の娘系の同人誌よく買ってるでしょ?」
な、なぜそれを。
「ふっ、僕を甘く見ないでほしいね。僕ほどエロを極めた男になると、視姦するだけで性癖が分かるんだ」
「あ? でもてめぇ、童貞だろ」
「浅いよ、とても浅いよ京。……まぁ、確かに童貞だから3次元じゃわからないけど」
「江口ちゃん、顔はいいのに、もったいないわねぇ」
顔だけは、ね。2次元以外には興味のない変態。情報を加えるなら、この変態に苦手な性癖はない。――その一言だけで、この男のやばさがよく分かる。
「にしても、結構凶悪なトラップだったね……」
「中層も後半戦に入ってきたのかな。そろそろ、きららが対処するのも限界なんじゃない?」
「シーフの仲間探すの~?でも、きらら的には新しい仲間はちょっと怖いかも。ほら、きらら可愛いし?莉奈人は意気地なしだから良かったけど~、あんまり仲良くない人に襲われるのは嫌だな~……」
「そうよねェ。わたしも襲われたくないわァ」
……ノーコメントで。
こういう話題に突っ込むと、ろくなことにならないってハンムラビ法典にも書いてある。
とはいえ、確かに死活問題ではある。えろトラップダンジョンに挑んでいるのに、トラップへの対処方法がごり押し一択というのは心許ない。今は大丈夫でも、近い将来、必ず限界が来る。
「じゃあさ、どんな人ならいいの?」
「僕はもちろん……「俺は一緒に冒険を楽しめる人がいいかな!!」えー、言わせてよ」
「どうせ、えっちなおねえさんとか言うんだろ?」
「だから僕を甘く見ないでほしいね……ロリっ子がほしい」
「ロリがこんなとこ来るわけねぇだろうが。それにお前、イエスロリータノータッチとか言ってたじゃねぇか」
「うん?もちろん、ノータッチに決まってるよ?」
その純粋な瞳で言われるのが一番キモい。こいつには自分がキモいという自覚がないんだな。可哀そうに。ある意味、幸せなのかもしれないが……。
「そんなこと言うなら、京はどんな人がいいの?」
「あ?んなもん、強い奴だよ。それ以上でもそれ以下でもねぇ」
「イケメンだとなおいいわねェ。滾っちゃうわァ」
「つまり~、皆の要望を合わせると~?」
「冒険一筋で、きららちゃんに興味を持たず、京ちゃんに並ぶほどに強い、おねぇさんもしくはロリ、もしくはイケメンのシーフってところねェ?」
「無理ってことだね~」
まぁ、知ってた。簡単に仲間が見つかるなら、とっくに加入してもらっている。男でダンジョンに潜るのは下心のある奴ばかりだし、女性は女性で問題を抱えている人が多い。
もちろん例外もいるだろうが、そういう人はすでに安定したパーティを組んでいて、ソロで彷徨っていることはまずない。
「でもさ~、そう考えると~、きららたちってめちゃくちゃいいパーティだよね~!」
「ま、だなぁ。俺もまさか、こんなにしっかり攻略できるとは思ってなかったしな」
「あら、それだけェ?」
「……居心地も悪くねぇな」
「そうよねェ?うふふ、照れちゃってェ」
「いや、でもほんと。奇跡みたいな話だよな。俺、たまに思うんだよね。あれ?これ、なんてラノベ?って」
中学生までの俺に教えてやりたい。今君が読んでいる本と似たような冒険を、信頼できる仲間と一緒にできるんだぞって。
せっかくだし、ラノベ化するのも悪くないな。ふふ、夢が広がる。
「でも驚いたな。僕はてっきり、京は戦えればあとは何でもいいって思ってたよ」
「最初はそう思ってたんだがな……この関係を、どうしても保ちたくなっちまった」
「ね、ねぇ莉奈人。京がデレるなんて、やりの雨が降るんじゃないの~?!」
「降るね、絶対降る!早く、物陰に隠れないと……」
「おい、てめぇら?!」
「やっべ、きららのせいで京の顔、梅干しみたいになっちゃったじゃん」
「莉奈人だって乗ってきたじゃん~」
「はいはい。今はダンジョンの中でしょ?そういうのは外に出てから。中はダメ」
「江口も、たまには正論言うね。気を付けて、ジャンジャン進もうか」
「そうそう、行くよ~。ほら~、きららに早く付いてきて~」
「くそが、外出たら覚えとけよ?」
そう。今はダンジョン攻略中だ。
いくらえろトラップダンジョンとはいえ、中層、しかも後半。さっきのトラップで嫌というほど分かったように、凶悪さは確実に増している。
モンスターだって、さっきはプルプルだったから、そこまで強くもなかったし戦闘経験もあるから問題なかった。でも、次はどうだ?もっと厄介で、もっと洒落にならない相手が出てくるかもしれない。
だから集中しないと。
……いくら後ろから、オデコがピキピキ鳴る音が聞こえていても、だ。
理性が耐えられず……的な作品のおすすめおれば教えてください




